18話 手玉に取られている件
メイソン視点です
お嬢様の俺に対する愛情表現は、夏が終わってからも一向に収まる気配がなく、むしろ勢いを増していた。
しかも夏が終わってからは「大好き、一緒にいたい」という10代の少女らしい初々しいものだけじゃなく、「私にはどうしてもあなたが必要」、「あなたがいないと私は生きていけない」といった危険な方向性のアプローチが増えてきた気がする。
最初のうちは正直、お嬢様の俺に対する好意は「まだ幼い少女が年上の男性に抱く一時的な憧れに過ぎない」とか「世間知らずの貴族令嬢の気まぐれ」だとしか思わなかった。いや、無意識にそう自分に言い聞かせていたのかもしれない。
だから数か月間、あえて肯定も否定もせず好意や愛情表現を受け流していれば、そのうち飽きるだろうと考えていた。でも、俺のその考えは甘かったのかもしれない。…というよりむしろ俺の考えは、すべて彼女に見抜かれていたらしい。
「…メイソンは、私のメイソンへの気持ち、「子供の年上の男性に対する一時的な憧れ」とか「世間知らずの貴族令嬢の気まぐれ」だと思ってるでしょう」
「…いえ、そんなことは…」
「私、ちゃんと分かってますよ。でも、私、今は別にそれでもいいと思ってます」
「えっ?そうなんですか」
「はい、かまいません。今の私には時間がたっぷりありますからね。そうじゃないってところ、これから時間をかけて証明すればいいだけの話です。焦っても仕方がないですしね」
普通はそこまで分かっているなら自分の想いに正面から向き合ってくれないことを怒るか、愛想を尽かすものではないのか?でも彼女は一切そのような素振りは見せず、むしろ俺の思い込みを今は受け入れたうえで、それが思い込みであることを時間をかけて証明すると言ってきた。
…お嬢様、大人じゃないか。むしろ俺より大人かもしれない。年齢だけで判断していた俺が間違っていた。少なくとも今までの彼女の言動を見る限り、彼女の想いが「まだ幼い少女の年上の男性に対する一時的な憧れ」とか「世間知らずの貴族令嬢の気まぐれ」ではないことは明らかだ。
俺、反省しなければならない。きっと俺は、無意識にお嬢様を子供扱いし、彼女の想いを甘く見ていた。最初から10代前半とは思えないくらい大人びた言動をされる方だったはずなのに。
うん、このままではいけない。真剣に一人の女性の俺に対する好意としてお嬢様の想いに向き合おう。これ以上彼女の想いをかわしたり、受け流したりするのは男として最低だ。今までの非礼もちゃんと謝罪しよう。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
お嬢様の想いに真剣に向き合った場合、俺が出すべき結論は決まっていた。…でも、もしかしたら彼女は俺がどのような結論を出して、どう行動するかもすべて見通していたのかもしれない。
「…あれ?私、メイソンに「お付き合いしてください」とお願いしましたっけ?」
俺が今までの非礼を詫び、俺は年齢も身分も何もかもあなたに相応しくない、今はつらいかもしれないが、きっと将来、あなたに相応しいパートナーが現れる。だから俺のことは諦めてほしい――思い切ってそう伝えたところ、お嬢様はキョトンとした顔で首を傾げながらそう答えたのだ。
「……いえ。ただ」
「ダメですよ、メイソン。そういう「お断り」はちゃんと告白を受けてからにしないと。「この男、勘違いしてる」って言われて恥を掻くことになるかもしれません。…でも安心してくださいね、私、今日のことは誰にも言いませんので」
「…わかりました。勘違いしてしまって申し訳ございませんでした」
なるほど。お嬢様は自分のプライドを守るために、「俺に振られた」のではなくて「俺が痛々しい勘違い野郎だった」という結論にしたいのか。もちろんそれで全然かまわない。そういうことにしておこう。
…しかし、彼女の言葉の続きは予想の斜め上をいくものだった。
「あ、いえ。今回の件に関してはメイソンは何も勘違いしていません。メイソンが思っている通り、私はメイソンのことが大好きで、メイソンさえ良ければ今すぐにでもお付き合いしたいと思っています」
「…え?」
「でも、もし私から告白したら今回のような答えになっていたんでしょう?それも分かっています。だからあえて、「お付き合いしてください」とは私からはお伝えしていないんです。メイソンに断られては困ってしまいますからね」
「……」
「子供の屁理屈だって思ってるんでしょう。ふふ、私もそう思います。まあ、断られたところで諦めませんから、毎日告白して断られてもよかったんですけどね。…あっ、もしかしてそっちの方をご希望でしたか」
言葉を失う俺。
「そっか…そうですよね。男の人って、自分に縋り付く女を見下して突き放すことで征服欲や加虐心を満たしたがる方もいらっしゃると聞きました。私、毎日メイソンに跪いて懇願しましょうか?どうか私とお付き合いしてください、可愛がってくださいって」
