23話 とんでもないものをもらっちゃった件
メイソン視点です
「…これを俺に、ですか」
「はい!」
俺の大好きな、太陽のような笑みを浮かべて楽しそうにこちらを見つめてくるお嬢様。彼女が俺に渡してきたものは、とても上品でおしゃれなデザインのシャンパンゴールドの双剣だった。まるでお嬢様をイメージして作られたような美しい剣だな…。
…恐る恐る聞いてみる。
「あの…これ、ものすごく高価なものでは…?」
「メイソンが気にすることではありませんよ。愛する方に貢ぐことは貴族の嗜みで、どれだけ高価なものを貢いでいるかが貴族のステータスになるんですから」
うん、ここはさすがに突っ込んでおくべきだろうな。
「……そんな嗜みもステータスも聞いたことがありません」
「冗談ですよ。うちの家が昔から取引している商人の方から安く譲ってもらったんです。あと、メイソンが強くなればなるほど私がより安全になるわけですから、これは自分の身を守るための投資なんです」
「…わかりました。では、ありがたく頂戴します。大事に使わせていただきますね」
「そうしてください♪その剣は私の分身ですからね。離れている時もそれを見て私のことを思い出してくださいね」
「…はい、そうします」
「離れている時」自体が割と少ない気もするが、そこは突っ込まないでおこう。
「よろしい♪あ、ちなみにロングソードの方はアーティファクトですからね。マン=ゴーシュは普通ですけど」
「…はい!?」
いやいやいやいや、アーティファクトだって?アーティファクトというのは、主に古代の技術で作られた特殊な能力付きの武器や道具で、現代の魔道技術では再現できないものをいう。どんな能力がついているかにもよるが、とんでもない値段するはずなんだが…。
「いいリアクションですねぇ♪能力は「魔殺し」と呼ばれるもので、防御系の魔法を貫通したり、攻撃魔法を弾き飛ばしたりすることができるんだそうです。今度私の魔法で試してみましょうね」
マジか。割とヤバめの能力じゃねーか。となると、これを持ってる剣士は、いわば「魔導士の天敵」のような存在になっちゃうぞ。…てかこれいくらだったんだ。50万とか100万とかしたんじゃないの?
…あれ?よく見るとなんか文字が彫られている。しかも古代文字じゃないな。
「チェルシーより、愛をこめて…」
「気づいていただけましたか。いいでしょう?特殊能力だけじゃなく、私の愛情もたっぷり込められているんです♪」
「……お嬢様」
「負担に思うことはありませんよ。もちろんお返しも必要ありません。私が勝手に押し付けただけですからね。でも今更「いただけません」は受け付けません。先ほどメイソン、ありがたく頂戴しますって言いましたし」
「……ありがとうございます。少しでもお嬢様のお役に立てるよう、これからも誠心誠意努めて参ります」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
数日後、お嬢様と二人でビーチを訪れた俺は、お嬢様が放つ攻撃魔法をロングソードで弾き飛ばしたり、お嬢様が防御系の魔法をかけた丸太を斬ってみたりして性能実験を行った。
結果から言うと…ヤバいよこれ。上級魔法まで普通に弾き飛ばせるし、飛んでくる魔法を切り落とすなんてこともできちゃう。丸太を斬ってみたらかかっているはずの防御魔法が完全に無効化されてしまって、切れ味自体も抜群だから簡単に真っ二つになったし。
今までは主にマン=ゴーシュが最低限の防御のための道具で、ロングソードは専ら攻撃用という位置付けだったけど、その戦い方を多少変える必要があるとしても、この双剣を積極的に使いこなす価値は十分あると思う。
『ゲーティア』とか『イル』みたいな特殊な魔法には対処できない可能性はあるけど、魔導士との戦闘においてはほぼ無敵に近い感じになっちゃうからね、この剣があれば。特殊能力抜きにしても剣としてのベーシックな性能自体、素晴らしかったし。
実際の性能を見たお嬢様は、「イメージ通り」といった顔でとても満足気だった。そして今は実験終了後のビーチで二人並んで座って海を眺めながらいつものように談笑中である。
「私がその剣をメイソンにプレゼントしようと思った理由、話してもいいですか」
「はい、もちろん」
「一つ目の理由は、色がなんとなく私っぽいから。メイソンもそう思うでしょう?」
「そうですね。色だけじゃなくて、おしゃれで上品なところもお嬢様とよく似ています」
「…ありがとう。もう、照れるじゃないですか。……とにかく、私はメイソンに私の分身のような剣を持っていてほしかったんです。それが一つ目の理由」
「…ありがとうございます」
「そしてその剣が気に入った理由はもう一つあるんです」
「どんな理由ですか」
「それはね、その剣が「魔殺しの剣」だったことです」
「…なるほど?」
ちょっと今の言葉だけじゃ真意が読めないな。どうしてそれがよかったんだ?
