表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/6

Yes my road

これぞ我が道

食事も終わり各自部屋に戻る。初日ということもあってか訓練などはなく、特別すべきこともない。


 梨緒と和華羽と別れてさあ寝るか、と思ったが。


 現在、央我は私室の椅子に座っている。そして和華羽は自分の椅子を持ってきてそれに座っている。梨緒に至ってはベッドに寝転がってガイドブックを読んでいる。二人とも央我の部屋にいるのだ。


「おいお前らなんでここにいるんだ。自分たちの部屋に帰れよ」


「えー。いいじゃん、暇なんだし」


「あはは……部屋に一人だとね……」


 央我の苦情に梨緒は顔も上げずに言う。図太いとはこのことだろう。


 和華羽もまた申し訳なさそうに笑うが立ち上がろうとはしない。


 二人とも帰る気はないようだ。これでは言うだけ無駄だろう。央我は早々に諦めた。


 座ったまま寝てもいいが、顔に落書きでもされたら面倒だ。


「……私たち、これからどうなるのかな」


 央我が『力ずくで追い返しても負けるんだろうな』などと考えていると、和華羽がぼそりと呟いた。


「は?いきなりどうした?」


「私たち今まで普通の高校生だったのに、異世界に連れてこられて魔法みたいな力で戦うことになってさ。死んじゃうかもしれないのにみんな乗り気だし……」


 魔法がある世界でエルスクが手に入ったとはいえ、無敵になったわけではない。怪我をすることもあれば和華羽の言う通り死ぬ可能性もある。エルスクが最弱ランクに認定されたからなおさら不安なのだろう。


「そうだな。その不安は正しいよ。でもみんな自分が死ぬなんて思っていない。『誰かが死ぬかもしれない』とは思っていても、その『誰か』は自分以外の誰かだ。だからこそ最弱が何を言おうと腰抜けとしか思われないのさ」


 事実、エルスクの解析時にはこの三人以外は童心に返ってはしゃいでいた。食堂でも不安そうな者はいなかった。正義感に駆られてだとかただ単にエルスクを使いたいだけだとか、戦う理由は様々でも覚悟している生徒はいない。


「来栖君も楽観視してるの?」


 和華羽が不安そうに聞いてくる。それは戦いへの不安というより『不安に思っているのが自分だけ』という不安なのかもしれない。


「まさか。俺は死ぬかもしれないとわかってここにいるぜ。人生ってのはいつ死ぬかわからないから面白いんだ。こんな楽しいチャンスを逃す手はない」


 つまらない生より楽しい死。それが来栖央我の人生哲学だ。


 央我からすれば何事も人生のスパイスにすぎない。


「っていうかさ。そんなら解析の後に戦いたくないって言えばよかったじゃん」


 今まで我関せずと言わんばかりに黙っていた梨緒が体を起こしてベッドに座りなおす。


「そ、それはそうだけど……あの空気じゃ言いづらいし……」


 和華羽がバツが悪そうに口ごもる。


 どうやら和華羽は人気者なだけあって空気を読むのが上手いようだ。


「へー、空気を読むなんて大変ね」


 聞いておきながら梨緒は他人事のようにしている。


「二人はあんまり気にしなさそうだよね」


「そりゃまあね。気にするだけ損だろ」


「そうそう。自由サイコー」


 央我も梨緒も他人の顔色なんて伺わない。そんな二人に周囲の目を気にする和華羽の気持ちなんてわからない。わかろうともしないのだが。


「……いいなあ」


 そんな二人を和華羽は羨ましそうに見ていた。


「ま、実際断ってたらどうなっていたか知らないけどねー」


 そんな視線に気づかず、梨緒が再び寝転がる。


「え?元の世界に帰してくれるんじゃないの?」


「まっさか~。あのお偉いさんたちがそういい人なわけないじゃん!」


 和華羽の疑問に梨緒が笑いながら答えた。


「周囲には帰ったと公表して秘密裏に殺されるだろうね。弱いとはいえエルスクがあるんだからさ」


 無理やり連れてこられたとはいえ、王国側は戦わない者を快く思わないだろう。サポート要員より弱いDランクなら失っても痛くはないが、王国に仇なしたり敵に利用されては面倒だ。協力しないなら始末した方が確実と言える。


「そうなんだ……」


「そうしょげることはないさ。こんな考え持ってるのは俺と音部ぐらいだろうし、所詮はただの予想だ。本当にそうなるかはわからない」


「予想は止そうってか?」


「やかましい。まあ俺たちの予想が合ってても、君は人気も発言力も底辺(おれたち)とは違うから泣きつけば誰かに助けてもらえるかもな」


 『人気者』の武田和華羽ならクラスメイトを味方に付かせるのはたやすい。王国も高ランクの頼みなら無下にはできないだろう。


 もっとも、帰す方法があればの話だが。


「……」


「何も今すぐ答えを出せってわけじゃないし、そもそも俺に答えを出されても困る。あとは自分の部屋で考えるんだな」


「……うん」


 何か思うところがあるのか、黙ったままの和華羽を帰るように促す。ぶっちゃけさっさと寝たかった。


「いってら~」


「お前も帰るんだよ」


 和華羽と梨緒を部屋から追い出し、ようやく央我は落ち着ける時間を取り戻した。


 この世界に来てまだ一日。慌ただしい日々になりそうだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