表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/45

9話 指名手配をかけてみました

 魔力の暴走事故から約3年、私の魔力磨きは順調に進んでいた。チートなお姉様のマンツーマン指導のおかげで、私の魔力制御は12歳にしてすでにパーフェクト。


 現在は闇属性・水属性・無属性の上級魔法を絶賛習得中で、正直、明日勘当されても旅の魔導士としてやっていく自信がある。


 お姉様とは大の仲良しで、「お姉様ってヤンデレとチートのハイブリッドですよね」なんて命知らずな冗談まで飛ばせる関係になった。ちなみにこの「ヤンデレチート」という呼び方、お姉様も結構気に入ってくれているご本人公認の二つ名である。


 家族との関係も改善した。元々別に険悪な関係だったわけではないので、単純に私が前世のことを根に持つのをやめただけともいえるが、いずれにしても前世の時よりはるかに家族仲が良くなった気がする。


 そして15歳からの魔道学園への入学を前に、お兄様とお姉様の交際が無事両家から認められた。おめでとう!次のステップは婚約だね。私も引き続き協力しますよ♪


 私のところには案の定、迷惑極まりない第二王子との婚約話の浮上を含め、相当数の婚約の申し込みが絶えず入ってきているが、当然ながらすべてお断りさせてもらっている。


 私がどんな相手にも一切の興味を示さないので、一時期うちの屋敷内では私とアイリーンのレズ疑惑が浮上した。


 正直、それで婚約の話が減るなら私はそのままにしておいてもよかったが、そろそろ18歳になるアイリーンの婚期に悪影響が出ると良くないので一応否定させてもらった。アイリーンには誰よりも幸せになってもらいたい。


 私の行動が原因でアイリーンにまであらぬ疑いがかかってしまったことを謝る私に、アイリーンは「お嬢様がそれを望まれるなら、私は喜んで」と真意がよくわからないことを真顔で言っていた。


 えーっと、あれだよね?きっと私に気を使わせないための冗談…だよね?


 とまあ、このようにすべてが概ねうまくいってはいるものの、正直、私はかなり焦っていた。肝心のメイソンとの出会いがなかなか実現しないのだ。


 10歳になったあたりから少しずつ自分のできる範囲で情報収集をしているが、公爵令嬢とはいえ所詮は子供。この広い世界のどこにいるかも分からない冒険者を探し出すのは容易ではなかった。


 そうこうしているうちに12歳になってしまった。私が少しずつ大人になるのは良いことだけど、問題はメイソンと彼の元カノとの出会いだった。私が覚えている限り、メイソンは元カノと「4年以上」付き合っていたと言っていた。


 5年以上付き合っていたなら「4年以上」じゃなくて「5年以上」と言ったんだろうから、彼と元カノの交際は、5年は続いていなかったのだろう。


 そして彼は「最近」元カノに裏切られたと言っていたから、ざっくり計算すると前世でメイソンが元カノと付き合い始めたのは、早ければ私と出会う5年くらい前ということになる。


 前世で私と彼が出会ったのは私が18歳で、彼が26歳のとき。それより5年前からの交際となると、交際スタートは彼が21歳のとき。彼が21歳のとき、私は13歳。そして今私は12歳。


 そう考えると、私に残された時間はもう1年くらいしかないのだ。このままだとメイソンは将来自分を裏切って傷つける元カノと付き合い始めてしまう。なんとしてもその前に彼を探し出して、うちの屋敷に強制連行してでも阻止しなきゃ。


 ……はい、正直に言います。メイソンが将来傷つくのが嫌だというももちろんあるけど、それ以上にメイソンが私以外の女と付き合うこと自体が死ぬほど嫌です。独占欲の塊のような小娘ですみません。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「まとめますと、お嬢様は8歳の時、極めて限定的な範囲のものではありますが、予知夢を見られました」

