表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/45

26話 誤解されていました

 やはりメイソンは人に何かを教えることにとても向いていた。彼の剣術講座は、(たちま)ち魔道学園の人気講座の一つになったのである。


 まず、見学日に行ったデモンストレーションがすごかった。内容はシンプルで、メイソンとアイリーンが手合わせをしてみせただけなんだけど…、いやこれがもう本当にすごかった。


 何度も一緒に戦っているはずの私でさえ口をポカーンと開けて情けない声をあげながら見惚れてしまうくらいすごかった。本気の二人ってこんなにもすごいんだって感動してしまった。


 結局最後は引き分けで終わったんだけど、終わってからみんなしばらく拍手してたもん。二人とも普段よりは若干「魅せる」ことを意識して動いていた気もするけど、いずれにしても二人とパーティーを組んでいる私としては鼻高々だった。


 どうだ!私の仲間二人はめちゃくちゃすごいだろ!ってなぜか私がドヤ顔をしたくなった。


 そしてデモンストレーションに感動した生徒たちが受講を始めると、そこは私のような「体が剣を握ることを拒否しているレベルの子」でさえもそれなりの実力に育ててくれたメイソンの手腕である。ちゃんと努力している生徒はみんな順調に実力が伸びていくから、生徒たちの満足度も高いらしい。


 …さすがすぎる、私の旦那様(予定)。もう何度目なのかも忘れたくらい「いつものこと」になっちゃっているけど、また惚れ直しちゃった。


 そういえばやっと、本当にやっと、彼からファーストネームの呼び捨てをしてもらえるようになった。ここまでくるのに3年かかったよ。前世ではベッドまで4日だったのに…。


 きっかけは学園で「お嬢様」と呼ぶわけにもいかないし、もうローズデール家と雇用関係があるわけでもないからそれが適切でもないってことで、私が無理やり「チェルシーと呼べ」と迫った。


 最初は「チェルシーさん」でどうかとかまた訳のわかんないことを言ってきたから、あと3年もすればあなたの妻になる相手にさん付けなど不要だっていって、今度こそは譲れないと駄々をこねて無理やり「チェルシー」と呼ばせることに成功した。ついでに敬語もやめさせた。


 他の生徒の前では「ローズデールさん」と呼ばれている。私は他の生徒の前でも「チェルシー」で良いと言ったのだが、メイソンからするとやはり講師という立場上、それはまずいとのことだった。まあ、それなら仕方がない。


 とまあ、順調にいっている部分もあるが…。実はそうでないところもあった。まず、なんとなくメイソンが学園で居心地が悪そうにしていた。


 私にはそんなこと一言も言わないが、なんとなく「ここ馴染めないなぁ…」と感じているだろうなというのが伝わってくる。強引に学園に彼を連れてきた私としては、申し訳なくて死にたくなる。


 もちろん私は暇さえあれば彼のところに行って彼を癒してあげようと頑張っているし、私と同じことを感じ取っているのか、アイリーンもそれとなくメイソンのことを気遣ってくれている。さすがは『神メイド』である。剣術も天才だけど気配りも剣術と同じくらい天才だよ。


 ちなみに私のことが性的な意味でも大好きなアイリーン(もう見て見ぬふりをするのをやめて現実を受け入れた…)はメイソンに対して恋愛感情はもちろん持っていないけど、剣の師匠として、ともに戦ってきたパーティーメンバーとして、深い信頼と友情は感じているらしい。


 魔物討伐中に一度、メイソンに命を助けてもらったこともあるしね。そりゃ友情くらい芽生えるよね。


 そんな中、私は生徒会執行部に選ばれてしまった。確か前世でも選ばれていて、その時は選ばれて当然だと思ってたし、カイル王子と一緒に過ごせる時間が増えるとかいって喜んでいたけど、今回は面倒なだけで正直デメリットしかないなと思った。


 選ばれると執行部の仕事で忙しくはなるのに、私の場合、卒業後は高い確率で駆け落ちルートだからこの国のエリートコースに入って人脈作りしたところであまり意味がない。


 入ったら忙しくなるとしても入ろうかなと思うのは、入ることに何かメリットがある場合であって、私の場合、生徒会執行部に入ったら意味もなくただ働きをするだけになっちゃうんだよねぇ…。


 そんな時間があったらメイソンともっと一緒にいたいし、メイソンが忙しい時は図書館でここにしかない珍しい魔導書でも読んだ方がよっぽど有意義な時間の使い方になると思う。ということで、最初は「勉学に集中したい」という理由で辞退したのだが…。


 ダメだった。身分、魔力、入学前の実績に入学テストの成績まで、すべてが申し分ない私が生徒会執行部に所属しないとなると、ちょっと前代未聞の事態になっちゃうとかで、教員や先輩、執行部OB・OGの方々からしつこく勧誘・説得された。


 まあ、たぶんこの生徒会執行部って国による早期の人材の囲い込みという側面もあるだろうからね…。


 結局もっとも恐ろしいOG様から「入ってあげてください」との短い連絡が届いてしまったので、そのOG様、つまりお姉様には生涯絶対服従を誓っている私は、その時点で無駄な抵抗をやめて生徒会執行部に加入することになった。


 あ、そういえばお兄様とお姉様の婚約が先日発表された。おめでとうございます!あと少しで「お姉様」じゃなくて「お義姉様」ですね!


