里帰り
「カラビウ、転送頼める? 家に帰りたいんだけど」
「ルイスの家? 残念だけど行ったことがない場所への転送は出来ないんだよ」
「あ、そうなんだ? …じゃあ王都へ」
「王都? 今王都へ勝手に行くのはマズいよね、主に君が」
「そう言えばそうか……困ったな」
村までマグマで飛んで行くとどれぐらいかかるんだろう。
「…本当はどこに行きたいの?」
「え」
「どうにか出来る手掛かりがあるんでしょ? どこ?」
ライザが真剣な目で見つめてきた。
「えっと、リュゼ村っていうところ」
「……リュゼ…ってひょっとして、メルシア様の魔法書店がある所?」
「あー、昔はね。今はその娘が継いでるよ」
「そうだったわね、あの人が現役復帰するって聞いたときは退魔師連中がざわついたもの」
「ルイスはそのメルシア様の御孫さんなのですよ」
「えっ! そうなの?!」
カラビウが自慢げに言うのはどうなんだろうと思うが……まぁいいか。
「あたし実はメルシア様みたいになりたくて魔法使いになったの。どうしても一目会いたくて学校を卒業してすぐにメルシア様の魔法書店に魔法書を一式買いに行ったのよ」
「へぇ……」
田舎の魔法書店の品揃えなんて珍しくもないだろうに…昔はライザみたいにメルシアに会いたくて来ていた人が沢山いたのかもなぁ。
「だから、行けるわよリュゼ」
「ホント?!」
「ええ。でもそこに何があるの? ひょっとしてメルシア様がいるとか?」
「それはないかな。まぁ、居たらそれでも良いんだけど…必要な本がそろそろ出来てる筈なんだよ」
「ルイス?!」
いつもの転送の光が消えたのと同時に聞き覚えのある声で名前を呼ばれた。
牧草地の一面の緑の上にオレンジ色のドラゴンが降り立つ。
「どうしたの? …この方たちは?」
「シェマ、久しぶり! ちょっと家に急ぎの用事なんだ。こっちはメルシアの代わりに入ったカラビウ、こっちはシェマの代わりに入った竜騎士の彼女のライザさんだよ」
「かっ……彼女?! 〜〜っ!!!」
ライザが顔を赤くして彼女という言葉に浸っている。
「マリー姐さん!」
一緒についてきたマグマがマリーに突進していく。ぶつかる直前にマリーがフワリと空に逃げたが、諦めないマグマが追いかける。そうしてクルクル回りながら二人でどんどん上空に昇っていった。
「皆は? ……! もしかしてナイトメアの…」
「あれ、知ってるの?」
「王都の病院が一瞬で満床になって、一晩でカラッポになったって聞いたわよ」
「そっか、やっぱり寝ると解ける術だったんだ。心配しないで、今だけ別行動だけどみんなも元気だよ。……その話題って俺たちの事が細かく伝わってたりする?」
「いいえ? やっぱり何かあったの?」
「ううん、大丈夫。村の人達も変わりない?」
「ええ、毎日長閑よ。…ごめんなさい、家に急ぐんだったわね」
シェマは上空のマリーに戻るように声をかける。
降下してくるマリーに成長を見せるかのようにマグマが彼女を追い越して先に降り立った。
マリーがそれに何か反応するわけでもないんだけどな。
「私達も見回りを終えて家に帰るところなの。良ければどちらか、こちらに乗りませんか?」
「僕は結構ですよ、自力で飛べますので」
カラビウは自慢げに言った…正確には馬力。
残してきてトラブルになってもいけないので、ロッジャルをカラビウに持たせているのだ。
もちろん装着していたガララからはカラビウに取り外させ、俺は目を合わせないようにした。目立っても良くないので今は服の内側に入れてもらっているので安心だ。
「あ、じゃああたし……でも…実はドラゴンに乗ったことが無くて」
ライザが遠慮気味に一歩前に出て、すぐに二歩後ずさりした。
「マリーさんはとってもきれいに飛ぶから初心者でも安心だよ」
「ええ、そのとおりよ。どうぞ、前と後ろだとどちらが良いかしら?」
「えっと、じゃあ後ろで」
戻ってきたマリーは体勢を低くしてライザが乗り込むのをじっと待つ。
「念のため私の腰に手を回しておいてね。……じゃあ行きましょうか」
バサ、とマリーの大きな翼が広がる。
俺もマグマに乗り込んだ。
「カラビウは後ろを付いてきて」
「ああ、大丈夫だよ」
離陸したマリーの後を追ってマグマも地面から足を離した。
空からだと家まではすぐだな。
「っ!……、……っ、」
「……。……」
ライザとシェマが何か話しているようだ。風の音で聞こえないが、もう打ち解けているみたいだ。
数分で我が家の上空へ到着した。
道に誰もいないのを確認してマリーが先に降り、続いてマグマも着地した。
「…変らないわよ。ね、ルイス」
「へ?」
マグマから降りたてで話を振られて変な声が出てしまった。恥ずかしい。
「ドラゴンを飼い始める時に色で選ぶのはどうなのかっていう話だったの。それで、どの子を選んでも家族として大切にしなきゃいけないのは同じことよね、って」
「あー、うん。そうだね。俺はもうちょっと選べれば良かったんだけどね」
「またそんなこと。随分と息が合ってきたように見えるわよ」
「そうかなぁ…」
「そうよ。ちゃんと成長してる。どっちも」
最初に乗り方を教えてくれたシェマにそう言って貰えるのは素直に嬉しいことだ。
「ありがとう」
「そうだわ、今ダリアちゃんは部屋でお昼寝中なのだけど」
「あ、だったら起こさないで。どうせ用事が済んだらすぐ戻らないといけないから」
「そう…じゃあまた今度、近いうちに」
「うん、必ず」
シェマに手を振り背を向ける。
そして、忘れずに深呼吸。
……。うん、大丈夫。
二人には前もって注意してある。
気合を入れて、魔法書店のドアを開けた。




