人気者と陰気者と呑気者
それは似ていないような似ているような。
もう片方の部屋を確認すると二人部屋だった。つまりDランク所属は三人、来栖央我・音部梨緒・武田和華羽だけである。
部屋割りはあっさり決まった。なにしろ一人部屋と二人部屋が一つずつに対して男一人女二人なのだ。揉めることはない。
一息ついたところで次は夕食の時間である。こちらの世界に来る前は昼時だったはずだが、時間を越えたのか説明が長かったのかもう日が暮れていた。
食事は決められた時間に各自食堂で取る。勇者の食事と言っても豪勢な宴などはなく、普通の食事である。強力な勇者の召喚に成功しても急に国が豊かになるわけではない。魔人族による被害が増えている今、あまり金や物を割けないらしい。
ちなみに食事にランク差はないようで央我たちも他の生徒と同じものを出された。
「勇者とか言ってたクセになんかショボくない?」
「そりゃまだ働いてもいないからな。というか最低ランクでも他と同じなだけマシだろ」
梨緒は文句を言っているがないものはないのだから仕方がない。
膳を受け取った央我と梨緒は適当な席を選ぶ。この時間は貸し切りで生徒たちしかいない。食堂の広さに対して人数が少ないので、いい席はすぐに見つかった。
「あれ、武田は?」
央我がふと和華羽がいなくなっていることに気づいた。食堂に入った時は居たのだが、どこかではぐれたのか。
「和華羽ならあそこ」
梨緒が指さす先を見ると、入口近くで和華羽が男子生徒たちに囲まれていた。
囲まれていたと言っても事案などではなく、男子生徒たちは和華羽を食事に誘っているだけだ。エルスクというアピールポイントを武器にぜひとも学校一の美少女とお近づきに、ということだろう。
和華羽はその中から一人を選べないのか、困ったようにオロオロしている。見るに見かねた他の女子生徒が助け舟を出して、その場は収まった。
「人気者って大変なんだな」
央我はそう言うと席に座った。食事はランク別ではないのだから一緒に食べる必要はない。そんなことより明日のためのご飯の方が重要である。梨緒は端から興味がなさそうだ。
「お待たせ、遅くなっちゃった」
「は?」
てっきり友達の所に行くのだと思っていたが、和華羽は央我たちのところに来た。
「いや別に待ってないけど。というか無理に来なくてもいいし誘われたところに行けばいいじゃん」
和華羽の謝罪に央我がおざなりな対応をする。
席は自由なのになぜこちらに来たのか。和華羽が気を遣っているのかどうか知らないが、捻くれた央我は別に優しいともありがたいとも思わなかった。
「せっかく同じランクになったんだから二人と一緒がいいな」
和華羽はそんな対応をものともせずに央我の隣に座る。
「ふーん。でも今はランクとか関係ないしアタシらと居なくていいんじゃない?」
「それを言ったらお前もだけどな」
和華羽も梨緒もなぜわざわざ関わってくるのかわからないが、とにかく移動する気はないようだ。央我も自分が移動するのは面倒なので気にしないことにした。
央我と梨緒と和華羽。元から仲が良かったわけではなく、召喚の関係で同ランクになっただけだ。ずっと一人だった央我にとって新鮮で奇妙な関係だった。
しかし、周囲からすれば面白くない。
これを機に武田和華羽と仲良く、と思っていたのに全員暗に断られたのだ。しかも選ばれたのは、頭がいいわけでも才能があるわけでも人格者でも人気者でも優等生でもない来栖央我。長所を探すのが難しいこの男だ。
故に快く思わない。
しかし和華羽や他の女子生徒がいる手前、手荒な真似はできない。だが黙ってすっぱり諦められるほど大人ではない。でも嫌われては元も子も……。
そんな矛盾を抱えた結果、できることは睨みを利かせることだけだ。悪意は募っていく。
「央我も大変だねえ?」
周囲の視線に気づいた梨緒がニヤニヤと笑う。この場面で悪意を受けるのは男である央我だということもわかっているのだろう。
「こんなものは大変なうちに入らんよ。立ち塞がる障害は善いも悪いも貼り倒せばいい」
「いっかす~」
そしてそれは央我にもわかっていた。わかった上でシカトを決め込んでいるのだ。
央我にとって他人に嫌われるなんてどうということはない。周囲の視線や他人の評価など無視するだけ。いつもそうやってきた。
自分を貫く央我と茶化す梨緒。和華羽は何のことかわかっていないのか首をかしげている。
悪意の矛先だというのに自分たちは無関係だと言わんばかりにのほほんとした雰囲気が漂っていた。
話の進行も投稿も遅くて申し訳ありません。