31話 片思いの始まり
レベッカ視点です
5歳になるまで、私、レベッカ・ウェストウッドは普通の子供だった。何の特徴もない地方都市で、どこにでもあるような小さな宿屋を経営する両親の長女として生まれ、2歳年下の弟と毎日のようにケンカをしながら育った。
裕福な家庭ではなかったが、特別貧しくもなかったと思う。少なくとも食べるものに困ったことは一度もなかった。
私が体の中の「何か」に違和感を覚えたのは5歳の頃だった。正体が分からない「何か」がずっと体の中で激しく流れているのを感じて、神経を集中させるとその「何か」の流れを止めたり、変えたりすることができた。
私は自分の違和感を両親や友達に説明したが、私の違和感に理解を示してくえる人は誰もいなかった。
痛みがあったり、その違和感が原因で何か日常生活に不都合が出ていたりしたわけではなかったので、そのうち私は自分の違和感をあまり口にしなくなった。
私の運命が大きく変わったのは、8歳の時。うちの宿屋に宿泊した旅の魔導士が子供好きな人で、私の話し相手になってくれたことがきっかけだった。
特に深い意味もなくその魔導士に自分が感じている違和感のことを口にしたら、魔導士は驚いた顔をしてから「君はきっと魔力を認識できているんだよ」と言ってきた。
魔導士はうちの両親にその話をしてくれたらしく、両親は喜んで私を地元の魔導士協会に連れていった。そして簡単な問診と測定を行った結果、私が魔導士の素質を持つことが確定した。
ただ、まだ魔力制御が全くできていないから、まずは3年から5年、魔力制御の練習が必要ということで、そのためのテキストを買わされた。結構高かったらしい。
12歳になって、私はなんとか自分の魔力を制御できるようになっていた。次のステップは、各属性の基本的な魔法の習得に挑むことで、自分の魔力がどの属性に適合するのかを把握することだった。
その結果、私は聖属性にのみ高い適合性を持っていることが判明した。あとから実際には違っていたことが分かったけど。
貴族の家庭とは違い、うちには魔導士の家庭教師を雇う余裕などなかった。だから私は実家の手伝いと12歳でもできるバイトを掛け持ちしてお金を貯め、魔導士協会の図書館(利用は有料である)に閉じこもって独学で魔法を学ぶしかなかった。
聖属性の初級魔法で、比較的軽いケガを治癒できる『リカバリー』をマスターしてからは、一気に楽になった。
実家の宿屋で宿泊者向けのサービスとして有料でケガの治療をして、冒険者ギルドでも同様のバイトをすることで割と簡単にお金が稼げるようになった。稼いだお金はほとんど魔導書の購入や図書館の利用料金にあてた。
そして13歳で私の運命はもう一度大きく変わる。聖属性のものと勘違いして独学で習得した魔法が実は「光属性」の初級魔法だったことから、私がもっとも適合者の数が少ないことで知られる光属性の適合者であることが判明した。
最初からずっと独学で勉強していて、光属性と聖属性の違いがちゃんと分かっていなかったからこそ起きた偶然だった。
…ここだけの話、私は「魔力の強さをある程度測定できる」ツールは存在するのに「どの属性に適合するかを測定できる」というツールがなく、属性の適合性を判断する方法が実際にその属性の魔法を習得して使ってみる方法しかないということに大きな疑問を抱いている。
とても効率が悪いからね。しかも問題は非効率だというものだけではない。たとえば適合者が極端に少なく、当然ながら基礎の魔導書なども数少ない光属性と闇属性なんかは、初心者がそれを習って試せる機会自体がほとんどない。
私の場合は地元の魔導書協会の聖属性魔導書のコーナーにたまたま光属性の魔導書が紛れ込んでいたから、偶然光属性の適合性が見つかっただけだった。
だから光属性と闇属性の適合性を持つ魔導士は、本当はもう少し多くいて、本人が適合性を持っていることに気づいていないだけのケースが実は少なくないんじゃないかと思う。「どの属性に適合するか」を測定するツールがないから、彼らはある意味埋もれてしまっているのだ。
なので、もし将来「属性測定器」のようなものを発明できたら飛ぶように売れ、大金持ちになれるかもしれないと密かに考えている。
まあ、すでに同じようなことを考えている人はたくさんいて、単にそれをなんとかできる方法が見つかっていないだけかもしれないけど。
いずれにしても光属性の適合者であることが判明してから、私は突然国からの投資を受ける存在になった。学費全額免除で王立魔道学園に入学することが決まり、地元の魔導士協会から無料で家庭教師が派遣されるようになった。
