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異世界八景  作者: 楠羽毛
夢の世界
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広間

 廊下のつきあたりに、大きな扉があった。

 両開きの、複雑な文様を彫り込んだ、石の扉。蛇がからみあうような……それとも古い樹のような。

 ルナは、なんとなくぶきみなものを感じて、 アカリの顔をみた。

「……怯えているのですか?」

 見たままを、口にだす。

 いいえ、と絞りだすようにアカリはいった。肩がかすかに震えているのがわかる。深呼吸して、落ち着きを取り戻そうとしている。

「どうして?」

 松明を体から遠ざけながら、もう一度、アカリのほうをむく。

「ねえ、アカリ。ちゃんと話してくれませんか。」

「……何を?」

「あなたの……、」

 言いかけて、ためらう。


 何度も、口を開いてはとじる。

 涙がにじんで、アカリの顔がよく見えない。

 体温だけが……、


 松明が、ほろりと床に落ちた。



 涙が止まるまで、ずいぶん時間がかかった。

 それから、アカリは袖でルナの顔をぬぐって、ぎゅっと抱きしめた。



「……ゆこう。」

 アカリはぎゅっと眉をひきしめて、松明をひろった。

 ルナは、ちいさく頷いて、踵をふみならした。

 ドアのノブに手をかけて、一度力を込めてから、ふと思い出したように手を止める。

「……ねえ、ルナ。ひとつ言っておくことがある」

「なんです?」

「ひとつ、約束してほしいんだ。今からドアを開けて、私がなかに入る。ルナはここで待っていて。」

 なぜ、と言いかけて、ルナはやめた。

 今は、信じよう。ともかくも。


 ルナが頷いたのをみて、アカリは安心して、ノブをひいた。

 大きな音をたてて、両扉がゆっくり開く。迷宮の中とは思えない、明るい大広間。光源は、天井にあるようだ。

 アカリはさっと部屋のなかに足をふみいれて、ドアから手を放す。ぎぎい、と低い音。ドアがゆっくりと閉まっていく。

 ルナの足が、勝手に動いた。


 するりと、中へ。

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