表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/45

24話 二度目の入学式でした

 というわけで、またやってきました、王都ハート・オブ・ベルティーン。…しかも今度はこれから3年間、こちらで過ごすことになる。


 そう、今日は私の約10年ぶり2度目の入学式。前までは魔道学園に入学する前にメイソンと駆け落ちして、ここには来ないかもしれないと思っていたけど、メイソンが学園は卒業してほしいって。


 あまり良い思い出がない場所だから、正直また来たかったかというと来たくなかったけど…。ほら、私ってもうメイソンの言葉には絶対逆らえない立場だし?


 あと、学園卒業まで私の気持ちが変わらないことを証明すればその瞬間からメイソンは私のものになって、一生私だけを見て、死ぬまで私だけを愛してくれるって約束してくれたから、まあ、よしとしよう。


 …あれ?彼、そこまでは言ってなかったっけ?


 改めて学園を見渡してみる。王都の東の端にあるシスカイン島の約2割を占める広大な敷地に建てられた美しい建物の数々。


 敷地の南側に位置する正門は島の中心部に通じているが、「水の都」にある施設らしくその北側と西側はほとんどが運河に面しており、本土や王都内の他の島には学園から直接ボートを利用して移動することもできる。


 「平等・自由・責任」が学園の理念で、教育方針でもある。「平等」は、学園の門を潜った瞬間から身分の差は意味をなさず、生徒はみな平等な立場で知識やスキルを身につけながら切磋琢磨していくことが求められるというもの。


 実際には身分の差が全く意味をなさないというわけではないし、そもそもこの国における魔力保有者は圧倒的に貴族が多いため、実質的に魔道学園はほぼ貴族向けの高等教育機関兼士官学校の性格を持った学園とはいえる。


 ただ、うちの国の人たち、特に貴族は「魔法がよくできるやつが無条件でえらい」という偏った考え方をしているところがあり、実際に身分が低くても強い魔力や優れた魔道スキルを持った生徒は在学時から優遇され、卒業後は軍や国の研究所などにスカウトされて出世していく。だから確かに平等といえば平等な学園だと思う。


 「自由」に関してもそうだ。一応全寮制を採用しているが、外出や外泊は比較的自由だし、受講したい講義は自分の興味や魔力適合性を考慮して自ら選んでいくスタイルである。だから士官学校の役割も担っている割には堅苦しい空気は一切ない。


 「責任」は、「自由」に伴う責任は生徒本人が持つべきという考え方である。私自身が前世において自由に行動したことに対する全責任を問われる形で、卒業直前の退学処分から勘当、その後修道院への護送中の事故死という結末を迎えたことで、その理念が嘘や建前ではないことを、身をもって証明してみせた。


 …まあ、退学処分以外は学園の理念や教育方針と全く関係ないけどね。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 壇上でカイル王子が新入生代表挨拶を行っている。彼の顔見るの、いつぶりだっけ?覚えてないや。でも相変わらず美しい顔の少年である。なんか前よりも凛々しさや逞しさが出ていて、ますます非の打ち所がない美少年、いや美青年?に成長してるね。


 会場にいる多くの女子生徒がうっとりした顔で彼の話を聞いているのも頷ける。…でもあなたたち、やめておきなさいな。彼はあと数か月もすればこの学園で運命の相手と恋に落ちてしまうから、今あなたたちがいくら熱っぽい視線を彼に向けても何の意味もないよ。


 そう、彼はこのキャンパスで運命の人――1年に数名しか入学しない平民出身の生徒で、しかも私の闇属性よりもその数が少ないことで知られる光属性の適合者、レベッカ・ウェストウッドと恋に落ちるのだ。


 ちなみにこの光属性は、よく聖属性と混同されるが、別物である。聖属性は浄化、治癒、防御がメインの、割と一般的で適合者も多い属性で、光属性は「光」の性質を持つ強力な攻撃魔法がメインのレア属性。そして光属性の適合者は基本的に聖属性にも適合するので、みんな攻撃も治癒も寝取りもできるオールラウンダーである。


 …最後のは違うか。


 私はすでに彼女の姿を確認していた。淡いピンクの長い髪と濃い臙脂(えんじ)色の大きな瞳、少し小さめながらも筋が通った形の良い鼻に、みずみずしい唇。少し垂れ目なところが柔らかい印象を与え、全体的に細身なのになぜかそこだけ立派に育った胸が世の男性の視線を釘付けにする。


 お姉様が天使や女神のような異質的な美しさを誇る絶世の美女だとすれば、彼女は「世の男性の理想をかき集めて平均値を出したものをそのまま具現化した美少女」とでもいうべきだろうか。


 清楚系のゆるふわ女子って感じの外見で、私と真逆のイメージである。彼女が慈愛の聖女で、私が邪悪な魔女ってところだな。…言ってて悲しくなってきた。


 で、その邪悪な魔女の私は、もちろんカイル王子の美しいご尊顔には微塵も興味がなく、壇上後方の教員席でやや緊張した面持ちで座っている、黒髪の青年に熱視線を送っていた。


 うん、私が選んだスーツ、とてもよく似合っているよ、せんせ♡


「次は新任教員のご紹介です。ベックフォード先生、よろしくお願いします」


 きたきた!