といっても、その家庭教師は聖属性のみに適合する方だったので、光属性の魔法に関しては国から送られてきた魔導書や魔導士協会にあった数少ない光属性の魔導書を読んで引き続き独学で習得するしかなかったけど。
ちょうど光属性を持つことが判明したあたりから、私は容姿でも周りからチヤホヤされるようになった。数えきれないほど男子から告白され、同年代の女子のほぼ全員に嫌われた。
地元ではちょっとした有名人になっていた私にケンカを売ってくる子は少なかったが、たまに出てくるそういう子はみんな返り討ちにしてやった。
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私は段々、自分自身に対して変なプライドを持つようになっていた。それは珍しい光属性の魔力持ちであることとか、容姿が優れていることに対するものではなかった。
私に芽生えた謎のプライドは、貴族出身ではなく、裕福な家庭の生まれでもない私は、幼い頃から自分の力だけで自分の道を切り開いてきたという、「自分はたたき上げの実力者だ」という種類のものだった。
魔法は独学で学び、その独学に必要な教材も幼い頃から自分が稼いだお金で購入している、光属性の魔力の適合性を見つけたのも偶然とはいえ自分自身だし、自分に敵対してくる子たちは自分の力でねじ伏せている。
私は最初から自分の力だけでここまで来た。恵まれた環境で育っている貴族出身の魔導士とは根性が違う。そう思っていた。
そのままの精神状態で魔道学園に入学した私は、ある新任教員のプロフィールに興味をひかれた。今年から新設された剣術教科の講師、メイソン・ベックフォード先生。
まだ20代前半の若い講師だけど、すでに冒険者として豊富な実績を残していて、ここ数年はあの三大公爵家のローズデール家に雇われていたらしい。
学園入学前から冒険者登録をして地元で暴れまわっている破天荒な公爵令嬢チェルシー・ローズデールの護衛で、彼女のパーティーメンバーの一人。
同じパーティーに所属するアイリーン・キャスカートに一から剣術を教え込み、わずか数年で国内トップクラスのソードマスターに育て上げた実績あり。当然、本人も凄腕のソードマスター。
学園入学前からローズデール公爵令嬢とそのパーティーの噂は聞いていた。私と同い年の大貴族の娘と、その護衛のソードマスター二人がローズデール・ラインハルト大都市圏近辺の魔物を狩り尽くす勢いで大活躍していると。
当時は珍しいな、でもチェルシーって子は暇なのかな、としか思ってなかった。
でも実際に学園にきて先生の詳細なプロフィールが分かって彼の噂もいろいろ聞いて、私は彼に興味を持たずにはいられなくなっていた。
先生は、外国の平民出身で、しかも魔力を一切持たないとのことだった。そんな人が剣術教科といえ「魔道学園」の教師に抜擢されたのだ。
さらに噂によると、彼のことを厚く信頼していた前の雇い主のローズデール公爵は、彼を学園に出すことを最後まで渋っていたらしい。
最後は王家からの公式なレターまで届いたので仕方なく移籍に同意したと。また、彼を学園に強く推薦したのはもう一つの三大公爵家のラインハルト家だという話もあった。
この国…特にこの国の貴族の間では、魔力には絶対的な価値があるという考え方が割と一般的である。それなのに魔力を持たない彼のことをこの国の王族と大貴族が挙って高評価し、彼は大貴族の家から国に引き抜かれたのである。
私は、高い身分も魔力も持たない彼が、その剣の腕と指導力だけでこの国に根強い偏見や差別にすべて打ち勝ち、魔道王国の王族貴族に自分の実力を認めさせたというストーリーに感銘を受けた。
自分自身も「たたき上げ」だと思っていたけど、彼は私の上をいく、この人はすごい人かも。そう思った。
そして見学の授業で彼とキャスカートさんによるデモンストレーションを見て、私の「この人はすごい人かも」という期待は、すぐに「この人はすごい人だ」という確信に変わった。
平民出身だろうが魔力なしだろうが、この実力があれば誰もが認めざるを得なかったんだろうな、と納得した。
別に私に剣術の素養や経験があったわけではない。彼らの動きの何がどうすごかったのか説明しろと言われてもできない。でもとにかくすごかった。まるで「神々の戦い」のようだと思った。
見学に訪れていた生徒全員が、先生とキャスカートさんの動きに最初から最後までずっと見惚れて、手合わせ終了後はしばらく拍手を続けていた。
そして私は、恋に落ちた。
いつも読んでいただいている皆様、本当にありがとうございます。
6月中には完結予定ですので、最後までお付き合いいただけると大変嬉しいです。
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