広間
廊下のつきあたりに、大きな扉があった。
両開きの、複雑な文様を彫り込んだ、石の扉。蛇がからみあうような……それとも古い樹のような。
ルナは、なんとなくぶきみなものを感じて、 アカリの顔をみた。
「……怯えているのですか?」
見たままを、口にだす。
いいえ、と絞りだすようにアカリはいった。肩がかすかに震えているのがわかる。深呼吸して、落ち着きを取り戻そうとしている。
「どうして?」
松明を体から遠ざけながら、もう一度、アカリのほうをむく。
「ねえ、アカリ。ちゃんと話してくれませんか。」
「……何を?」
「あなたの……、」
言いかけて、ためらう。
何度も、口を開いてはとじる。
涙がにじんで、アカリの顔がよく見えない。
体温だけが……、
松明が、ほろりと床に落ちた。
*
涙が止まるまで、ずいぶん時間がかかった。
それから、アカリは袖でルナの顔をぬぐって、ぎゅっと抱きしめた。
*
「……ゆこう。」
アカリはぎゅっと眉をひきしめて、松明をひろった。
ルナは、ちいさく頷いて、踵をふみならした。
ドアのノブに手をかけて、一度力を込めてから、ふと思い出したように手を止める。
「……ねえ、ルナ。ひとつ言っておくことがある」
「なんです?」
「ひとつ、約束してほしいんだ。今からドアを開けて、私がなかに入る。ルナはここで待っていて。」
なぜ、と言いかけて、ルナはやめた。
今は、信じよう。ともかくも。
ルナが頷いたのをみて、アカリは安心して、ノブをひいた。
大きな音をたてて、両扉がゆっくり開く。迷宮の中とは思えない、明るい大広間。光源は、天井にあるようだ。
アカリはさっと部屋のなかに足をふみいれて、ドアから手を放す。ぎぎい、と低い音。ドアがゆっくりと閉まっていく。
ルナの足が、勝手に動いた。
するりと、中へ。




