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13話 知らない間に夢に出演していた件

メイソン視点です

 ローズデール公爵家の屋敷に来て1か月が経った。住み込みの使用人用の別館2階に用意してもらった自分の部屋にもだいぶ慣れてきた。使用人用の部屋だといってもルバントンで借りていた部屋よりはるかに豪華で広々とした部屋である。


 旦那様や奥様、お嬢様に使用人の皆さんまで、この屋敷には気さくな人が多く、割とすぐに打ち解けることができた。旦那様、奥様、お嬢様に至っては気さくというより、やたらと俺に友好的な感じさえする。


 契約は1か月15,000ゴールドの固定報酬の1年契約にしてもらった。


 旦那様には「クエスト依頼書の記載を大幅に下回る条件での契約などできん」って言われたけど、一日1,000ゴールド+成功報酬だと逆に金額がプレッシャーになって安心して働けないと言って、こちらの主張を通させてもらった。「君はとても誠実な青年だね」って褒められた。


 で、その契約条件だが、今思うと、自らの減額交渉をしておいて本当によかったと思う。でも同時に、もっと低い金額と短い契約期間にすべきだったなと後悔もしている。


 なぜかって?それはここでの仕事、あまりやることがないからである。ぶっちゃけ護衛に関してはそもそも必要なのかどうかも怪しい。


 屋敷は数々の結界や魔法陣で厳重に守られていて、おそらく王国内でも一二を争うほど安全な場所とのことである。


 そしてお嬢様は、なんと12歳ながら将来を有望視されている凄腕の魔導士とのことで、この屋敷でもっとも強いのは間違いなくお嬢様本人らしい。…そんなに強いなら護衛要らなくない?


 護衛として外出に付き添うことは割と頻繁にある。ただ、外出の付き添いといっても非常に治安の良い街中でお買い物や遊び、外食などに付き合っているだけで、護衛らしい仕事は一度もしたことがない。


 貴族の専属護衛というのは元々こういう仕事なのかもしれないけど、このままでは腕がなまってしまうんじゃないかというのが非常に心配である。だから毎日のトレーニング量を増やした。でも実戦感覚はどうにもならないんだよな…。


 で、そんな要らない子の俺にできることがあるといえば、もう一つの業務であるお嬢様に対する剣術指導である。そもそも凄腕の魔導士なら剣術は習わなくてもいいじゃん、と思うが、なぜかお嬢様のモチベーションは非常に高く、とても真摯に練習に取り組んでいる。


 しかしながらこれがまた、全くうまくいっていない。

 

「……あの、元気出してください、お嬢様。最初からうまくできる人は少ないですよ」

「…ごめんなさい」

「あ、いや…謝らないでください?頑張っていらっしゃるのはよく知ってますし…」


 …そう、正直に言って、お嬢様は剣術の才能に恵まれているとは言えなかった。だからこそ本気で剣術を学びたいなら基礎や理論がしっかりしている国の騎士か、剣術指導のエキスパートからちゃんとした指導を受けるべきじゃないかと思う。


 正直、教えることに関しては素人の俺では力不足ではないか、ということをここ1か月で痛感していた。


「たぶんね、俺の教え方というか…俺の剣術自体がよくないと思うんですよ…」

「メイソンは悪くありません。私の飲み込みが悪すぎるだけです…」

「いや、そんなことないんですよ、本当に。俺の剣術って…なんていいますかね。理論とか基礎の部分があまりちゃんとしてなくて、感覚的な部分にだいぶ頼っちゃってる感じなんですよ。だから初心者の方に学んでもらうには結構ハードルが高いというか…」

「……」

「正直、お嬢様の護身のための剣術なら、国の騎士とかから体系的な指導を受けた方がいいと思うんですけど…」

「でも私はどうしてもメイソンに教えてもらいたいと思ってます。……ダメですか?」


 そういいながら上目遣いで俺を見つめるお嬢様。…か、可愛い。


「……わかりました。ちょっと俺の方でもいろいろ考えて工夫してみます。…とりあえず今日はここまでにしましょう」

「…はい、ありがとうございました」


 うーん、どうしたものか。そもそもなんでどうしても俺がいいんだ?あっ、そういえば俺、この仕事が指名クエストになった理由、まだ聞けてないや…。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 自分が剣術を習っていた時のことを思い出してみる。


