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10話 謎の依頼が届いた件

メイソン視点です。

「…人違いなんじゃないですか?もしくは同姓同名とか」

「それがさ、年齢、ジョブ、外見の特徴に使ってる武器まであんたと完全に一致してるんだよ。ほら、見てみなよ」


 そういって目の前の大柄で筋肉質の中年女性は俺に書類を差し出してきた。俺が数か月前から拠点にしているブリアン王国南部の町、ルバントン・タウンの冒険者ギルド。


 彼女はそのギルドマスターで、先ほどクエスト達成報告のためにギルドに寄ったところ、突然ギルドマスターとの緊急面談とのことで彼女の執務室に通され現在に至る。


 彼女によると、魔道王国シェルブレットのある大貴族が俺のことを捜索していて、その大貴族から俺への指名クエストも出されているとのことだった。ギルドマスターから出された書類に目を通す。1ページ目は見慣れた書式のクエスト依頼書だった。


『依頼主:アントン・ローズデール公爵

応募対象者:メイソン・ベックフォード氏(指名依頼)

クエスト内容:依頼主が指定する人物の護衛等

履行期間:別途協議のうえ定める

履行場所:シェルブレット王国、ローズデール・ラインハルト大都市圏

報酬:最低保証金額として日額1000ゴールドを支払う。成功報酬は別途支給』


 でも内容に突っ込みどころが多すぎ。護衛クエストに応募対象者の指名が入っているというのも見たことがないし、何よりも報酬額がだいぶ頭おかしい。


 俺がさっき達成したクエスト、そこそこ強い魔物討伐で成功報酬1匹100ゴールドだったんだけど。…そもそもローズデール公爵って誰?間違っても知り合いではない自信があるぞ。


 そして2ページ目には俺の名前、年齢、ジョブ、使用武器などの特徴がかなり詳細に記載されていて、ご丁寧に似顔絵まで描かれていた。


 うん、俺の特徴をよく捉えている似顔絵だ。たぶんモデルは間違いなく俺だな。……本物よりもかなり男前に描かれている気はするけど。いずれにしても確かにこれでは人違いとか同姓同名はあり得ない。


「……」

「……なんか事情があるのかい?」


 今の質問はあれか。「お前過去になんかやらかして、この貴族に追われている身なのか」って意味だよね。…こりゃ正直に答えるしかないな。


「いやぁ…全く心当たりがないですね。シェルブレット王国なんて一度も行ったことないですし」


 鋭い視線でじーっと俺のことを見つめるギルドマスター。目をそらさず、彼女を見つめ返す俺。


「……そうかい。わかった。あんたを信じるよ」

「…ありがとうございます」

「でもどうするんだい?このクエスト、たぶん国中…いや、下手したら世界中のギルドに出されてるよ」

「うーん、どうしましょうかね…。正直受ける受けない以前に「何これ?」って感想しか出てこないんですよねぇ…」

「ま、そうだろうねぇ」


 結局その日は持ち帰って、一晩じっくり考えさせてもらうことにした。マスター曰く、指名クエストと同時にギルド側には「俺が見つかったら直ちにローズデール公爵家に連絡するように」という協力要請も届いているらしいが、とりあえず明日までは連絡を入れずに待っていてくれるとのことだった。


 マスターの姐御に感謝ですな。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 翌日、俺はシェルブレット王国に向かうことを決めた。クエストを受けるかどうかはおいといて、少なくとも話は聞いてみたい。


 マスターは「本当にいいのかい?……名前を変えてここで仕事を続けるって方法もあるよ?」と言ってくれた。あんたやっぱり俺が過去になんかやらかして追われていると思ってんだろ、と心の中で突っ込みながら心遣いに御礼を言っといた。…優しくて頼りになる人だったな。


 一晩かけていろいろ考えた。『俺は自分も知らないうちに破格の指名クエストが入るほど有名になったのか』とか『いやこれはきっと何か陰謀だ』とか『もしかしたら俺の中に魔王でも封印されているのか!?』とか。


 …でも浮かんでくるのはこんなくだらないことばかりで、いくら考えても知らない貴族から俺宛に超高額の指名クエストが届いた理由は見当もつかなかった。


 そこで、冒険者になった時のことを思い出してみた。俺が冒険者になった理由、それはうちの獰猛な母親に「世界を見て来い」と言われ15歳で家を追い出されたことだった。


 そしてシェルブレット王国は世界一の魔道技術を誇る国。魔法が使えない人間は差別されるって話も聞くけど、この機会に世界一の魔法の国を見ておくのも悪くない、そう思った。


