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お留守番します

 工場側に戻り、氷の溶けたハーブティーを飲み干す。

「どうかしたか? 少し顔が引きつってるようだ」

 人の顔色を見るのが得意なオザダにはすぐに異変を気づかれてしまう。

「昔の知り合いっぽい」

「?! じゃあ俺とも…」

「いや、オザダとは別のときの……俺の奥さんだった人みたいだ」

「…………そうか……」

 どういう意味の『そうか』なのかわからないが、それ以上踏み込んで来ないのがオザダだ。

「…よし。さあ、お待たせして悪かったね」

 ディノーが木材の確認をして丸鋸刃を片付けると工場の中が一気に静かになった。

「じゃあ見せて貰える?」

「よろしくお願いします。化粧台の脚なんですが、本来はこういうものでして」

 ロディが取り外してきた化粧台の脚を二本手渡した。

「……うん、シリリシの木だよね。とても堅くて色味が特徴的だから間違いないだろう」

「こちらで同じものは作れますか?」

「木材があれば、だね。チット山の特に危険な場所にしか生息しない高価な木だからなかなか在庫で持っている所は無いと思うよ」

「やはりそうなりますか。分かりました。行ってきます」

 ロディは想定内だと頷いた。

「行くなら魔物たちは連れて行けないからここに置いて行くといい。木の種類はアデギウスが見れば分かるだろうから心配いらないよ」

「……分かるかな?」

 アデギウスが不安そうにするが、ディノーは構わず続ける。

「生息場所は山の9合目辺りで、斑点模様の巨大な猫が縄張りにしているから気をつけて。とても動きが機敏で獰猛なヤツだぞ。それと、出来るだけ山を荒らさないように頼むよ」

「分かりました。……では早速行こうか」

 チット山へ行っている間は魔物達は工場脇にある木材保管場所の空いているスペースで待機することになった。

「俺も行きたい」

「ボクも行きたかったです」

 不満の声が上がる中、ガララと丁度目が合った。

「私は我儘を言わないと思っていますか? もちろん私も同行したいと思っていますよ」

 と、やはりこちらも不機嫌だった。

「仕方ないよ、すぐ戻るからちゃんとここで待ってて」



「ダメですね、許可出来ません」

 入山申請所でロディが代表して全員分の申請書を記入して出したところ、受付担当の女性から一枚だけ弾き返された。

「何故ですか? どこに不備が?」

 そう尋ねたロディに少し苛立ったように女性は書類を突き出し、下の方を何度もパシパシと指で挟んで強調する。

「こちら! しっかり読まれましたか?! 文字は読めますか?!」

 よく見ると誰も読まないことを前提にしているような細かい文字で注意書きが何行か書かれていた。

「【以下はいずれも入山不可とする。1、高齢者。2、自力で登及び下山が不可な者。3、15歳以下の者。4、退魔師ランク無保持者から保持しているランクの最高C以下の者】です。こちら、明らかに子供ですよね。そして貴方、この子の分だけ意図的に年齢を記入しませんでしたよね?」

「この子は大丈夫ですよ」

「貴方の意見は必要ありませんし必要なのは退魔師の身分証明と必要事項がすべて正しく書かれた書類のみです!」

「ヒィッ!!!」

 受付女性の凄味に悲鳴を上げたのかと思ったが、カラビウがオロオロと落ち着かなくなっている。

「どうしたんだカラビウ?」

「あの…ごめん、バッジがまだ見つかってなかったを忘れてて……」

「! そういえばそうだったね…あるとすればジェイコフ様の所か……」

 ロディが顔をしかめた。

「そちらは身分証が無いのですか? なに様でしたっけ? 貴方も受理出来ませんよ」

 申請書の中からカラビウの分が引き抜かれ、俺のと同じように弾かれた。

「…他の方々は身分証を呈示してくださればすぐにお通りいただけますが?」

「二人には残ってもらうしかないんじゃないスかね?」

「けれど、入ろうと思えば入れるんだろう?」

 ロディはどうにかして全員で行きたいようだ。

 それを見て受付女性がウンザリした様子でカウンターを指でトントンと叩いて音をたてる。

「正規の入山手順をふまない人物は監視の魔法使いが発見次第映像を残し、要注意人物として国へ報告されます。その後人物の特定がなされてランク試験を始めとして様々な場面で付きまといます。詳しくはこちらのカウンター前に貼ってあるポスターをご覧ください」

 カウンターの前面パネルに何枚かのポスターが貼られていて、その中の一枚に【ストップ! 無許可入山】という大きな文字と、無許可入山者の発見率と制限される項目が色々と書かれていた。

「ロディ、俺、これ以上の面倒事はちょっと困るかも」

「申しわけない。僕もだよ」

「……仕方ないか」

 諦めたロディが勇者のバッジを取り出した。

 他のメンバーもそれに続く。

「ルイス、すまない。これを持って来てしまったんだが預かっておいてくれないか」

 オザダがロッジャルのネックレスを首から外して俺に手渡した。

「分かった。気をつけてな」

「ああ」

 順にチェックを受け、受付脇のゲートを越えて行く。

 その向こうに建物からの出入り口、更にその先には山へ伸びる道も見えている。

 ジェイマーが空の荷車を引いて前を横切った。

「お留守番ヨロシクな~」

「はい師匠。いってらっしゃい」

「姫~、お気をつけて~」

「いない間に騒ぎ起こしたら蹴り飛ばすからねー!」

「……」

 最後尾を行くアデギウスの歩が無駄に遅いのに気が付いた。受付の女性をチラチラ見ている。その視線に気づいて女性がキリッと睨み返した。

「……何ですか? お進みください?」

「……あの、ライザちゃん、だよね?」

「え」

「ごめん、久しぶりだからすぐに分からなくて。元気…みたいで良かったよ」

「え、え?」

「山から戻ったらディノー叔父さんの所に戻るから、もし時間が合ったら話でもしないか?」

「えっ、あ、えっ?」

「じゃあ行ってきます」

 アデギウスもゲートを越えて建物から出ると、出入り口の扉が係員によって閉じられてその先は見られなくなってしまった。

「……アデギウスのお知り合いだったんですか?」

 受付の女性はバサバサと音をさせながら申請書を見返している。

「アデギウス? …アデギウス…アデギウス……『アディ君』?! やだ、どうしよう! アディ君だったの?!」

 女性は一人興奮していて、俺たちと会話する気は無いようだった。

「帰ろうか」

「そうだね」


 何度か工場の扉をノックしてみたが反応が無い。

「出かけちゃったかな?」

「どうだろう」

 少しだけ扉を開けてみると中では研磨の音が響いていた。これではノックしたって聞こえないな。

 仕事に集中していたディノーが差し込んできた光に気付いて手を止める。そして耳栓を外した。

 うん、完全に聞こえてなかったよね。外で待ってみようとか言わなくて良かった。

「どうしたんだい?」

「山に入れませんでした。俺が年齢制限で、こっちは身分証を紛失中」

「年齢? ……ああ、そっか。子供だもんね……? ……そう言えばそうだよなぁ。なんで気付かなかったんだろう??」

 ディノーが俺を見て不思議そうにする。

「まぁいいや。二人とも、みんなが戻ってくるまでゆっくりしていなよ」

 そして、

「スゲー! すぐ戻ってきた! ワハハハハ!」

「……」

 俺たちを見てマグマがイラつくほど笑いやがった。

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