『オラ、立て。構えろや。まだまだ終わんねぇぞ。自分が腹痛めて産んだ息子がこんなクソ軟弱なガキだなんて、アタシはぜってー認めねーからな』

『あ"ぁん?なんだその腑抜けた攻撃は!殺すつもりでかかってこいやボケ!じゃないとテメー、自分のかーちゃんにぶっ殺されっぞ?』


 ……うん、死と痛みを恐れる生き物の本能だけを頼りに、必死に身体を動かしていただけだったね。だから基礎も理論もないんだよなぁ。


 死にたくないから必死に動きまわり、死ぬ気で攻撃しないと痛めつけられるから全力で攻め込む。ただそれだけだった。だから人に教えるとなると基本「俺の動きを見て真似してください」になっちゃう。


 あっ、誤解がないように言っておくと、別に母から虐待を受けていたとかそういうわけでは全くない。剣術の鍛練の時間以外は普通に明るくて楽しいお母さんだった。良い意味で二重人格に近かったかな。母の教え方が厳しいのを知っていながら「剣術を学びたい」と言い出したのも俺だったし。


 「剣術は殺人技術だから、それを使う場面は命のやり取りをする場面。そういう場面になったとき、子供たちが生き残る確率が少しでも高くなるよう、最大限厳しく指導するのがアタシの精一杯の愛情」って母は言っていた。「最大限」の加減はちょっとあれだったけど、やっぱり母には感謝している。


 ちなみに3歳上の姉は幼い頃から騎士を目指していて、俺と同じ方向性で母の愛情をたっぷり受けて育っている。10歳の我が娘の顔面に割と本気の蹴りを入れる母の姿を見て、「剣術学びたいなんて言わなきゃよかった」と死ぬほど後悔した7歳の時の思い出が記憶に新しい。


 2歳下の弟は俺たちより賢い子で、姉と兄の姿を見て思うところがあったのか剣術のけの字も出さず、自分は父の店を継ぐと早々に宣言した。

 

 懐かしい思い出話で盛り上がってしまったが、やっぱりお嬢様のこと何とかしてあげたいな…。実は俺も決して剣術の才能に恵まれている方ではなかった。


 今、騎士として順調に出世していると聞く姉の才能に比べると、正直比較にならないくらい劣っていた。たぶん今でも姉には全く歯が立たないと思う。


 それでも剣士系ジョブの最上位職にあたる「ソードマスター」になれたし、冒険者としてそれなりに実績も残している。だから才能に恵まれていなくても、本気で強くなりたいと思っているならなれるはずなんだ。その点、お嬢様のモチベーションと練習量は本物だからな。


 だからお嬢様が本気で剣術を学びたいと思っていて、その指導を俺に任せたいと思っているなら、その気持ちと信頼に応えたい。


 ……あと、これだけの給料をもらっているのに護衛はやることがなくて剣術指導は結果が出ないというのもさすがに申し訳ない。そういった意味でもなんとかしないと。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 

 翌日、いつものようにお嬢様の部屋に呼ばれた俺は、お嬢様の専属メイドであるキャスカートさんにも剣術を教えてもらえないかと打診された。キャスカートさん本人の希望らしい。


 キャスカートさんは俺が屋敷についた初日、サロンに案内してくれたメイドさんで、お嬢様の専属同士ということで割と仲良くさせてもらっている。


 二人ともお嬢様と一緒にいる時間が長いから接点が多いし、予想通りものすごく有能な人なので、俺としては今では屋敷で一番頼りになる先輩だと思っている。彼女はポーカーフェイスな人だから俺のことをどう評価しているかは全く読めないけど。


 …それにしてもなんでまたメイドさんが剣術を?まあ、正直暇だし俺としては大歓迎だけど。


 お嬢様からはキャスカートさんの指導分は別途報酬が支払われるように手配すると言われたけど、全力で辞退させてもらった。キャスカートさんの指導分を考慮しても、今の給料で十分というか、もらいすぎですって。


 で、その後はいつもの雑談タイムになった。このベランダでお嬢様とお話するのはもう何度目だろう。お嬢様は俺の話を聞くのがとても楽しいらしく、生まれてからローズデール家に来るまでの自分の人生をあらかた語りつくしてしまった気がする。


 いろんな質問もされた。外国出身と聞いているけど具体的にはどこ出身なのかとか、剣術は誰から学んだのかとかいう世間話レベルの質問から、今付き合っている人はいるか、年上と年下どちらが好きかといった女子なら誰でも興味があるような質問、あと「マリー」という名前か愛称を持つ知り合いがいるかという謎の質問もあったな。


 確か「今付き合っている人はいない」、「好きになった相手なら年齢は気にしない」「マリーという知り合いはいない」と答えたけど、お嬢様はうんうんと満足そうに頷いて、その後はしばらくご機嫌だった。