 万が一知らないうちに公爵の不興を買っていたのが今回の話の理由だとしたら…その時はその時だ。真心を込めて泣きながら土下座をすればたぶん命は助けてくれるだろう。どうせ冒険者なんて毎日が命がけなんだ。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 魔道王国への旅は俺の予想の斜め上をいく訳のわからないものだった。まず、とりあえずクエストの詳細や背景を聞くために依頼主と直接面談がしたいと伝えたところ、シェルブレット王国からルバントンまで護衛付きの馬車をよこすと言われた。


 ……いやあんたら護衛として俺を雇いたいんだよね。護衛のために護衛付きの馬車をよこしてどうする、と心の中で突っ込みながら丁重にお断りしたら、旅費として1万ゴールドを前払い支給すると言い出した。


 1万ゴールドといえば、ルバントンからシェルブレットまでのあえて陸路を使ってあらゆる観光名所を訪問しながらゆっくり移動して、毎日超高級グルメを堪能してスイートルームに泊まれる金額だった。


 …2000ゴールドだけ受領した。船を使えばその金額でも余裕で1等室が使えてお釣りがくる。


 ローズデール・ラインハルトの港についた時にはローズデール公爵家の紋章付きの超豪華な馬車と使用人が待機していて、地元民の好奇の目に晒されながら馬車に乗る羽目になった。


 地元民からすると明らかに冒険者か傭兵にしか見えない若造が、領主様の使用人に案内されながら領主様の馬車に乗るわけだからね。そりゃ珍しいよね。見物するよね。 


 そして異様に乗り心地の良い馬車で20分ほど移動したところで、目的地のローズデール公爵の屋敷に到着した。


「うわ…すごい景色」


 中庭に止まった馬車から降りた俺は、思わず感嘆の声を漏らした。なんというか…屋敷自体もお城なのか屋敷なのか分からないくらいすごい豪邸だったけど、それよりも中庭から見える海の絶景の方に目を奪われた。俺も一応港町で育ったけど、この景色は別格だ。


「ようこそお越し下さいました、ベックフォード様。…気に入っていただけましたか」

「あ、どうも。わざわざお迎えありがとうございました。素晴らしい景色ですね」


 屋敷から出てきたメイドさんと挨拶を交わす。アッシュグレーの髪とワインレッドの瞳を持つクールな印象の美人で、年齢はおそらく俺と同年代か、少し下だろうか。


「ありがとうございます。後ほどゆっくりご覧いただけるよう手配いたします。サロンにご案内してもよろしいでしょうか」

「はい。よろしくお願いします。」

「ありがとうございます。それでは、恐れ入りますが武器をお預かりいたします」


 さすがは大貴族のメイドさん。めっちゃテキパキしている。「私は仕事ができます」と顔に書いてあるような感じの女性だったが、きっと外見通りの有能メイドさんだろうな。俺は言われるがまま武器を預けて、彼女に案内され屋敷に足を踏み入れた。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「遠いところからよく来てくれたね!歓迎するよ。私が今回の依頼を出させてもらったアントン・ローズデールだ」

「妻のエレナと申しますわ。よろしくお願い致します」

「……!……!!娘のチェルシー…です。よろ、しくお願いしま…す」

「…!?は、初めまして。メイソン・ベックフォードと申します。今回このような機会をいただき光栄です。よろしくお願いします」

「……チェルシー?どうしたの?」

「な、なんでも…ないです…」


 いやなんでもなくないだろ。明らかに俺の顔を見た瞬間めっちゃ動揺したよね。てか今、涙我慢してるよね…?


 説明しよう。先ほどのメイドさんにサロン(サロンにもでっかい窓がついてて、海の景色が見えてた。建てた人間の並々ならぬこだわりを感じるわ、この屋敷)に案内されて、お茶出されて、とてつもなく座り心地の良いソファーに座って少し待っていたら依頼主の公爵一家が現れた。


 すげぇダンディーなナイスミドルの公爵と、「貴婦人」という言葉がそのまま擬人化したようなイメージの美しい公爵夫人。そして「こういう子が将来王妃とかに選ばれるんだろうな」と自然と納得してしまうような、今までの人生で一度も見たことがないレベルの超絶美少女の公爵令嬢。


 俺の顔をみた瞬間大きく目を見開いて、その後泣きそうな顔になったのはその超絶美少女の公爵令嬢だった。


 …えっ、なんで?俺そんな恐ろしい顔してんの?それとも俺、彼女に何かしたことが原因で公爵家の不興を買ったのか?でも全く身に覚えがないぞ?てか絶対会ったことないよ。彼女のような美少女、会ったことあるなら忘れやしないって…!



