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異世界八景  作者: 楠羽毛
夢の世界
94/206

写真

「……レバニィ伯爵は、何をしようとしているのです?」

 少し、おちついてから、ルナはそうきいてみた。

「それは、……」

「封印の扉を、……まさか、開けようと?」

「さァね」

 アカリは、かるく首をふって、

「……たしかなのは、扉に割れ目ができたと報告があった途端に、伯爵が姿を消したこと。それから、どうやらここに向かったららしいこと。」

 ルナはちょっと考えて、それからふと顔をあげた。

「もしかして、扉をふさごうとしているのでは?」

「え?」

「伯爵は、ふしぎな術を使うのでしょう。大樹の魔女と同じように、復元薬が作れるのではないですか。それとも、他の方法で……、」

「誰にも秘密で? なぜ? かりにもこの国の宮廷で暮らして、それなりの立場もあるっていうのに。」

「それは、」

「ま、それは、さておくとしても。」

「さておくとしても?」

「これ、見て。」

 アカリは、荷物袋のポケットから、何かを取り出した。掌ほどの、紙片のようであった。ざらざらした、長方形の。

 肖像画のようであった。墨で描かれたものではなさそうだ。といって、油彩とも違う。茶と黒の濃淡で、こまかく、こまかく。

 まったくディフォルメのない、精密で写実的な筆致で。

 見たままをうつしとったかのような──、

「これは、」

 といいかけて、ルナは気づいた。

 これは、私だ。私の顔だ。

 でも──、

「……わたし、こんな服着たことないです。」

 そこに描かれていた、ルナとおぼしき少女は、奇妙な衣装をきていた。

 アカリの着る鎧下に少し似ているが、上下の服は一体らしく、つなぎ目も見えない。細身にぴったり張り付くように、からだの線を浮きたたせる。関節、それから肉の谷間に沿うように、波紋のような曲線。

 年齢は、今のルナより少し上にみえる。足元まで髪を垂らして、覆うように。

「……魔女のきる服に、似ていないか。」

 アカリの言葉に、ルナは小さくうなずいた。魔女のことをよく知っているわけではないが、たしかに、絵で見たことのある魔女の服装に似ている。それに、大樹の魔女がきていた服にも。

「どうして、……こんなものが。」

「わからない。レバニィ伯爵の屋敷にあったんだ。」

「なぜ……」

「知りたいだろ?」

 ルナは、こくんと頷いた。

「じゃあ、ゆこう。」

 そういって、アカリはにっこりと笑った。

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