再会まで
「じゃあ次は剣を買いに行こう。短剣なら技工士エリアが良いか。ここの横道を行こう」
大通りで区切られたエリアを均一に分けるように通っている横道の一つを進む。
「この道にも名前がついてるの?」
「ほら、建物の角に番号が付いてるのがそうだ。王宮の周りが1番、次が2番、3番…俺たちが入ってきた門のところまでで全部で26本の道がある」
アレクシスが指さした建物の2階あたりの高さに、番号の書かれた小さなプレートが取り付けられていた。今は12番の横道だ。
「どの道も大通りにつながっているから、迷ったら大通りに出たところで確認すると良いぞ」
「うん。わかった」
進んでいくと、大通りでは見なかった住宅、小さな金物屋、パン屋、建材店、診療所などが並んでいる。
大通りほど賑やかではないが、住民たちの生活の流れが見える街並みだ。
「…なぁルイス、おじいちゃんやおばあちゃんに会いたいか?」
ふと、アレクシスが聞いてきた。
「え? そうでもない」
俺はそう口にしてしまった後で正直すぎたかとも思ったが、
「ははっ、そうでもないのか」
アレクシスが笑ったので大丈夫だろう。
「父さんは会いたい?」
「……」
「父さんが会いたいなら、僕も会いたいよ」
「…そっか。どうなんだろうな。よくわかんないな」
きっと会いたいんだろう。そして認めて欲しいはずだ。孫の俺の存在が役に立つならそれでも構わないのだけど、逆効果の場合もある。
アレクシスにもそこが読めないんだろう。もう何年も経っているからこそ、どう動くべきか決められないこともある。
もしかすれば、俺が魔法学校に入るタイミングで顔を見せに行こうと思っていたかもしれない。
これで息子が魔法がからっきしだと知ったら、何を言われるか分からない。
「僕が有名な勇者になったら自慢できる?」
「ん? …そうだな、その時会いに行こうか」
「うん」
待たせるかもしれないが、きっかけになれるように頑張ろう。
通りを抜けて『技工士への道』にやってきた。
技工士は様々な罠や道具を造り戦闘を補佐する。戦闘力と職人としての腕が必要な職業だ。
「戦いにもアイテム製造にも短剣は重宝するからこのエリアは品揃えが豊富なんだ」
「ほんとだ。いろいろあるね。投げナイフが欲しいな」
「矢も打ったら戻ってこないのにナイフまで手放したら危ないだろ」
それもそうか。しかし、短い手足に短剣か…。
「…普通のも持つから」
「あ、あの店はどうだ?防具も揃えられそうだぞ」
「…」
店は広く、用途に応じて多数の剣が揃っている。戦闘用、解体用、料理用。木や蔓を加工する為の物もある。
何本か握ってみて一番しっくりきた戦闘用ダガーにした。短い剣一本では防御に不安があるので念のため両手持ち出来たほうが良いと勧められ同じ物で揃えた。
短剣の他に革製品も豊富で、鞘を取り付けるベルトとウエストポーチ、厚手の手袋とブーツも手に入れた。
「冒険者みたいだぞルイス」
「動きにくい…」
アレクシスは装備一式身に着けた俺を見て笑った。自分でも服に着られている状態なのはわかっていたので素直に笑われた。
前の人生でナイフと銃を持って戦争へ出ていたこともあったが、それは成人してからのことだった。子供の体型ではいくら小さいサイズにしたとはいえ動作にかなりの影響がある。
「革はしばらく使っていれば馴染みますので」
女性の店員がまだ何も入っていないウエストポーチにカラフルな砂糖菓子を入れてくれた。
「ありがとうございます」
「気を付けていってらっしゃい、勇者さん」
店員はそう言って笑顔で見送ってくれた。
この店ではランク証の提示が必要なかった。購入した装備は退魔師以外の旅人も使用するようなレベルだったので、きっと遠出する父と息子の旅の準備くらいに思っただろう。
アレクシスがわざとらしく店を振り向いた。
「そうだ、投げナイフだったか」
「…要りません」
「いいのか?」
「…はやく果物屋に行こうよ! もうお昼だよ!」
俺はアレクシスを置いてさっさと店を離れた…つもりだったが履き替えたばかりのブーツが重くて思ったより進まない。こんな状態で更に装備を増やしたら戦いも何もあったもんじゃない。
「くそ…鍛えないとな…」
ついつい口に出してしまったが少し後ろにいたアレクシスには聞こえていなかったようだ。
露店を巡り、母への土産を集める。頼まれていた果物の他に、店用と家用のエプロン等も買った。装飾品の店でアレクシスが立ち止まる。花の形にあしらわれた髪留めと、同じデザインの首飾りが並んでいる。
薄紫色と濃い緑色の色違いがあって、どちらがエマルダに似合うだろうかと悩むアレクシスは実に楽しそうだ。本当にいい夫婦だなと思う。
ふと、店の外が気になった。道の向こう側…露店が出ていない外壁側に、首から売り箱を下げた若い男が一人、壁を背にして立っていた。
俺の視線に気づいたのか、人の往来をすり抜けて店の前までやってくる男。
「こんにちは小さな冒険者さん。ドラゴンの卵はいりませんか?」
「ドラゴン?」
箱の中にはクッションが敷かれ、大きな卵が並んでいた。




