表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界八景  作者: 楠羽毛
夢の世界
92/206

決断

 ルナは、目がくらんで立ちつくした。

 広間は、こうこうと明るい。透明な窓のようなものが、天井にいくつも貼ってあり、光が落ちている。

 もちろん、日光のはずはない。

 円形の部屋の中心から、放射状に、花弁のような意匠。石床に、直接刻まれている。きらきらと、お城のステンドグラスみたいに。

 その、中心近くに、男が立っている。

 闇にとけこむような、黒い全身鎧。面頬でかっつりと顔を隠して、人相はまったくわからない。けれども、隙間から染みだしてくるなにかが、ボンヤリと光の下に漂いだして、鎧のなかのシルエットを映し出している。痩せ気味の、ぎろりと睨む目のような。少し、猫背ぎみの。

「ルナ!」

 アカリが叫んで、ひきもどそうと手をのばす。

 ひどく、ゆっくりと。

 ルナの目は、男にくぎ付けになっていた。

 姿は違うが、あれは、


 ──ではないか。


 ひどい頭痛が、とつぜんルナをおそった。足がしびれる。

 悲鳴をあげようとするが、喉がうごかない。まぶたさえ。

 アカリの手は、まだこちらに届かない──、


 男は、しずかに言った。

「私の、……、──」

 なんと言ったのか、聞こえなかった。

 そして、次の瞬間、


 つめたい剣先が、ルナの臍に潜り込んでいた。



 アカリは、倒れたルナを中空で抱きとめた。冷や汗が額から落ちる。生身ではないのに。

 男が、なにか言おうとする。無視する。今はなによりも、ルナの命だ。

 背後に目を走らせる。扉は、まだ、わずかに開いている。迷いを振りすてて、すきまにしがみつく。動かないかと危惧したが、あっけなく大開き。はじけ出るように、飛びだす。冷たくなった身体を抱いて。

 ぼたりと落ちる鮮血を、踵でふみながら。

 廊下を100メートルほど走ったところで、力つきて止まる。まだまだ余力はあるのに、どうしてか、足が動かない。

 確認する。それから、目を伏せて、嗚咽する。


 ルナは死んでいる。

 今回も、また。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