「…初めまして。今年から剣術教科を担当するメイソン・ベックフォードと申します。皆さんの将来に少しでも役立つ内容をお伝えできればと考えています。特に将来、軍や冒険者を進路として考えていらっしゃる方は、ぜひ受講をご検討いただければと思います。もちろんそうでない方でも、少しでも剣術にご興味がある方はぜひ見学にきてください。これからよろしくお願い致します」


 うんうん、割とシンプルな自己紹介だけど彼の謙虚で誠実な人柄が滲み出ているね!さすが私の旦那様(予定)!



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 そう、メイソンは私の入学と同じタイミングで、魔道学園で新設された剣術教科の講師に就任することになった。どうしてそうなったか?そこには私のヤンデレチートなお姉様のアドバイスと全面的な協力があった。


「…甘いですわ」

「…えっ?そ、そうでしょうか」

「ええ。甘いです。むしろ私、チェルシーさんがそのようなお話を受け入れたことに驚いてしまいましたわ」


 メイソンと将来のことを約束したあと、私は帰省したお姉様に嬉々として詳細を報告した。


 魔道学園の卒業後に正式に交際を始めることになったこと、私が魔道学園に在籍している3年間、彼も一緒に王都にきてくれる予定で、彼は王都を拠点に冒険者として活動しながら休日はできる限り一緒に過ごしてくれることになったこと。


 私としては、それまではいつまで待てば良いかが分からない状況だったのに、これで「魔道学園卒業日」という明確な期日が設定されたわけだから、非常に大きな進歩だと考えていたのだが…どうやらお姉様から言わせるとそんなことはないらしい。


「どこがいけなかったのかわからない、という顔をされていますね」

「…はい、正直。私としては「これで私の人生のハッピーエンドは約束された」と思って、とても喜んでいたので…。」

「……はぁ。仕方がありませんわ。可愛い義妹(いもうと)のために一肌脱ぐとしましょう。…ではまず、どこが良くなかったのかご説明いたしますわ」

「お願いします…」

「チェルシーさんが学園で過ごす3年間、ベックフォード様は何をなさるんでしたっけ」

「ハート・オブ・ベルティーンを拠点にして、冒険者活動をすると言っていました。…少しでも私に相応しい男になるために死ぬ気で頑張るって言ってくれましたよ?すでに相応しいどころかむしろ私なんかを引き取ってくれる気になってくださってありがとうございますご主人様、って感じなのに」

「……チェルシーさんが今、「どうですか。私の旦那様素敵でしょう?」と強く主張したいということはよくわかりました。否定もいたしませんわ。ただ、問題はそこです」

「……?」

「…チェルシーさんは、そんな素敵な未来の旦那様を、お二人で過ごす休日以外はチェルシーさんの目の届かないところに野放しにするおつもりなんですか。ベックフォード様、きっと冒険者として大活躍するでしょうね。あれだけ優秀なソードマスターの方が死ぬ気で努力されるんですものね」

「……!!」

「それってまるで王都に住むすべての女性に向かって「どうぞ私の素敵な旦那様を奪っていってください。今なら無料ですわ」と宣伝しているようなものだと思いませんか。そしてベックフォード様に対してはこう言っているようなものです。「どうぞ3年間、毎晩毎晩好きなだけ浮気をしてきてくださいね。私待っています」と」

「……」

 

 そ、そうか…魔道学園で誰に言い寄られても私の気持ちが変わらないことを証明すればクリアと思っていたが、そんなことはなかったんだな。王都でメイソンがモテまくってしまう可能性を全く考慮していなかった。


 そもそもメイソンを早めに探し出して屋敷に住まわせた理由はなんだったんだよ。マリーとやらの魔の手から彼を守るためじゃなかったのか。メイソンが私の目が届かないところで冒険者活動をしているうちに、そのマリーとやらに出会ってしまう可能性をなぜ考えなかったんだ。


 …ふ、不覚。メイソンが将来を約束してくれたことに舞い上がってしまって十分な検討と冷静な判断ができなかった……。


「もちろん、お互いのことを信頼することはとても大事なことです。でも、そもそもお互いのことを裏切ることができないような状況を作ってしまうことの方が、より適切で目指すべき恋人同士の姿だと、私は思いますわ」

「……ど、どうしましょう?お姉様」


 うろたえる私。お姉様の価値観の正当性についてはこの際深く考察するのをやめよう。とにかくお姉様の言う通りだ。あれだけ素敵なメイソンが今までよりも頑張って冒険者活動をするとなると、そりゃモテるに決まっている。モテまくるに決まっている。


