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6話 ヤンデレチートさんが助けてくれました

 シルヴィア様から魔法の指導をしてもらえるようになって数か月、私はちょっと怖いくらい順調に成長していた。得意の闇属性と水属性、そして属性の適合性関係なく使える無属性の初級魔法は一通りマスターし、ちょっとだけ適合性を持つ雷属性の初級魔法も数種類習得。


 分からないところ、うまくいかないところはシルヴィア様に質問すれば、毎回その場で完璧な回答が返ってきて、理解できるまで丁寧に教えてくれるので、新しい魔法の習得がもうスムーズでスムーズで…。


(…そろそろ一つ上のレベルにチャレンジしてみてもいいよね)


 もはや自分の適合性の範囲では新たに習得できる初級魔法がなくなってきたので、私は自然と「そろそろ次のステップを」と考えるようになった。そう、初めての中級魔法を試すときが来たのだ。


 …というわけでやってきました、ローズデール家のプライベートビーチ。なんと屋敷の敷地内!いやー、贅沢だね、本当。金持ちの家に生まれてよかったよ。いつ勘当されるか分かんないから楽しめるうちに楽しんでおかないと!


 でももちろん海水浴が目的じゃないよ。真冬の海で泳ぐほどマゾではないしね。あ、もちろん、もしメイソンが実はドSで…以下略。


 …話が逸れた。最近、私はこのプライベートビーチを魔法の練習場として愛用していた。前までは屋敷の庭とかで練習していたけど、最近は魔法の威力が上がってきて普通に危ないので、物を壊したり人を巻き込んだりしないよう、人のいないビーチで練習している。


 今日試す魔法は闇属性の中級魔法『ルイン』。事前に魔導書を十分に読み込んだので、魔法の構成・特徴・使用上の留意点は完璧に理解している。魔力の具現化から魔法発動のプロセスにおいて必要になる「呪文」と「イメージ」の準備も万端。


 魔力制御についても、コントロールする魔力の量が増えるだけだから特に問題はないはず。初級魔法を使うときに体内に流れる魔力のごく一部を「ちょこっと」溜めて放つのを、もう少し多く溜めてから放てば良いだけで、要領は初級魔法でも中級魔法でも変わらない。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 そんなふうに考えていた時期が、私にもありました。……はい、ただいま私の魔力、絶賛暴走中です。


 たぶん問題になったのは魔力制御の部分。


 今までは「ちょこっと」溜めて「すぐに」放っていたから魔力の流れが多少荒くても問題にならなかっただけのようで、今回、より多くの魔力を「溜める」ところまでは問題なかったものの、溜めた魔力を具現化すると同時に『ルイン』の呪文とイメージで衣をつけて「放とう」とした瞬間、私の魔力は制御を失った。


 まるで堤防が決壊?いやむしろ崩壊?したような感じで、放とうとしていた魔力がそのまま荒波となって私を襲い、体内に残っていた魔力と合流して暴れまくっている。魔力だけではなく、自分の体のコントロールも効かなくなっていて、先ほどから全身に発作が起きている。


 感覚としては全身が宙に浮いて四方八方から強く引っ張られたり、揺さぶられたり、空中から地面に投げつけられたりしているような感じ。勝手に涙が流れる。悲鳴をあげて助けを呼びたいけど声が出ない。体が中からどんどん壊されていくのを感じる。


 熱い、痛い、冷たい、痛い、眩しい、痛い、暗い、痛い、怖い、痛い、痛い、痛い…‥!


 うそでしょ。私また死ぬの?今度はまだメイソンに会えてもいないのに。死んだらまた8歳に戻れるのかな。いや、死にたくない。いやだ。助けて!お願い、助けて、メイソン!


 声にならない悲鳴をあげながら、私は意識を失った。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 海を眺めながらのランチタイム。私は、目の前でサンドイッチを食べている黒髪の青年に声をかけた。


「ねえ、メイソンさん」

「…?どうしました、お嬢様」

「……メイソンさん」

「はい?」

「メ、イ、ソ、ン、さん」

「……すみません、俺なんかしました?」


 ダメだ、伝わらないや。

 うん、私が悪い。こんなんで伝わるわけがないよね。


「いいえ。何も」

「は、はあ…」

「……あのですね、昨日まで私、メイソンさんのこと、なんて呼んでましたっけ?」

「俺のことですか?えーっと、確かベックフォードさんって…」

「ですよね。今日は?」

「メイソンさん、ですね」

「正解です。では、次の問題。この変化から、今あなたの目の前にいる小娘の気持ちを当ててみてください」

「…えーっと、少しは心を開いてくれた?」

「70点。では次のヒント。昨日まで私、こんなにペラペラしゃべる子でしたっけ」

「…いや、どちらかというと無口な方でしたね」

「はい、では、先ほどの回答の修正案をどうぞ」

「……少しは元気になった?」

「うーん、やっぱり70点かな。正解はですね…」

「……」

 

 右手にサンドイッチを持ったまま黙って耳を傾けてくれるメイソン。食事の邪魔をして申し訳ないね。


「吹っ切れました。立ち直りました。今までのこと、良い意味でどうでもよくなりました。救われました!」

「…そうですか」


 幼い娘のことを見つめる父親のような、柔らかい顔を見せるメイソン。


「はい、全部メイソンさんのおかげです」

「いや、俺は何も…」

「メイソンさんのおかげなんです!私のことを理解してくれる人がいるんだ、共感してくれる人がいるんだ、こんなどうしようもない女でも肯定してくれる人がいるんだって思うと…」

「……思うと?」

「なんか急に全部がポジティブに見えるようになりました!」


 …我ながら何を言っているかわからない。どんな結論やねん。バカなのか?

