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異世界八景  作者: 楠羽毛
夢の世界
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挑戦

 ふたたび、広間の入口前──、


 扉のむこうに、あの男が、いる。

 ルナは、アカリの袖を握っていた手を、ゆっくりと離した。

「君はここで、」

「嫌です。」

 そう、ルナが答えることが分かっていたかのように、アカリはかすかに笑った。


 きぃ、


 小さく、きしむような音をたてて、扉が開く。

 ふらふらと、なにかに操られるように、ルナが歩いてゆく。その後ろで、

「ごめん、」

 と、小さく朱里は呟いた。



 かちんと音をたてて、ルナは石になった。

 朱里は、バシリスクの死体から絞り出した唾を、素肌に触れないように注意しながら振り払った。扉はもう開いている。そのむこうには、鎧をきた男。

 ルナは、部屋の中にむかってうつぶせに倒れている。

 踏み出す。

 境界を越える。

 男が、剣をふりかざす──

「私の、半身よ」

 つぶやくような、声。なんのことだか、わからない。わかる必要もない。

 石化したものには、刃は通らない。何度か試した。この男が、かならずルナを攻撃するというのなら、そうさせておけばいい。

 その間に──、


 朱里はすばやく男の背後にまわりこんだ。狙いをつける。延髄。たぶん、一撃では倒せないだろう。だが、男は反撃しない。推測だが、なかば確信だった。男は、石化したルナを攻撃しつづけるだろう。

 もし、誤算があるとすれば、むしろ──、


 ふと、石化した肌をつらぬいて血がしぶく光景が、朱里の脳裏をよぎった。


 ふつうの場面ではない。ルナが死ぬところまで、決まっているのかもしれない。いや、一度連れ戻せたことからして、少なくとも介入の余地はあるはずだ。

 いっぽう、男は二度目だというのに、こちらを見もしないでルナを刺そうとしている。ルナが死ぬまで、男の行動が固定されている可能性はかなり大きい。

 もし失敗すれば、やり直せばいいだけだ。

 しょせん、──なのだから。

 男の剣が動いた。

 こちらも、もうすぐチャージが完了する。男が一度ルナを刺した直後に、延髄に一撃。それで倒せなければ、何度でも撃てばいい。完璧だ。


 足が、勝手に動いていた。


 チャージを解除して、男の下半身にタックル。膝がわずかに崩れ、男の剣は空を切る。ルナの脇腹近くの床を削って、もう一度構えなおす。

 朱里は、強引にルナと男のあいだに割り込んで、抜き打ちをした。無防備な男の顎に一撃。手は自動的に動くが、チャージしていないのでバフはかからない。

 のけぞった男の、面頬で隠れた顔をぎっと睨む。ルナをかばうようにまたいで、爪先で石化した肌に触れながら。

 守ってやる。それだけを、念じて。

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