 …で、実際に生徒会執行部に入ってみてどうだったか。案の定忙しくなった。なんか前世の時よりも大量に仕事を押し付けられて非常に多忙である。でも忙しさを理由にメイソンと過ごす時間を減らしたくはなかったので、睡眠時間を削ってでもメイソンと一緒の時間は確保しようとした。


 でもメイソンも私のことをよく見てくれているから、睡眠時間を削っているのがバレてしまった。そして自分と過ごす時間を無理やり作ろうとして体調を崩してほしくないから、睡眠時間を削るのはやめるよう注意されてしまった。


 「でも…」って口答えしたら、珍しく「俺の言うことは何でも聞くんじゃなかったの」って少し強めに言われてしまって、思わず「…はい、ご主人様」って返事しそうになっちゃった。なんとか後半のセリフは自主規制できたけど。


 ……やっぱ私、メイソンの前ではドMちゃんなのかな。こっちもそろそろ見て見ぬふりをやめて現実を受け入れるべきかもしれない。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 学園における私の交友関係も、前世とはかなり異なるものになっていた。前世の私は入学前から王都のお茶会などに足しげく通っていて、そこですでに出来上がった人間関係をそのまま学園に持ち込んでいた。つまり「ザ・貴族令嬢」って感じの方々を取り巻きにしていた。


 前世の私の交友関係は恋愛小説に登場する悪役令嬢とその取り巻きのテンプレのようなもので、私の「友人」たちは嫉妬に狂った私によるレベッカさんへのいじめ、嫌がらせに積極的に加担し、実行犯になってくれていた。


 主犯格の私が退学処分になった際には、彼女たちにもそれぞれ罰が下されたのを覚えている。


 で、今の私はというと、王都のお茶会などはどうしても断れないもの以外は参加せず、参加しても自分から積極的に誰かに関わろうとはしなかったので、当然ながら前世の取り巻きたちとの交友関係はできていなかった。そして、入学してからも特に彼女たちと親しくしようとは思わなかった。


 …というか、正直新しく友達を作るよりもメイソンやアイリーンとの時間を大事にしたいなと思っていたから、私は学園に来てからもあまり積極的に他の生徒と関わろうとはしていなかった。もちろん、あえて他の生徒を遠ざけようともしていなかったけど。


 一言でいうと去る者は追わず来る者は拒まずって感じだね。そしてどのような者たちが「来てくれた」のかというと…主に武闘派女子たちである。


 どうやら同級生たちの私に対する評価は「公爵令嬢の身分なのに入学前から冒険者登録をして、ソードマスターを二人引き連れて時々自分でも双剣を振り回しながら地元で暴れまくっていた、ちょっと手が付けられないレベルのやんちゃなお嬢様」というものらしい。


 で、騎士志望とか冒険者志望とかの武闘派女子たちは私の武勇伝と、その武勇伝を裏付ける、実技の授業中に見せる魔法の火力や剣の腕などに心惹かれたらしく、彼女たちにとって私は憧れの存在になってしまったのである。


 結果、いつの間にかできた私のグループは前世とはまるで性格の異なるものになっていた。


「そういえば前から気になってたんだけどぉ、やっぱりメイソン先生とアイリーンさんって付き合ってんのかな?」

「…!?」


 いや今思いっきり吹きそうになったんだけど。いきなり何を言い出すの!?あんたのその色気たっぷりの目は実は節穴だったの?


