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異世界八景  作者: 楠羽毛
夢の世界
97/206

ファンファーレ

 斬った。

 叩いた。

 刃を横からはじいた。

 蹴った。

 腕をつかんで止めた。

 横なぎに顔を殴られた。

 斬られた。

 刺した。

 足を払った。

 

 何度も、引き倒して、馬乗りになって攻撃を加えた。そのたびに、腕力だけで転がされ、足にしがみついて止めた。振り払われて踏まれた。

 泥仕合だった。

 男は、執拗にルナだけを攻撃しようとした。そうでなければ、アカリは何十回も『死んで』いただろう。

 時間経過はわからない。

 この肉体には疲労が蓄積しないので、いつまでも戦い続けられるような気がする。が、そんなことはない。集中力は、いずれ切れる。

 次の瞬間かもしれない。

 けれども、今ではない。

 もう少しだけ、と思いながら、男の背中に斬りつけた。

 もう少しだけ、と思いながら、ルナをかばって鎧ごしに刃を受けた。

 もう少しだけ、と思いながら、──


 そうして、途方もない長い時間のあと、男は倒れた。



 花吹雪が散った。

 管楽器の音が、唐突にあたりに響く。

 ファンファーレだ。

『おめでとう! 君はついに宿敵をたおし、迷宮を攻略した。王宮戦士アカリの名は、魔王を封印した勇者として、永遠に語りつがれるだろう。』

 アカリは、無味乾燥なメッセージを垂れ流すヘルパーから目をそらして、ルナの目をみた。石化が解除されたわけではない。まぶたを見開いたまま、ぴくりとも動かない。かたい、ざらざらした灰色の目。義眼のような。

 朱里は、ふと衝動にかられて、その目にそっとキスをした。


 そして──、

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