 そして私は、もちろんお姉様ほどではないとは思うけど、嫉妬深さと独占欲の強さには定評がある女なのだ。それで1回身を滅ぼしているくらいだから。…メイソンがカイル王子のように積極的に浮気をするとは思わないが、彼が他の女にモテている姿を想像しただけで(はらわた)が煮えくり返る。


 むしろモテるモテない以前に、彼が私の目が届かないところで女性の冒険者と一時的にでもパーティーを組んだり、ちょっとでも一緒に活動をしたりすることさえも絶対に遠慮してほしい。


 でも魔法の総本山であるこの国には、他国に比べても女性の冒険者が多いんだよね…。魔法は男女の身体能力の差なんか一切関係ないから。


「大丈夫ですわ。私にお任せください。…ベックフォード様は確か、剣術の指導がものすごくお上手で、人に何かを教えることにとても向いていらっしゃるというお話でしたよね?」



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 お姉様はすぐに動いてくれた。士官学校の役割を兼ねている学園ならば、軍人としての基本的な素養の一つといえる接近戦の基礎を身につけられる環境を生徒たちに提供すべきである、また接近戦の基礎を身につけることは、将来冒険者の道を目指す生徒たちにとっても間違いなく役立つと強く主張してくれた。

 

 学園始まって以来の天才で、現役の生徒会長にして卒業と同時に四天王への就任が決まっているお姉様の主張。


 そして彼女の実家で、軍部にもっとも強い影響力を持つラインハルト公爵家も彼女の主張を全面的に後押ししたため、学園側はすぐに次の学年から剣術教科をカリキュラムに追加することを決めてくれた。


 そして剣術教科の講師の人選に関しても、あっという間にメイソンが選ばれた。地元でトップ3に入る有名パーティーのソードマスターで、実戦経験豊富。


 パーティーメンバーであるチェルシー・ローズデール公爵令嬢が来年魔道学園に入学する予定のため、それ以降、所属パーティーは活動を休止する可能性がある。


 同じパーティーのもう一人のソードマスター、アイリーン・キャスカートに一から剣術を教え込み、わずか数年で王国トップレベルの剣士に育て上げた実績あり。


 また魔導士に対する剣術指導に独自のノウハウを持っており、そのことは彼の弟子の一人であるチェルシー・ローズデール公爵令嬢から提供された素晴らしいクオリティーの自作テキストによって裏付けされている。


 といった趣旨の推薦状がラインハルト公爵名義で学園に届いたとのことで、すぐに学園側から彼が所属するローズデール公爵家に対して身分照会があった。


 結果、「偶然にも」来年の学期が始まる直前にローズデール家との契約が満了することが判明したので、学園からローズデール家に対して契約終了後に彼を移籍させてもらえないか打診された。


 ここまで私がやったことといえば、大事に保管していた「ベックフォード流双剣術」のテキストのコピーをお姉様に渡したことと、お父様とお母様に対して「もしかしたら学園からメイソンのスカウトの話が届くかもしれないから、その際には認めてほしい」と根回しをしたことくらいだった。後はすべてお姉様に丸投げ。


 ……一生ついていきます、師匠。


 うちのお父様は(したた)かな人だなと思ったのが、最初から移籍を認めるつもりでいながらもお父様は表面上、不快感と難色を示した。


 「彼はローズデール家にとって必要不可欠な人物。今回の2年契約が終了する段階で、永久的にローズデール家で雇い入れるつもりだった。突然の移籍要請に困惑しているし、簡単には受け入れられない」と。


 その後も何度か学園側と交渉したり、王家からも移籍の了承を求める手紙が届いたりして、ローズデール公爵家から学園と王家に恩を売る形で「渋々」移籍を認めることにしたらしい。


 あ、魔道学園は「王立」魔道学園だからね。バックには王家がいるんですよ。まあ、実際には学園側が作った手紙に王家の誰かがサインしただけだと思うけどね。


 もちろん、ここまでの一連の流れに巻き込まれてもっとも困惑していたのは他ならぬメイソン本人だった。特にラインハルト公爵からの推薦状の内容を見た際には「いや…これ誰だよ。過大評価しすぎだろ…」とちょっと青白い顔になって呟いていた。


 そう?事実だけを客観的に述べていると思うけど。


 でも優しい彼は、私がどうしてもずっと彼と一緒にいたくて、お姉様とお父様に無理を言ったって伝えたら、笑顔で許してくれた。そして「俺もこれからも一緒にいられることを嬉しく思います」とも言ってくれた。


 んんー、好き!勝手なことしてごめんね。もし慣れない生活でストレスがたまったらベッドで私相手に発散してね。


 ……はい、自重します。

今日から学園編スタートです。

ブックマークや☆での評価、よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