 前の二つはおいといて、最後のは未だに意味がわかんないけど、まあ、いずれにしてもお嬢様が満足ならよかったよ。


 でも…そうだな。今日は良い機会かもしれない。俺のことはもう結構語りつくしているし、前から気になっていることを聞いてみよう。話のキリが良いところで…


「…そういえば前から気になってたんですけど…」

「お、私への質問ですかぁ?どうぞ♪」

「ではお言葉に甘えて…。えっと…その、今回の仕事が、指名クエストになった理由、まだ伺ってないなぁ、って」

「…ああ、そういえばまだお伝えしていませんでしたね。ごめんなさい」

「あ、いえ、まだ言えないような内容でしたら全然いいんですけど」

「別にお伝えできない内容ではないんですけど…かなり突拍子もない話なんですよね…」

「……もしよかったら教えていただけませんか。正直ずっと気になってて」

「…そうですよね。私、いつか必ずお伝えすると言ってましたしね。わかりました、むしろお伝えするのが遅くなってごめんなさい。…でも一つだけ、約束していただけますか」

「……」


 真剣な表情でほんの少しだけ首を縦に振ることで「続けてください」の合図をする俺。内容を聞く前に全面的に「約束します」なんて無責任なことはいえないからね。


 それにしても何だろう。これから話す内容は極秘だから誰にも言ってはいけない。漏らしたらあなたの命を保証できない、とかかな…?


「これからお話する内容をすべて信じてほしいとは言えませんし、正直話を聞いたら馬鹿馬鹿しいって思ってしまうかもしれません。でも、それでも「うちを去る」ということだけはやめていただきたいんです。…指名クエストになった理由がどんなものであっても、これからもうちでお仕事を続けていただけますか」

「…はい。それは約束します」


 なんだ。そういうことか。そもそも1年契約を結んでいるし、お嬢様の剣術指導も今の状態で投げ出すつもりはない。指名クエストになった理由はどうしても気になるから聞いているだけで、それがどんな理由だとしても契約を破棄して去るつもりは全くない。


「…ありがとう!では、少し長くなりますけどご説明しますね。えっと、どこからお話しよう。…そうですね。まずは、ローズデール家に伝わる『見通す眼』と呼ばれる能力について」



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 お嬢様から聞かされた指名クエストの理由は、確かに突拍子もないものだった。お嬢様はローズデール家に伝わる『見通す眼』と呼ばれる予知能力を持っていて、8歳の時に一度だけ予知夢を見たらしい。


 どうやらその予知夢の中で俺は命の危機に直面したお嬢様を助けていたらしく、将来お嬢様に迫ってくるかもしれない命の危機への保険として俺を探し出して専属護衛として雇うことになったとのことだった。

 

 (にわ)かには信じがたい話だけど、他に俺が一度も訪れたことがない魔道王国の大貴族から指名されるような理由もないから、おそらく事実なのだろう。


 ギルドに届いていた俺のフルネーム、年齢、ジョブ、使用武器、外見の特徴をよく捉えていながらも妙に美化されていた似顔絵もすべて彼女の夢から出てきた情報らしいし。


 …予知夢の中で俺が命を助けていたなら、別に探し出さなくてもその時が来たら出会っていたんじゃないの?とは思った。


 でも命に危機が迫っているかもしれないなら早めに手を打っておきたいという気持ちもよく分かる。しかもローズデール家にはそれができる財力と権力があるわけだし。


 それなら破格の報酬を出してでもなんとか俺をローズデールの屋敷に置いておきたいのも、公爵家の皆さん、特にお嬢様が最初から俺にやたらと友好的だったのもすべて説明がつく。俺はお嬢様の命への保険で、お嬢様本人にとっては将来の命の恩人だから。


 そして初対面の時にお嬢様が急に取り乱して動揺したのは、もしかしたら俺の顔を見た瞬間、夢の中で見た自分の命の危機の場面がフラッシュバックしたからなのかもしれない。うん、すべて辻褄が合うね。


 でもそれだとあれだな…お嬢様が夢で見たという「俺が命を助ける場面」が実現しない限りは、俺はずっと彼女の護衛をしていないといけないという話になるな。…高給まったりの理想的な職場ではあるけど、その後どうするんだ。俺、腕がなまりまくって全く使えない冒険者になるんじゃないか。


 …まあ、それを今考えても仕方がないので、とりあえずあまり深く考えないで1年間はお嬢様とキャスカートさんの剣術の指導を頑張るしかないね。うん、そうしよう。


 次の週から剣術の訓練を始めたキャスカートさんにはうちの姉に勝るとも劣らない剣術の才能があった。簡単なものなら俺の動きを一度見ただけで完璧にコピーできちゃうくらい。この才能の差にお嬢様が落ち込まないといいけど。


 ……お嬢様のための指導法、頑張って考えよう。

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