覚醒
はげしい陽光が、まぶたをつらぬいて、ぎりぎりとさしこんでくる。開くと、やさしい木のかげが額をなでる。
とび起きる。
(朝⁉)
地面についた両手に、ざらりとした土の感触が。それから、毛布。
あたりを見回す。葉の落ちかけた木々。苔に覆われた山肌に、ぽっかりあいた入口。枯草が、かるく風に舞う。寒い。まだ、夜明けから、それほど経っていないようだ。
上着を、そっと撫でる。穴はあいていない。朱いのは、もともとの色だ。血のあとは、ない。
夢だったのだろうか。
砂埃をはらって、それから……、
ほろりと、涙が落ちる。
「起きた?」
アカリ。山肌によりかかるように座っている。鎧は脱いで、鎧下の前をあけて。その下に見えるのは、宝箱に入っていたあざやかな緑色のシャツ。水面に広がる波紋のような文様が、胸に縫いこまれている。
かすかに笑っている、ように見えた。ひどく青白い顔で。
「私は、……」
ルナは、唇をふるわせて、それから止めた。
「……もう少し、寝ていたほうがいいかもしれないな。」
アカリはそういって、ルナのそばに来た。そっと、肩を抱くようにして、からだを支える。額に触れる。それから、まぶたに。
「休んでいろよ。……起きたばかりだ。」
「起きたばかり……。ええ。……いいえ。」
ルナは、ボンヤリとそういって、首をふった。
「わたし、……死んでいたんですね。」
「なぜ?」
「だって、……」
ルナは、アカリが地面についているほうの手に触れた。体温。治癒術でできたつながりが、今でも残っているような気がする。
「……わたし、なぜ生きているんです?」
アカリの顔を見上げようとして、目が合わないのに気づく。
答えはない。
ふと思いついて、
「あなた、まさか治癒術を?」
「いいや。」
「では、……」
「……復元薬を。」
「え⁉」
ちいさく、頭を垂れて、うつむきながら、アカリはこたえた。
「あれを、……でも!」
大樹の魔女に授かった秘薬。封印の扉を、修復するための。
「……だいじょうぶ。心配いらない。」
「そんなこと…、」
「どうせ、……いや、きみにはちゃんと話していなかったな。レバニィ伯爵を追うのが、わたしの任務のひとつだ。つまり……」
アカリは視線をおろして、かすかに笑った。
「伯爵が扉にたどりつくまでに追いついて、拘束してから、いちど戻ればいい。大樹の魔女に、もういちど復元薬をもらうくらいの時間はある──」
「本当に?」
ルナは姿勢を正して、アカリにむきなおった。じいっと、大きな丸い目を見開いて、両の手を、きちんと膝のうえに揃えて。
まぶたの下に、泣きぼくろ。
「……うん、本当に。」
アカリは、強く、頷いた。




