決断
ルナは、目がくらんで立ちつくした。
広間は、こうこうと明るい。透明な窓のようなものが、天井にいくつも貼ってあり、光が落ちている。
もちろん、日光のはずはない。
円形の部屋の中心から、放射状に、花弁のような意匠。石床に、直接刻まれている。きらきらと、お城のステンドグラスみたいに。
その、中心近くに、男が立っている。
闇にとけこむような、黒い全身鎧。面頬でかっつりと顔を隠して、人相はまったくわからない。けれども、隙間から染みだしてくるなにかが、ボンヤリと光の下に漂いだして、鎧のなかのシルエットを映し出している。痩せ気味の、ぎろりと睨む目のような。少し、猫背ぎみの。
「ルナ!」
アカリが叫んで、ひきもどそうと手をのばす。
ひどく、ゆっくりと。
ルナの目は、男にくぎ付けになっていた。
姿は違うが、あれは、
──ではないか。
ひどい頭痛が、とつぜんルナをおそった。足がしびれる。
悲鳴をあげようとするが、喉がうごかない。まぶたさえ。
アカリの手は、まだこちらに届かない──、
男は、しずかに言った。
「私の、……、──」
なんと言ったのか、聞こえなかった。
そして、次の瞬間、
つめたい剣先が、ルナの臍に潜り込んでいた。
*
アカリは、倒れたルナを中空で抱きとめた。冷や汗が額から落ちる。生身ではないのに。
男が、なにか言おうとする。無視する。今はなによりも、ルナの命だ。
背後に目を走らせる。扉は、まだ、わずかに開いている。迷いを振りすてて、すきまにしがみつく。動かないかと危惧したが、あっけなく大開き。はじけ出るように、飛びだす。冷たくなった身体を抱いて。
ぼたりと落ちる鮮血を、踵でふみながら。
廊下を100メートルほど走ったところで、力つきて止まる。まだまだ余力はあるのに、どうしてか、足が動かない。
確認する。それから、目を伏せて、嗚咽する。
ルナは死んでいる。
今回も、また。




