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「……レバニィ伯爵は、何をしようとしているのです?」
少し、おちついてから、ルナはそうきいてみた。
「それは、……」
「封印の扉を、……まさか、開けようと?」
「さァね」
アカリは、かるく首をふって、
「……たしかなのは、扉に割れ目ができたと報告があった途端に、伯爵が姿を消したこと。それから、どうやらここに向かったららしいこと。」
ルナはちょっと考えて、それからふと顔をあげた。
「もしかして、扉をふさごうとしているのでは?」
「え?」
「伯爵は、ふしぎな術を使うのでしょう。大樹の魔女と同じように、復元薬が作れるのではないですか。それとも、他の方法で……、」
「誰にも秘密で? なぜ? かりにもこの国の宮廷で暮らして、それなりの立場もあるっていうのに。」
「それは、」
「ま、それは、さておくとしても。」
「さておくとしても?」
「これ、見て。」
アカリは、荷物袋のポケットから、何かを取り出した。掌ほどの、紙片のようであった。ざらざらした、長方形の。
肖像画のようであった。墨で描かれたものではなさそうだ。といって、油彩とも違う。茶と黒の濃淡で、こまかく、こまかく。
まったくディフォルメのない、精密で写実的な筆致で。
見たままをうつしとったかのような──、
「これは、」
といいかけて、ルナは気づいた。
これは、私だ。私の顔だ。
でも──、
「……わたし、こんな服着たことないです。」
そこに描かれていた、ルナとおぼしき少女は、奇妙な衣装をきていた。
アカリの着る鎧下に少し似ているが、上下の服は一体らしく、つなぎ目も見えない。細身にぴったり張り付くように、からだの線を浮きたたせる。関節、それから肉の谷間に沿うように、波紋のような曲線。
年齢は、今のルナより少し上にみえる。足元まで髪を垂らして、覆うように。
「……魔女のきる服に、似ていないか。」
アカリの言葉に、ルナは小さくうなずいた。魔女のことをよく知っているわけではないが、たしかに、絵で見たことのある魔女の服装に似ている。それに、大樹の魔女がきていた服にも。
「どうして、……こんなものが。」
「わからない。レバニィ伯爵の屋敷にあったんだ。」
「なぜ……」
「知りたいだろ?」
ルナは、こくんと頷いた。
「じゃあ、ゆこう。」
そういって、アカリはにっこりと笑った。