「はい」

「そして、その夢から将来チェルシーさんの命を助けてくださる「運命の人」の存在も見えたのですわ」

「はい」

「その方は冒険者の方で、お嬢様が幼い頃から魔法を頑張ってこられたのも、いつかその方と一緒になるための努力でした」

「…はい」

「そして今その「運命の人」を探し出してこちらにお連れしないと、その方が他の女性と結ばれてしまう可能性があるのですね?」

「……はい」


 …なんだろう。なんかこうやって客観的にまとめられると、いたたまれない気持ちになるな。自分で話した内容なのに「何いってんだこいつ」って突っ込みたくなる。


 ちなみに「命を助けてくれた」というのは、修道院への護送中に賊の襲撃を撃退してくれたことがあるから嘘ではない。その数日後に別の理由で死んじゃったけど。


 「将来私の命を助けてくれる人」と言っておけば、みんなが彼の捜索に少しでも前向きになってくれるかなと思って前面に出してみた。


 でもそれ以前に、話が荒唐無稽すぎてまず信じてもらえないよね…。


「どうしたら良いと思いますか?アイリーンさん」

「そうですね…やはりまずは旦那様と奥様にご報告して、ローズデール家として動くべきかと思います。「運命の人」というところには少し(ぼか)しを入れて、「将来お嬢様の命の危機を救うかもしれない方」というところを強調するのが良いかと」


 …えっ?


「それが良いと思いますわ。そしてその方のご職業が冒険者なのであれば、冒険者ギルドに協力してもらうのが良いでしょう。冒険者の方々は皆さま、頻繁にギルドをご利用されているはずなので」

「なるほど。その方がどこかの冒険者ギルドに訪れたら、直ちにローズデール家に連絡が入るように体制を整えておくわけですね」


 ……あれ?


「ええ。それと同時にローズデール家からの破格の条件の「指名クエスト」を出しておいて、その方が自らこの屋敷を訪れたくなるようにしておくとさらに良いと思います」

「なるほど!お詳しいのですね、シルヴィア様」

「母からいろいろと話を聞いておりまして。実は母はああ見えて、若い頃は冒険者として旅をしていたらしいですわ」

「そうだったんですか!?ラインハルト公爵夫人が!?」

「……あ、あのぅ」

「「はい?」」


 恐る恐る二人のお姉様に声をかける私。


「二人とも……信じてくれるんですか?私の話」

「「はい」」

「…!?あんな突拍子もない話なのに?」

「そうでしょうか。私、チェルシーさんは何らかの予知能力をお持ちだろうなと、前から思っていましたわ」

「そうだったんですか!?」

「ええ。初めてチェルシーさんにお会いしたとき、私になんと声をかけていただいたか、覚えていらっしゃいませんか」

「…えーっと、すみません。覚えてないかもしれません」

「「頑張ってくださいね、シルヴィア様!」でした。その時はまだ、私がこちらにお邪魔した理由をお伝えしていませんでしたのに」

「…それだけで?特に深い意味はない言葉だったかもしれないじゃないですか」

「そうですわね。でも見えていたのでしょう?私があの日お邪魔した理由も、……もし最後まで交際を認めていただけなかった場合、どうしていたかも」

「それは……」


 つまり「君は私がヤンデレチートで、交際が認められなかったら何をするかわかんないことが『見えて』いたから、私たちに協力したんだろ?」ってことか。ま、まあ、確かにあながち間違いではないけど…。 


 てか、いやいやいやいや!怖いから。なんとなく想像つくけどやめて。そんな未来見えてないし見たくもない。


「…ふふ、心配しないでください。理由がどんなものだったとしても、チェルシーさんが私たちのことをずっと応援してくださっているのは事実。そうじゃなくても、もうチェルシーさんは私にとって世界で二番目に大切な方ですわ」

「……お姉様」


 …嬉しいな。今のは感動した。よし気に入った!あとで海の見える素敵なお部屋でうちの兄貴とF〇〇Kしていいぞ。……下品ではしたない小娘で申し訳ございません。


「私にとっては、お嬢様は世界で一番大切な方ですよ」

「あら♪」

「あ、ありがとう…。アイリーンも知ってたの?私のその…予知能力…」


 本当は予知能力なんか持ってないのに「私の予知能力」って言い出すのって罪悪感と恥ずかしさが半端ないね!


「いいえ、全然」

「それなのに信じてくれるの…?」

「もちろんです。私はお嬢様の言葉はどんなお話でも信じますので」

「あ、アイリーン…!!」

「……ねえ、チェルシーさん、あなたの「運命の人」ってやっぱりアイリーンさんじゃありませんの?」



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 数日後、魔道王国シェルブレットの冒険者ギルドの全ての本支部に、アントン・ローズデール公爵からの人探しの協力要請と冒険者メイソン・ベックフォード氏に対する指名クエストの申し込みが行われた。


 これで1か月ほど様子を見て、見つからなければ捜索の範囲を隣国に広げる予定となっている。…なんか私の我儘でとんでもないことになっちゃった。でもお金と権力ってやっぱいいもんだね。てへっ☆


