表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界八景  作者: 楠羽毛
夢の世界
93/206

覚醒

 はげしい陽光が、まぶたをつらぬいて、ぎりぎりとさしこんでくる。開くと、やさしい木のかげが額をなでる。

 とび起きる。

(朝⁉)

 地面についた両手に、ざらりとした土の感触が。それから、毛布。

 あたりを見回す。葉の落ちかけた木々。苔に覆われた山肌に、ぽっかりあいた入口。枯草が、かるく風に舞う。寒い。まだ、夜明けから、それほど経っていないようだ。

 上着を、そっと撫でる。穴はあいていない。朱いのは、もともとの色だ。血のあとは、ない。


 夢だったのだろうか。


 砂埃をはらって、それから……、

 ほろりと、涙が落ちる。

「起きた?」

 アカリ。山肌によりかかるように座っている。鎧は脱いで、鎧下の前をあけて。その下に見えるのは、宝箱に入っていたあざやかな緑色のシャツ。水面に広がる波紋のような文様が、胸に縫いこまれている。

 かすかに笑っている、ように見えた。ひどく青白い顔で。

「私は、……」

 ルナは、唇をふるわせて、それから止めた。

「……もう少し、寝ていたほうがいいかもしれないな。」

 アカリはそういって、ルナのそばに来た。そっと、肩を抱くようにして、からだを支える。額に触れる。それから、まぶたに。

「休んでいろよ。……起きたばかりだ。」

「起きたばかり……。ええ。……いいえ。」

 ルナは、ボンヤリとそういって、首をふった。

「わたし、……死んでいたんですね。」

「なぜ?」

「だって、……」

 ルナは、アカリが地面についているほうの手に触れた。体温。治癒術でできたつながりが、今でも残っているような気がする。

「……わたし、なぜ生きているんです?」

 アカリの顔を見上げようとして、目が合わないのに気づく。

 答えはない。

 ふと思いついて、

「あなた、まさか治癒術を?」

「いいや。」

「では、……」

「……復元薬を。」

「え⁉」

 ちいさく、頭を垂れて、うつむきながら、アカリはこたえた。

「あれを、……でも!」

 大樹の魔女に授かった秘薬。封印の扉を、修復するための。

「……だいじょうぶ。心配いらない。」

「そんなこと…、」

「どうせ、……いや、きみにはちゃんと話していなかったな。レバニィ伯爵を追うのが、わたしの任務のひとつだ。つまり……」

 アカリは視線をおろして、かすかに笑った。

「伯爵が扉にたどりつくまでに追いついて、拘束してから、いちど戻ればいい。大樹の魔女に、もういちど復元薬をもらうくらいの時間はある──」

「本当に?」

 ルナは姿勢を正して、アカリにむきなおった。じいっと、大きな丸い目を見開いて、両の手を、きちんと膝のうえに揃えて。

 まぶたの下に、泣きぼくろ。

「……うん、本当に。」

 アカリは、強く、頷いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