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おうちあわせ

「ただいまおかあさ……」

「おかえりルイス」

「キャ!」

 ライザが背後で黄色い声を上げ、どこかをドアにぶつけた音が響いた。

 この人が話題に出したりしたからだろうか。

 ドアを開けてすぐ目の前に立っていたのはメルシアだった。

「…なんでいるの、おばーちゃん」

 別にいてもいいとは思ったけど……やっぱり面倒だな。

「里帰りだ」

「へぇ…。…ただいまおかあさん!」

「おい」

 メルシアの横を通り抜けようとした俺の頭がガッチリと掴まれた。

「今日はおばーちゃんに用はないです」

「おや、そうなのかい? あんなに『早く見ろ』って言ってたくせに?」

「……見る気になったんだ?」

「なるわけないだろ。それなのにジェイコフのやつ【王命】だとかぬかしやがって…」

 ああ、やっぱりそういうことだよなぁ…。

「もう受け取ったの? そのための魔法書」

「いや、これからだ。婿さんが居なくてな」

「……それって譲渡と露出の本? こっちも急ぎで譲渡の本を使いたいんだけど……確かあんた、一冊持ってなかったっけ? それ貰えない?」

「あるにはあるが。譲渡する甕はお前に入れるんだろう? だったらその時にあたしが見れば済む」

「それが、俺の方は魔力を入れると色々出てくるかもしれなくて」

「…なに?」

「ルイス? あ、やっぱりあなたの声だったのね!」

 家の方へ行っていたのか、エマルダが奥からパタパタと急ぎ足で戻ってきた。

「ただいまおかあさん。…おとうさんは出掛けてるの?」

「王宮に魔法書を納めに出てるわ。緊急で大量に転送と回復魔法系の本の依頼があってね」

 ナイトメア戦で使った分の補充だろうか。

「なぁに? ルイスもおとうさんに用事なの? おかあさん淋しいわ」

 エマルダがわざとらしく目元にエプロンの裾を持っていく。

「泣かないでおかあさん。僕、おかあさんにすごく会いたかったよ」

 エマルダに駆け寄り、ボリュームのあるスカートの布を両手でギュっと握って顔を見上げる。

 俺の顔をあたたかい両手が挟み込む。強めに。

「ルイスぅ〜、だったらもう危ない旅なんて辞めて戻ってきなさいよぉ〜。おばーちゃんももう一緒じゃないんでしよ?」

「うぅー、れもほかろみんらはやらしいし…たみもたろしいから」

 ほっぺたが押し潰されてうまく喋れてないけど親なら聞き取れるんだろう。エマルダは『でもねぇ』と続けた。

「遠い村では人を操る凄く強い魔物が出たらしいの。ルイスがもしそういうのと出遭っちゃったらと思うとおかあさん怖くて怖くて」

「……」

「お願いだから他の人達が討伐軍に参加するって言ってもルイスは付いていったりしないでね。……ね?」

「…あい」

「うん、素直で良い子ね!」

 ほっぺたがグリグリ捏ねられる。

 そしてエマルダがやっと入り口近くから動かないカラビウとライザを見つけ、俺を解放した。

「っと…ごめんなさいお構いもせずに。お二人はルイスと同じ退魔団の方たちかしら?」

「カラビウと申します…その節は大切なご子息にとんでもないことをしでかしてしまい……」

「え?」

「あーーー!」

「…ルイス?」

「僕が紹介するね!! 仲間のカラビウと、今だけ一緒のライザさんだよ! どっちも魔法使いなんだよ!」

「そうなの……それで、とんでもないことって?」

「え? なんのこと?」

「さっき彼が言ったでしょ? どういうこと?」

「そっ……えっと、そ、そう! カラビウって、僕が倒そうとしてる魔物をすぐ横取りしちゃうんだよ。全然僕の力を信用してないの」

「あらそうなの? それはありがとうございます」

 ペコリと頭を下げる母。

「いっ、いいえとんでもない!」

「カラビウ! ほら、うちの魔法書の品揃え見てよ! コレとかコレとか、珍しいと思わない?!」

「え? あぁ…ホントだね、あ、コレこの前使っちゃったんだよなぁ…」

 折角話が届いてないのにわざわざ問題事を知らせて騒ぎにしてどうするんだ全く……雰囲気で気づいてくれよ。

「おとうさんにも二人に会って欲しいんだけど……いつ頃帰って来るかなぁ? 僕たち、すぐに戻らなくちゃいけないんだ」

「そうなの? 夕食までには戻るって言ってたけど、待てるかしら?」

「ライザお姉ちゃん、大丈夫かなぁ?」

「えっ?」

 呼びかけられてハッとした顔で視線をメルシアから俺に移すライザ。

 ……もしかして全然聞いてなかったのか?