「…お嬢様」
「……ごめんなさい。茶化すような真似をして…。実は私、今すごく取り乱しています。ちょっとだけ深呼吸させてくださいね」
彼女、取り乱していたのか。落ち着いていたように見えたけど…。
しばらくしてから、諭すような口調で話を続けるお嬢様。
「…前にも言いましたけど、私、焦っていません」
「……」
「今私は13歳で、メイソンは21歳ですよね。確かに今すぐお付き合いするとなると、世間から好ましくは思われないでしょう。…でもね、私が20歳になったらメイソンは28歳で、私が40歳になったらメイソンは48歳です。それくらいの年齢差の夫婦、そんなに珍しくないと思いますが、いかがでしょう」
「…確かに、それはそうですね」
「でしょう?だから、少なくとも年齢に関しては「今だから」問題なんです。そして私は、メイソンが私の年齢のことが気にならなくなるまで、待つつもりでいます」
「……」
「だから、私に、もう少しお時間をいただけませんか」
いや…なんかいつの間にか「俺は何もかもあなたに相応しくない」が「年齢だけの問題」 にすり替わっている気もするけど…。
でもここまで言われてそれもダメとはいえないよね…。ダメといったところで、たぶん聞かないんだろうし。
「……わかりました」
「ありがとうございます!…あ、もしかしたら「その間に俺おじさんになっちゃうじゃん」って思っていらっしゃるかもしれませんが、それでも浮気は許しませんからね。手を出すなら私にしてください。浮気がバレた瞬間、それこそ魔道王国を敵に回すと思ってくださいね」
「…え、えーっと、お付き合いしていないのであれば、「浮気」ではないのでは…?」
「いいえ、ダメなものはダメです。私、独占欲強いのでちょっと本気で無理です。駄々をこねる子供だって思っていただいてかまいません。ものすごく権力を持った子供に捕まってしまった自分の不運を嘆いてください」
なんというか…今の俺、「手玉に取られてる」とか「手のひらで踊らされている」という表現がぴったりだと思う。格好つけて上から目線で諦めてほしいと説得するつもりが、完膚なきまでに論破されたうえにいつのまにか「半分くらい付き合っている」のような関係になってしまったのだから。
よく考えたら「身分」は俺が彼女に相応しくない理由の一つであるはずなのに、いつの間にか逆にその「身分」からくる権力を、浮気防止用に積極的に使うと宣言されてしまったし。
本当に彼女が俺より8歳も年下で、10代前半なのかが疑わしくて仕方がない。征服欲とか加虐心って言葉は誰から教わったんだよ…。
…でも、心のどこかで彼女が俺の「お断り」を受け入れなかったことや、これからも今の関係が続くことに対する深い安堵と喜びを感じている自分がいた。
いやヤバくない?これ。たぶん俺、もうお嬢様のことが…。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
その後もお嬢様のストレートな愛情表現は続いた。「焦らず待つとおっしゃっていたのでは?」というツッコミに対しては、次のような回答が返ってきた。
「もちろん私は待つつもりでいますよ。でもメイソンの方が待てないなら話は別じゃないですか。そして私はメイソンに「もう待てない」って思ってもらうための努力を怠るつもりはありません」
そ、そうですか…何事にも努力を怠らないことは素晴らしいことです。魔法も剣術もそうですもんね、お嬢様は…。
冷静に今の自分の気持ちを自己分析してみる。…うん、もはや陥落寸前といってもいいだろう。お嬢様は13歳になって益々大人っぽさを増してきていて、しかも顔立ちや雰囲気はものすごく俺の好みのタイプ。
見た目15、6歳にも見える超タイプの美少女に、ほぼ毎日、いろんな方法でアプローチされまくっているのだ。
そりゃあ、好きになるよね。惚れるよね。てかぶっちゃけ、割と早い段階でいいなとは思ってたんだ。あのラインハルト様との初対面でも「でもうちのお嬢様の方がもっと綺麗」ってナチュラルに思っていたくらいだしね。
ロリ〇ンで申し訳ない。でも俺も最近まで自分がそうだってことに気づいてなかったんだ…!
……最近は、もうこの際、後先考えずこのままお嬢様と付き合っちゃうかって一日平均4、5回は考えているが、その度に次のようなことを自分に言い聞かせながら必死に自分を抑えている。
「よくして下さった旦那様と奥様を裏切るのか」
「俺が彼女と結ばれる方法は駆け落ちしかないぞ、まだ13歳の子にそんな苦労を掛けて良いのか」
「現実的に考えろ。駆け落ちしたところで捕まって下手したら殺される。ローズデール家が簡単に俺を見つけ出したのを忘れたのか」
そして悶々とした毎日を過ごしているうちに当初の1年契約の満了日が近づいてきたので、俺はダメ元で行動を起こしてみることにした。
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