 それでもメイソンは例の父親っぽい優しい顔で私のことを見つめてくれていた。


「たとえばね、もう私、自由なんだなって。王子の婚約者でもなければ貴族でもないんだって。今の私はただの18歳の女の子なんだって思うと、もう楽しくて仕方がありません」

「……それはよかったです」

「「いやどんな超理論だよ。てかお前ちっとも自由じゃねーから、これから一生修道院暮らしだから」って、突っ込まないんですか…?」

「…え、えええ?」

「もしくは「この女昨日はあんなにシクシク泣いてたくせに、いきなりどうしたんだよ。躁うつ病か?」とか」

「いやいや、そんなこと思ってませんから。……というかお嬢様、こんなに明るくて面白い方だったんですね」

「自分でも今の自分にちょっと引いてます。てかちょっと待った!今なんて言いました?」

「えっ?明るく面白い方だったんだって…」

「その前です」

「その前?うん?…そんなこと思ってませんって?」

「んんー、その後!」

「……??お嬢様?」

「そう!それ!…私言いましたよね、もう王子の婚約者でもなければ貴族でもないって」

「は、はあ…」

「…ではお願いします!」

「……?……。ああ!なるほど。…えーっと、ローズデールさん……はたぶん絶対違うな。チェルシー…様?」

「30点!」

「チェルシーさん」

「もう一声!」

「え、えええ…?じゃあ、チェル、シー?」

「はい♪」



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



『…さま、チェルシー様!!』

(だから、「様」はいらないんですって…)


 目を覚ましたら、目の前に天使がいた。あ、やっぱり今度こそ死んじゃったのか。これから死後の世界に連れていかれるのね。


「チェルシー様!!よかったぁー!!」


 目に涙をいっぱい溜めた天使に抱きしめられた。


「…えっと、ここは…?」

「チェルシー様のご自宅のビーチですわ。覚えていらっしゃいませんか?」

「…私、ビーチにきて『ルイン』を試してみようと思って、それで……」

「はい、魔力が暴走して、倒れられたんです」

「……助けてくださったんですよね。すみません。ご迷惑をおかけしました」


 たぶん魔力の流れを「見る」ことができるシルヴィア様が、ラインハルト家の敷地から異変を察知して助けに来てくれたのだろう。


「そんなことお気になさらないでください。それよりお体の具合はいかがですか?一応治療はしたのですが…」


 一応感覚で全身を確認してみる。うん、どこも痛むところはないな。魔力の流れも落ち着いている。


「はい、大丈夫です。…すみません、助かりました。ありがとうございます」


 立ち上がって深々と頭を下げる私。


「どういたしまして。…うん、問題なく回復されているようですね。すぐに気がついて本当によかったわ」

「申し訳ございませんでした…」

「お気になさらず!……でも、そうですわね。もうちょっと休憩されてから、私と少しお話をしましょう。『ルイン』を試そうとされたあたりから」


 あれー?シルヴィア様なんかちょっと怒ってる?やばい、死亡フラグ立っちゃった?


 ……その後、シルヴィア様からみっちり説教を受けてしまった。どうやらシルヴィア様はたまたま自室のベランダ(彼女の自室もオーシャンビューである)にいて、ローズデール側のビーチで魔力の暴走に苦しむ私を偶然見つけてくれたらしい。


 なんとなくベランダで海を見てみたらローズデール側のビーチに人がいて、その周辺の魔力の流れがおかしなことになっているのが「見えた」からただ事ではないと思ったと。


 それで飛行の魔法を使ってベランダから文字通り「飛んできて」、急いで暴走している魔力の鎮静とダメージを受けた身体への手当をしてくれたらしいが……。シルヴィア様曰く、たまたまシルヴィア様がすぐに見つけていなければ、最悪死んでいた可能性もあるらしい。


 暴走の原因はやはり魔力制御にあるとのこと。まだ幼い体で魔力のコントロールが完全にはできていないのに、魔力の具現化や「呪文」「イメージ」などの他の要素がすべて完璧だったから魔法が発動してしまい、魔力の暴走が発生する条件が揃ってしまったのではないか、とのことだった。


 試そうとしたのが闇属性の魔法だったというのもよくなかったらしい。闇属性は他属性に比べ(合法の)魔法の数が少なく、中級魔法は『ルイン』を含め数種類しかないが、どれも魔力の消費量も制御の難易度も「上級魔法の一歩手前」のものなんだって。


 だから闇属性の中級魔法は他の中級魔法を十分使いこなせる段階になってから手を出すべきだったとのこと。


 そんなことも事前にちゃんと確認せず、誰にも相談することなくいきなり一人で『ルイン』を試して死にかけた未熟な私を放っておけないので、これから新しい魔法を初めて試すときは必ずシルヴィア様が付き添うと宣言されてしまった。


 その代わり魔力が暴走して死にかけたことはうちの家族には内緒にしてくれるんだって。


 そしてなんか話の流れ?ノリと勢い?でお互いの呼び方を「チェルシー様」「シルヴィア様」から「チェルシーさん」「お姉様」に変更することになったよ。


 私のこと、実の妹のように思ってくれているっていうからさ…。てかそれなら「チェルシー」と呼び捨てにしてくれても私はよかったんだけどなぁ…。


話の流れ?ノリと勢い?でブックマークや☆での評価、感想などをいただけると大変嬉しいです!

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