「ちょっとよく分からないって顔をされてますね。ふふ」
「…すみません」
「いえ、分からなくて当然だと思います。で、その剣の能力が気に入った理由なんですけど」
「はい」
「…その剣があれば、メイソンは簡単に私の命を奪えるからなんです」
「……はい?」
ますますわかんなくなってきたぞ。何を言ってるんだ、このお嬢様は。
「ほら、その剣を持ったメイソンっていわば「魔導士の天敵」のような存在になっちゃうじゃないですか」
「……そうですね」
「だから私に多少強い魔力があるとしても、その剣を持っているメイソンには絶対に敵わないわけです」
「そう…でしょうか」
たとえば『イル』で体内から壊す方法を使えば、この剣を持っていたとしてもお嬢様が勝つと思うけど。てかそもそもなんで殺し合う前提なんだ。
「はい、一流のソードマスターのメイソンが、魔導士を狩ることに特化したアーティファクトを持ったわけですからね。私が敵うはずがありません」
「はぁ…」
ここで反論したところで話がややこしくなるだけだから、とりあえず続きを聞こう。
「だから…もしね、そんなメイソンに敵うはずもない存在の私が、自分の立場をわきまえずにメイソンのことを裏切ったり、悲しませたりしたら……斬っちゃえばいいんですよ、そんな女は。その「魔殺しの剣」で」
「……」
「そうでなくても、もし私がメイソンの言うことを聞かなかったり、私の行動で少しでもメイソンの気に入らないところがあったら、メイソンはその剣を突き付けて私にこう言えばいいんです。「殺されたくなければ俺の言うことを聞け」って」
「……」
「…どうでしょう。少しは私のこと、お手頃な存在に見えるようになりましたか」
なるかー!愛が重すぎるわ。最近ちょっとヤンデレ色を出しすぎですよ、お嬢様…。
でもあれだな、お嬢様の今の言葉を聞いてよく分かったけど、彼女は今、俺が彼女に対して思っていることをほぼすべて見抜いているんだな。
……彼女に『見える』のは本当は未来なんかじゃなくて人の心じゃないのか?
「…残念ながら、むしろ前よりも「この人には敵わないな」って思うようになりました」
「えええ!?どうしてそうなるんですか」
「だって、お嬢様は俺の気持ちが全部わかっているから、そんな風に言ってくださったんでしょう?……たとえば、俺は自分がお嬢様に釣り合うところが一つもないと思っているところとか……近い将来、俺なんかより遥かにすごい人たちがお嬢様の前に現れたら、お嬢様の気持ちが変わっちゃうんじゃないかって心配しているところとか…」
「……そりゃあ、まあ、ずっと見てますからね。メイソンのこと」
「…本当、こんなヘタレなおじさんのどこがいいんですか」
「全部です。そのちょっとヘタレで可愛いところ含めて」
「……ありがとうございます」
「どういたしまして」
「……俺、もっと真剣に考えてみます。お嬢様との今後のこと」
「…はい♪」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
数日後、俺は自分の今の考えや気持ちを包み隠さずお嬢様に伝えた。
お嬢様は王妃にでも四天王にでもなれる人だと本気で思っていること、でも俺と結ばれるとなると、おそらく駆け落ちがもっとも現実的な将来像になってしまうこと、そうすることによって、お嬢様の未来に広がる無限の可能性をすべて俺なんかのために使わせて良いのか、俺が奪ってしまって良いのかまだ確信が持てないこと。
そのうえで、俺が考えた二人の今後のことについても提案した。来年、お嬢様が魔道学園に入学したら俺も王都を拠点に冒険者として活動するつもりだと。彼女が魔道学園に在籍する3年間、少しでもお嬢様に釣り合う男になれるように死ぬ気で頑張ってみると。でも休日はできるだけ一緒に過ごそうと。
そしてお嬢様の気持ちが魔道学園を卒業しても変わらないのであれば……
その時は駆け落ちでも何でもしよう、と。
我ながら結論を先延ばしにしているだけの時間稼ぎの提案で、しかも「魔道学園でどんな男と出会っても君の気持ちが変わらないことを証明してね」と上から目線でお嬢様を試すような主張でもあり、もしかしたらお嬢様はとても不愉快に思ってしまうんじゃないか心配した。
…でも正直、この提案が理由でお嬢様に愛想を尽かされるなら、それはそれで仕方がないって気持ちもあったかもしれない。どこまでもヘタレな男だよ、俺は…。
でもお嬢様は…
「はい、もちろんそれでいいですよ。…私とのこと、真剣に考えてくださってとても嬉しいです」
と俺の大好きな笑顔でそう答えてくれた。
「……まさか喜んでいただけるとは思ってませんでした」
「そうですか?だって、あと4年待てばいいんでしょう?あと10年はかかるかもしれないと思ってたので、なんだか得した気分です」
俺のヘタレと優柔不断がいつの間にか彼女の忍耐力を強く鍛えてしまったわけね…。申し訳ない…。
「でも魔道学園を卒業しても私の気持ちが変わらなかったら、ちゃんと引き取ってくださいね。その時になって「やっぱ要らない」って言われたら、私メイソンの目の前で自分自身をターゲットに『ゲーティア』を解き放って自害しちゃいますからね」
「…もちろんです。その時はお嬢様がどんなに嫌がっても強引に掻っ攫って俺の妻にします」
「……それいいかも。嫌がるフリをしますので、掻っ攫ってもらってもいいですか」
「…どうぞ。そういう時のための「魔殺しの剣」ですから」
「んんー、素敵!やっぱり多少無理をしてでもその剣を手に入れて正解でした」
「えっ、やっぱり無理をされてたんですか?知り合いの商人から安く譲ってもらったのでは?」
「……あっ」
こうして俺は、自分が釣り合っているとは到底思えない美しい公爵令嬢と、条件付きではあるが将来のことを約束してしまった。……少しでも、ほんの少しでも彼女の隣に立つに相応しい人間に近づけるよう、これから毎日死ぬ気で頑張らなきゃ。
前半はこれで終了になります。明日からは後半の学園編を投稿してまいります。
明日からは少しペースダウンして、1日1話のペースで投稿いたします。
6月中には完結させる予定ですので、宜しければぜひ最後までお付き合いいただけると嬉しいです。
ブックマークや☆での評価、感想などもぜひよろしくお願いいたします。