 ちなみに両親もお兄様も私の予知夢のことを一発で信じてくれて、「私ってそんなに信用高かったの?うふふ」って天狗になりそうになったが、両親との会話でそれだけではないことが判明した。


 実は両親が私の話をすぐに信じてくれたのは、今までもローズデール家からごく稀に予知能力を持つ人間が現れていたからというのが理由の一つだったのだ。


 一部の王族と当事者の家系にしか知られていないことだが、三大公爵家からはそれぞれ常人には見えない何かを見ることができる特殊能力者が生まれる。


 たとえば、ラインハルトは『見抜く眼』と呼ばれる、魔力が見える目を持つ人間が数代に一人生まれる。実際にその『見抜く眼』は、今私の目の前にいるヤンデレチートなお姉様が装備している。


 ローズデールからは、『見通す眼』と呼ばれる何らかの予知能力…つまり未来が見える目を持った人間が、ごく稀に現れる。発生頻度はラインハルトよりもかなり低く、もし私が『見通す眼』の保有者だとすれば、300年近いローズデール公爵家の歴史で4人目の保有者になる。


 ちなみに『見通す眼』の保有者としてもっとも有名なのは初代ローズデール公で、『神軍師』と呼ばれた彼女は戦場における敵の行動、増援、罠や計略の存在をすべて見通す能力を持っていたらしい。だから「神様から授かった能力を用いて指揮を行う軍師」という意味で『神軍師』と呼ばれるようになったと。


 私としては「それってただ軍師としての能力がずば抜けていて「まるで未来が見えているかのように」敵の動きを予測できていただけじゃないの?」と思うが、「〇時間後にこの場所にこれくらいの数の敵軍が現れるから、この辺で迎え撃つ準備をしていくように」ってレベルの詳細さで相手の動きを読んで指示をしていたらしく、真相は闇の中である。


 もちろんこの『見通す眼』の存在は私も知っていたが、自分とそれを関連付けて考えたことがなく、前世のことを「夢」と表現したら自分がその保有者だと思われる可能性があることに全く気がつかなかった。


 お父様から「チェルシーは『見通す眼』の保有者なのでは!?」と興奮気味で言われたときは「そ、そうか!夢って言っちゃったらそんな風にとられてしまうのか。…どうしようこれ。大事になってしまったぞ」と思ったけど、もう引くに引けなかった。


 ……に、偽物でごめんなさい。


 あとから聞いたが、お姉様が「チェルシーさんには予知能力があるのでは?」と考えるようになったのも、『見通す眼』の詳細をお兄様から聞いたのがきっかけだったそうだ。


 ちなみにもう一つの三大公爵家であるヴァイオレット家のものは『見破る眼』で、どうやら代々のヴァイオレット家当主が標準装備しているらしい。ただ、何が『見える』のかは極秘で、詳細を知っているのは代々の国王陛下とヴァイオレット家の当主のみとのこと。


 ヴァイオレット家って昔から秘密主義らしいんだよね。初代ヴァイオレット公なんか生涯自分の素性を誰にも明かさなかったらしく、「ヴァイオレット」という苗字も彼女が名乗っていた「ヴァイオレット」という名前(それが本名か偽名か、苗字か名前かも不明)がそのまま家名になっただけらしい。


 彼らは代々闇属性の魔導士を輩出するから、私としては自分が闇属性の適合性を持つことが分かってから勝手に彼らにちょっと親近感を覚えているけど…。


 たぶん私がヴァイオレット家の皆様に「仲間だから仲良くしてくださーい♡」って懐いてみたところで、珍獣を見るような目で見られて門前払いされそうな気がする。


 でも別にいいんだ。私が「仲良くしてほしい、仲間にしてほしい」と心から願う相手はヴァイオレット家の皆様じゃなくてメイソンだからね!


チェルシーの運命の人はアイリーンだと思う方は下の☆ボタンをクリック!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 恋の指名手配w [気になる点] 実は初代ローズデール公も、軍師として見通す目じゃなくてヤンデレ死に戻りだったりして
[良い点] 考えてから行動するチェルシー [気になる点] 日本からの転生者なら 理解できるのですが、 前世から生粋の公爵令嬢が スラングは知らないのでは?
[良い点] アイリーンとシルヴィアの、 主人公に対する好感度が凄いことになってるな [一言] >メイソンが私以外の女と付き合うこと自体が死ぬほど嫌です。 >独占欲の塊のような小娘ですみません。 いや…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