「…そうだな。確かにデモンストレーションの時の二人は、心からお互いのことを信頼して高め合っている関係に見えた。恋人同士と言われても違和感はない」


 お前もか!毎日鍛練頑張るのもいいけど、もう少しちゃんと状況を把握する力も身につけないと将来優秀な指揮官にはなれないぞ。


 ある日のランチタイム。直前の授業で一緒だった友人の武闘派女子二人との食事中のことだった。…武闘派女子って言ってもやっぱりガールズトークは大好物だからね。別に食事中も効率の良い魔物の狩り方とか手っ取り早く相手を無力化する方法とかの会話で盛り上がっているわけではない。


 最初に頓珍漢なことを言い出した子はリズ・アレキサンダー嬢。男爵家出身だけど学園入学前から1年ほど冒険者として活動していて、もちろん卒業後も冒険者を続けるとのこと。


 まだ15歳なのになぜか妖艶な人妻のような色気が漂う娘で、中身も見た目通りで快楽主義かつ刹那主義。スリルのない人生は耐えられないらしい。新入生で二人しかいない現役の冒険者同士ってことで仲良くなった。


 リズの的外れな言葉に同意した子はメラニー・クレスウェル嬢。代々優秀な騎士を輩出し続けているクレスウェル伯爵家のご令嬢で、本人ももちろん騎士志望。


 外見も性格も「凛とした女騎士」そのもので、将来「くっ殺」的な展開に巻き込まれないかお姉さん心配である。ちなみに公爵令嬢の身分でありながら愚直なまでに強さを求め続ける私の姿勢に感銘を受けたらしい…。


「だよねぇ。お似合いだよねぇ、あの二人。カッコいい大人のカップルって感じで」

「ああ。私も将来、あのようにお互いを高め合えるパートナーに巡り合いたいと思う」


 もうやめて!とっくにチェルシーのライフはゼロよ!


「……二人はそういう関係じゃないはずだよ。というか、どうして先生と「アイリーンが」付き合ってると思ったわけ?一応、私も同じパーティーのメンバーなんだけど」

「あらそうなのぉ?お似合いかなと思ってたのに」

「そうなのか。…となると、ベックフォード先生は今お付き合いされている方はいないのか?」


 おい女騎士、お前今何考えた。正直に言え。正直に言えば手足ふん縛ってオークの群れに投げ捨てるくらいで許してやる。


「ううん、将来を約束している相手がいるよ、先生。てか二人に華麗にスルーされたからもう一回聞くけど、どうして「アイリーンと」先生が付き合っていると思ったわけ?ほら、私と先生が付き合っている可能性だってあるじゃない」

「チェルシーとメイソン先生がぁ…?」

「……」


 顔を見合わせる二人。結論からいうと、私とメイソンが付き合っているという可能性は「非現実的過ぎて」考えたこともなかったらしい。年齢も10歳近く離れているし、絶望的なまでの身分の差もあるからまずあり得ないだろうと。


 むしろ私という共通の主人に仕える凄腕の剣士二人が、実は恋人同士で、心から愛し合っていながらも「二人ともお嬢様に命を捧げよう。どちらかが先に死んだら生き残った方が最後までお嬢様を守ろう」って感じの誓いを立てて私への忠誠を優先しているという感じの妄想の方が異常なまでにしっくりくるらしい。


 てかこれ、単なる妄想ではなく、現役の小説家として活動中の学園のとある女子が、誰がどう見ても私たち3人をモデルにしているようにしか見えない、同内容の長編小説を最近出版しはじめていて、巷では割とヒットしているらしい。


 …いやモデルにするなら一言断れ。てか監修させろ。家の権力を使って禁書にするぞ。


 そしてもう一つ判明したのが、「誰があの規格外の公爵令嬢、チェルシー・ローズデールを落とすのか」というのが、男女問わず盛り上がる鉄板の話題として学内で大変好まれているらしい。


 ちなみに本命視されているのがカイル王子で、有力な対抗馬とみなされているのがヴァイオレット先輩だと。


 …いやとっくに落とされているから。心の隅々まで余すところなく完堕ちしててもうメイソンの言うことなら何でも聞いちゃう従順なペット状態だから。


 てか何でみんなわかんないんだ。さすがに「先生と将来を約束している実質恋人同士のような関係です」ってところまではオープンにはできないけど、私みんなの前でもメイソンに対する好意を隠していないはずなんだけどな。


 メイソンの前では常時、目がハートになっているんじゃないかって自分では思うんだけど…。


 それにしてもカイル王子にヴァイオレット先輩か。歪曲された情報がメイソンに伝わって変な誤解をされたらいやだな。


 …少し様子をみて、場合によっては何か対策を考えないといけないかもしれない。

いつも読んでいただいている皆様、誤字報告をいただいている皆様、そしてブックマークや☆評価をいただいている慈悲深き神々のような皆様…


本当にありがとうございます。


これからも超展開やご都合主義が続くとは思いますが、何卒最後までお付き合いいただけると嬉しいです。引き続き感想、ブックマーク、☆評価も心よりお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] >私のことが性的な意味でも大好きなアイリーン >(もう見て見ぬふりをするのをやめて現実を受け入れた…) wwwwwwwwwwwww 服にワインをこぼしたドジっ子メイドも、 ちょっと押せば…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