野次馬令嬢が視た、特に影響の無い婚約破棄
★誤字・誤記の報告、大変助かります。大感謝★
誤字報告が、こんなにも嬉しいとは。予想外(笑)
地道に見てても、わんさか出てくるので、心折れそうでした。
ご指摘下さると、ワンタッチ!すげえ。
麗しのご令嬢ミドリア・カッターネは、名門貴族カルク筆頭魔法爵家の3女である。
今日は、王太子キラーリ殿下のご婚約者様の妹君のお友達の従兄弟のご婚約者様の姉君のお友達である、ゴーシャ・サール第3位武術爵次女の、お誕生日パーティーに来ている。
ミドリアは脳内処理速度がかなり速いので、どんな間柄でもすぐに割り出して理解が出来る。
だが、同行した妹、可憐なるご令嬢ロゼット・カッターネには、解らなかった。
「え、どなた?」
「キラーリ兄さんの知り合い」
ミドリアは、王太子殿下とは、同門の魔法使いである。魔法使いの同門は、家族同然だ。そして、とてもフランクなのだ。
因みに今日は、キラーリ殿下は不在である。地方で公務に励んでいるらしい。
「貴様っ!ダナエ・ベッピーネ嬢に謝れ!」
和やかな会場に、若い男性の罵声が響く。
「あの、ダ……?どなた?え?」
柔らかな声が、戸惑いを表す。
「もう我慢ならん、ゴーシャ・サール!貴様との婚約を破棄する!」
どうやら、パーティーの主役であるゴーシャ嬢と、その婚約者のようだ。ダナエ・ベッピーネ嬢が誰なのかは、解らない。
「はあ。でしたら、お父様にお話し下さい」
「貴様!またそのような、ふてぶてしい態度を!」
声のほうを見れば、男性には震えるご令嬢が、張り付いている。あれがダナエ嬢で、間違いないだろう。
「まぁー、凄いのね」
ロゼット嬢が、姉を見上げて呟く。
「お誕生日の主役を、辱しめるなんて。余興にしても、やりすぎじゃあなくて?」
「うふふ、まあ、観てらっしゃい」
ミドリア嬢は、含み笑いで婚約破棄騒動を眺めている。
「そもそも、貴様は、格下であるにも関わらず、俺に対する態度も極めて悪かった!」
「格下?何故です?」
「きさまっ!たかが第3位爵の次女の分際で!」
ダナエ嬢が、ぎゅと男性の腕にしがみつく。男性は、ちらりとダナエ嬢に、甘い笑みを向ける。
「あらぁ、あの小柄なご令嬢、はしたないわね」
ロゼット嬢は、野次馬根性丸出しで、良く見える場所に移動し始めた。姉ミドリア嬢も、着いて行く。
「貴方、交易爵家ですわよね?我が家は武術爵ですが」
「それがどうした!」
「困った方ねぇ」
「何ぃ!」
この国の爵位は、公務員としての職業名と直結しており、それ自体に貴賤はない。爵位持ち即ち、公務員という意味である。
ただし、長子相続の世襲制なので、民間とは区別されている。また、同一爵位内の上下関係はあるが、別爵位とは関係が無い。
例えば魔法爵の筆頭が、武術爵の5位より偉いかと言うと、それは違うのである。上下があるのは、爵位(職業)ではなく、政治的役職だけだ。
例外的に、「王族」だけは、職業「支配者」役職「支配者」であり、一致しているが。
「10歳までに習いますわよね?お姉様」
「そうね」
カッターネ姉妹は、外野でこそこそ嘲笑う。
「我が父は、宰相補佐、わたくしは、王女宮筆頭経理官。さて、貴方は?」
柔らかな声、優しげな語り口。その内容は、容赦ない。
「はっ!今、関係ないだろ!肩書き自慢がしたいのか?」
「うふふっ、面白い方ですわぁ」
「あの方、たしか、民間製造業者の平社員よ」
「まあ」
「お父上は、次席交易官ね」
「お姉さまったら、何でもご存知なのね」
自分から格下の分際呼ばわりしておきながら、話題をすり替える卑怯者は、会場の野次馬達から失笑を買う。
勿論、カッターネ姉妹も、見下す隙を見逃さない。
「ねえ、お姉さま、あの方のお召し物、類似品ですわぁ」
「ロゼット、悪いわよ」
「あの方、ゴルド様風になさった髪型が、似合わないわ」
「ゴルド様は、あの歌唱力あってこそですもの」
「そうね。姿を似せても意味がありませんわね」
姉妹は、品定めに余念がない。
ゴルド様とは、最近流行りのオペラ歌手だ。
「何事だ。騒がしい」
このお屋敷のご当主様のお出ましだ。
「あ、お父様。この方、お話があるそうでしてよ」
「うむ。何だ」
「ご令嬢との婚約は破棄致します」
「そうなのか?」
ご当主は、一緒に出てきた紳士に語りかける。
「あの紳士は、婚約者さんのお父上よ」
「まあ」
姉の注釈に、妹が頷く。
「父上!この女は」
「口を慎め。陳謝致します、サール殿」
婚約者氏が、父親に訴える。父親は、蒼くなった。
「サール氏の、上司のお友達の部下の親戚の同僚なのよ」
「え?」
「サール氏が格上」
「まあ」
「うむ、よい」
「サール殿、詳細は別室にて」
「後日で良かろう」
サール殿は、不機嫌そうに、婚約者氏とその父を睨む。
「ゴーシャ、もっとよい縁談を用意するからな」
「はい、お父様」
娘には、優しげな眼差しを向ける。娘も、にっこり嬉しそう。
「では、皆様、パーティーにお越しくださり、ありがとうございました」
サール氏が、強引にパーティーの閉会を宣言する。参加者は、やや困惑しながらも、会場を後にする。カッターネ姉妹も、速やかに帰路につく。
「辱しめられたのは、騒いだ方だったわね」
「おやめなさいな、はしたない」
妹のゴシップ好きをたしなめながらも、姉も含み笑いをしている。
王太子殿下の知り合いなのだし、ご令嬢には、すぐに別のご縁談が来ることだろう。男の方は、ダナエ嬢とどうなるか解らないが、収まるところに収まるのだろう。
ちょっとした騒ぎではあるが、噂にすらならなそうだ。
「それで、お姉さま、今日は素敵な方、みつけた?」
「やあね、内緒よ」
「あらぁ、教えて頂戴よ~」
ご令嬢の軽やかな笑い声が、晴れた空に消えて行く。
fin.
お読み下さり、ありがとうございました。