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「ごめんなさい、失礼いたしました」

「あ、いえ、お気になさらず…」


 しばらく席を外していた令嬢が戻ってきた。外で涙でも拭いてきたんだろうか…。たぶん原因俺だよな。はぁ…。


「チェルシー、気分が優れないのであれば、部屋に戻って休んだらどうだ?」

「そうよ、チェルシー。無理をしてはいけませんわ」

「いいえ、もう大丈夫です。ご心配には及びません」

「…わかった。では早速だが、私から今回の依頼の詳細について説明しよう。まず今回の依頼に至った経緯だが……」


 それから公爵はクエストについて一通り説明してくれた。まず、護衛の対象は今この場にいるチェルシー嬢。12歳になってこれから一人で活動することが増えるので、常時彼女に付き添う専属護衛を探しているらしい。そしてチェルシー嬢本人が剣術に興味を持っているとのことで、剣術の指導も業務内容に含まれると。


 なるほど。クエスト内容の護衛「等」の「等」は剣術指導だったのか。……剣術指導、ねぇ。てかチェルシー嬢まだ12歳なんだ。大人っぽい雰囲気と外見だったから14、5歳くらいかと思ってた。


 でも彼女、俺の顔を見た瞬間なんか知らんけど動揺して泣きそうになってたよね。もしかしたらめっちゃ相性悪いんじゃね?俺で大丈夫なのか?……あ、でもなんかさっきからめっちゃニコニコしながらこっちを見てるな。


 …今度はどうしたんだろう。なんというか…不思議な子だな。


 不思議系美少女のチェルシー嬢のことは一旦おいといて…どうしたものか。今の話だとこれ、住み込みの長期の仕事になるよね。たぶん実戦から遠ざかることになっちゃうし、今後のキャリアのことを考えるとちょっと躊躇しちゃうな。しかも肝心の「なんで俺への指名クエストなのか」というところが謎のままだし。


 思い切って質問してみたけど、「それは現段階では言えない。クエストを受けてくれたら追々説明する」「詳細は言えないが、仕事中に君の命に危機が及ぶ可能性もゼロとはいえないから、危険手当も含めて今回の金額に設定した」とのことだった。


 うーん、どうしようかな…。仕事で命に危機が及ぶのはいつものことだけど、「何か裏事情があるけどその詳細はいえない」って地雷臭しかしないんだよなぁ。


「正直、今回出していただいている条件だと、俺より遥かに高い実績を持つ冒険者を複数名、雇えると思うんですよ…。それに、俺の剣術は護衛の仕事にもお嬢様が学ぶ護身術にも向かないと思うんですよね…」

「……あの、よろしいでしょうか」

「…チェルシー?」


 俺が悩みながら独り言なのか相手への言葉なのか自分でもよく分からないセリフを呟いていると、今まで黙って話を聞いていたチェルシー嬢が静かに立ち上がった。


 少し驚いた様子の公爵夫人。公爵からアイコンタクトで発言許可を得たチェルシー嬢は、俺の方を真っすぐ見つめながら発言を続ける。


「今回のクエスト、きっとベックフォード様のお立場からすると、何か裏があるようであまり気が進まないお話ではないかと思います」

「…いや、まあ……」


 否定はできないね。


「本日すべての詳細をお伝えできず、申し訳ございません。でも今回のお仕事、絶対にベックフォード様でないといけない理由があるんです。その理由はいつか必ず説明しますので、どうか前向きにご検討いただけないでしょうか。お願いします!」

「えっ、ちょっ…!」


 そう言って勢いよく俺に頭を下げるチェルシー嬢。…あー、これはたぶんあれだな、前向きな返事をするまで絶対退かないやつだ。


「……わかりました。受諾します。だからどうか頭を上げてください」

「…ありがとうございます!!」

 

 こうやって、俺は美少女公爵令嬢の護衛兼剣術教師の仕事を受けることになった。でもさすがに1日1000ゴールドはないわ。その金額だと俺は冒険者じゃなくて詐欺師だ。…半額で契約しよう。


真心を込めて泣きながら土下座しますので、下の☆ボタンでの評価やブックマークよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] >護衛のために護衛付きの馬車をよこしてどうする wwwwwwwwwww >…2000ゴールドだけ受領した >…半額で契約しよう。 慎み深いね。主人公が惚れるだけあっていい男だ [一…
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