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22話 貢いでみました

 落ちそうで落ちない。私が14歳になった今も戦局は膠着(こうちゃく)状態が続いていた。…おかしいな、12歳でメイソンを見つけた時は、今頃長男か長女が生まれて14才の母になっているかもしれないなと思ってたんだけどな…。


 何が足りないのだろうか。押しが足りない?いや、そんなことはないはずだ。これで押しが足りないというなら後はもう夜這いをかけるくらいしか方法がなくなる。


 もっとヤンデレテイストを出した方がよいだろうか?「もしあなたがこのまま私の想いを受け入れてくれなかったら、そのうちあなたの目の前で自らをターゲットに『ゲーティア』を解き放って自害してやる」くらい言った方がいい?


 ……とは言ってみたものの、実は進展がない理由は自分でもなんとなく分かっている。たぶん、彼は自分が私と釣り合わないって本気で思い込んでいる。一緒に魔物討伐をするようになって、私の魔力を目の当たりにしてから、それがさらにひどくなったみたい。


 それまでは「身分と年齢」を主に気にしていた様子だったけど、私が魔導士としてちょっと名前が売れるようになってからは、「そもそも能力面でも自分は私に釣り合わない」って思っていることが日々の言動から滲み出るようになった。


 実際には私たち3人はセットで名前が売れているわけで、メイソンとアイリーンも十分高評価を得ているし、特にギルドの皆さんは私たちパーティーのリーダー格が私ではなく、メイソンだってこともちゃんと分かってくれている。


 世間で私の名前が先行しているのは魔法が重視されるこの国の特性と、「ローズデール」という名前がもたらす話題性と付加価値がその理由である。


 それなのに彼ときたら…。「仮にお嬢様が本気で冒険者の道を目指すなら、俺なんかより遥かに腕の立つメンバーを集めることだって簡単にできますよ」とか頓珍漢なこと言ってくるんだよね。


 いやあの…、私はあなたと一緒になるために冒険者を目指すわけであって、ですね…。


 正直、彼がここまで自己評価の低いヘタレ系男子だとは思わなかった。前世では結構グイグイきてくれてたからね。言ったっけ?一緒に旅するようになって4日目にはベッドに引きずり込まれたって。


 まあ、たぶん前世の彼は、私と一緒にいられる時間が一週間しかないことをよく分かっていたから、難しいことは何も考えず本能に身を任せて私に愛情を注いでくれたのかもしれない。……今回もそれでいいのにな。


 彼がウジウジしてるのを見て愛想を尽かしたかって?もちろん、そんなことは全くない。むしろ上等だよ。いくらでも悩めばいい。彼がいくら自分は私に相応しくないとか訳のわかんないことを思っていたところで、私に言わせると私に相応しい相手は彼しかいないんだから。


 王侯貴族に言い寄られたら心変わりするんじゃないかって心配しているなら、何があっても私の気持ちが変わらないってところを見せてあげる。私はあなたの元カノとは違うからね。…まあ、元カノといっても前世の元カノで今回の時間軸では彼と会ったこともないはずだけど。


 …うん、そうだね。焦ることはない。思ったより時間がかかっているだけで、今の状況を維持していけば良いんだ。まだ魔道学園への入学までは時間があるし、魔道学園に行くとしても彼に同行してもらうか、少なくとも王都には一緒に来てもらえば良い。


 どんなに時間がかかってもいいから私のことをまた死ぬほど好きになってもらって、心から信頼してもらって、今度は一生かけてたっぷり愛し合っていくんだ。私は14歳。まだあわてるような時間じゃない。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「これは…」

「お気に召していただけましたかな」

「…ええ。もちろん」

「光栄に存じます」


 私はうっとりした顔で目の前の双剣を改めて鑑賞する。


 エッジと切先(きっさき)の狭い部分は一般的な銀色だが、広めのフラーからグリップにかかる剣のほとんどの部分は私の髪の色と同じシャンパンゴールド。


 そのシャンパンゴールドの部分にはつや消し加工が施されていて、全体的なデザインはとても上品でおしゃれ。そしてポメルにはなんと私の瞳と全く同じ色のサファイアがはめ込まれている。


 そして、それぞれの剣のフラーの部分には「チェルシーより、愛をこめて」という文字が筆記体でスタイリッシュに彫り込まれている。


 …正直にいうとこれ、二番煎じだけど、前世でとある敵がやったことのパクリだから今回の時間軸では私のオリジナルである。……敵の策だとしても、良いものは取り入れなきゃね。


 …それにしてもさすがローレンス商会だわ。オリジナルのロングソードのコンセプトをここまで完璧に再現したマン=ゴーシュを作ってくれるなんて。まるで最初から双剣として製作されたものみたい。しかもアーティファクトに文字の彫刻まで普通にできちゃってるし。