「……アデギウスたちが山から木材を運んで下りてくるまでにどれくらいかかるか分かる?」

「あ、きっと早くても夜…それか安全策で明日の日の出を待つかも」

 時間があるなら探し回るより待っていた方が確実か。

 だとしてもエマルダとカラビウを長時間一緒にいさせるのは厳しい。

 事情を知っているメルシアもどう動くか分からないし。

「それじゃあちょっとだけおばーちゃんと一緒に出掛けてくるね!」

 そう言ってメルシアの手を握ると、メルシアが

「あたしもかい?」

 と、不満げな声を出した。

「行こうよおばあちゃん。僕が強くなった所を見てよ」

 別に見せるようなものは無いが誰も口を挟んでこないうちにここから一旦退避してこの人と打合せをしなくては。俺は我儘な孫を装ってメルシアの手をグイグイ引っ張り店の外へ連れ出す。

「暗くならないうちに帰って来なさいね~」

「うん、わかったー」

 母に手を振り、ドアを閉めた。

 思わず漏れたため息にカラビウが反応する。

「大変そうだね、二重生活」

「……その言葉はイメージが悪いからやめて」


 以前オザダと花を摘んだ草原にやって来た。

 村からは少し距離があるので普段は誰もいない静かな場所だ。

「で? どれだけ強くなったって?」

 早速メルシアが草の上に腰を下ろした。

 俺たちもその近くに座る。マグマは蝶を追いかけている。

「そんなにすぐ強さが変わるわけないでしょ。馬一頭なら入りこんだけど」

「ドラゴンの次はナイトメアとはね。次は何だい? 炎蝶かい? 海皇かい?」

「それは知らないけど……もしかしたらカラビウの斧の時みたいに魔力を注いで蓋が開いたらそいつらが纏めて出てくるんじゃないか、って話になってるんだ。だからむやみに開けない方が良いかと思ってて」

「ふむ……赤い翼が出たんだったか」

 何の話? とライザがこちらの会話を遮らない様にこっそりカラビウに問いかける。カラビウはジェスチャーを加えつつ一人で二役をこなしてライザに説明をした。その動きが面白いので、ついこちらの会話も止まってしまった。

「…だからさ、魔力譲渡はこのライザさんに使わせたいんだけど今回は取り敢えずカラビウに入れようかと」

「わざわざ譲渡しなくても外してストックに回したら良いじゃないか」

「棚に空きがあるのに手持ちを入れてないのは変だろ。持ってる甕の数を減らして弱くなりたいんだよ」

「すみません、将来が掛かっていまして……」

「男がらみかい?」

「! あ、えっと、はい……すみません」

「謝ることはないさ」

 申し訳なさそうにするライザにメルシアは笑って見せた。

「ひゃッ! ぁアァ~ッ……」

 その笑顔にライザが興奮し隣のカラビウをバシバシ叩きだした。

「ところであんた、どこかで見た事がある顔だね」

「えっ?! きゃ~!! メルシア様が覚えててくれた~!」

「グェ」

 カラビウがうめき声をあげてその場でのたうつ。暴れ狂うライザの拳が鳩尾に入ったようだ。

「ライザさんは前にあんたに会いに来て魔法書を買っていってくれたそうだよ」

 会話が出来そうにないライザの代わりに説明してやると、メルシアが何かを思い出したようだった。

「……ああそうか、店で暴れて本棚を全部倒した子だ」

 は?どういうこと?

「あの時はホントにすみませんでした! 距離が近すぎてドキドキしてしまって」

「今は大丈夫かい?」

「や、あ、あの、これ以上はチョット……」

 手を伸ばしてくるメルシアから逃げるようにライザが体を仰け反らせる。

「女のあたしにまでそんな反応をするのも珍しいよな。そんなんでその好きな男とは大丈夫なのかい?」

「え。えーと……」

 ライザの目が泳ぐ。

「そのための甕減らしなんだよ」

「ふうん? まぁ譲渡の本についてはそれでいいさ。ただ、甕の移動先はルイス、露出であたしが見に入る。そこは変えない」

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