 何をやっているのかって?メイソンへのプレゼント用の品が完成して、出来上がった商品を見て私がうっとりしているところである。

 

 アーティファクトのロングソードの購入費用とロングソードに寄せたデザインでオーダーメイドしたマン=ゴーシュの製作費用、合計で約52万ゴールド。


 あ、ちなみにアーティファクトというのは、主に古代の技術で作られた特殊な能力付きの武器や道具で、現代の魔道技術では再現できないものをいう。その「特殊な能力」がどんなものかにもよるけど、基本的にものすごい高値で取引される。


 今回の剣なんかも、私が今までの冒険者活動で稼いだお金と、こそこそやっていた、魔宝石に闇属性の魔力を込めて販売するバイトで溜めたお金をすべて合計しても不足があったので、お父様にも一部出してもらった。


 お父様は全額出してくれるって言ったけどさすがに申し訳ないから足りない分だけお願いした。


 …あーあ、私ってやっぱり計画性のない女だ。勘当されたり逃亡生活になったりして収入が不安定になることに備えて、バイト頑張って結構な大金を貯めていたのに…。


 今回のお買い物で一瞬で貯金を使い果たしてしまった。「まるでお嬢様をイメージして作られたような美しい剣でございます」という言葉巧みな営業にまんまとやられた。


 アーティファクトのロングソードに秘められた力は「魔殺し」と呼ばれるものだった。防御系の魔法を貫通したり、飛んでくる攻撃魔法を弾き飛ばしたりできるらしい。…魔力を持たない戦士が魔導士と戦うためにこれ以上なく最適な能力である。


 その話を聞いた瞬間、私は「これだ!」と思った。「魔殺し」の特殊能力付きの剣。その剣を一流のソードマスターであるメイソンが持てば、彼はいわば「魔導士の天敵」と呼ぶべき存在になるだろう。


 相手がお姉様みたいなチートならともかく、私くらいの魔導士なら余裕で斬り伏せることができるようになるはずだ。


 だから私はこの剣を彼に渡すことで、「これであなたは、もし私があなたを裏切ったらいつでも私の命を奪える」「いくら魔力が強くても、これで私はあなたに絶対に敵わない。あなたがいくらでも好きなようにできる存在だよ」というメッセージを彼に伝えて自信を持ってもらいたい。


 ……あれ?私ってやっぱりドMなのかな。今自分でも少し思った。


 この素晴らしい剣が私の手元に届いた経緯だが、ロングソードを仕入れた、ローズデール家と長年の付き合いのあるローレンス商会の会長(私が魔宝石を仕入れて、闇属性の魔力を込めたうえで独占的に販売する取引先でもある)が、剣を見た瞬間私の顔を浮かべてくれたらしく、うちの屋敷への定期訪問時に「とっておきの品が入った」といいながら見せてくれたのがきっかけだった。


 会長は最初、私が持つ武器として考えてくれたらしく、私が二刀流の使い手と聞いているので、このロングソードにデザインを合わせた短剣も作れますよって営業をかけてきた。


 その話に飛びついた私はマン=ゴーシュの製作も依頼し、同時にプレゼント用にするのでロングソードとマン=ゴーシュにメッセージを彫刻できないか相談した。


 彫刻したいメッセージの内容を聞いた会長は内心「ははーん、さてはこの小娘、男に貢ぐつもりだな」と思ったんだろうけど、そこは洗練されたビジネスマン。詳細は何も聞かずに対応してくれた。


 その結果出来上がったのが、今私がうっとり見つめているシャンパンゴールドの双剣なのである。


 ちなみに剣にメッセージを入れてプレゼントするというのは、おそらくメイソンの前世の元カノのアイディアである。前世で彼が持っていたマン=ゴーシュの目立つところに「マリーより、愛をこめて」というメッセージが彫られてあったからね。


 それを見ただけではそのマリーとやらが問題の元カノで間違いないかということに確信を持てなかった。でも眠っている彼が「マリー、いかないでくれ…」と呟きながら苦しそうにうなされているのをみて、確信した。


 「私と愛し合った夜にどうして他の女の夢を見てるのよ」と正直少し、いやかなりムカついたけど、そこは惚れた弱みと最愛の人に裏切られた痛みを共有する者同士という関係性。私は優しく彼を抱きしめて「大丈夫。私がそばにいるよ」と囁き続けたのである。


 ……意趣返しじゃないけど、奪い取ってやったぜ、そのマリーとやらが前世でメイソンに行った愛情表現。しかもたぶんプレゼントの値段、100倍はするはずだよ。


 ……この調子で、彼が前世で元カノと一緒に過ごした時間よりも、100倍幸せな時間を私がメイソンに作ってあげるんだから!

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