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異世界八景  作者: 楠羽毛
夢の世界
90/206

廊下

 こつ、こつ、こつ、こつ。

 廊下を、歩いている。

 アカリは、どこか緊張したおももちで、前を。

 その後ろを、松明をもったルナがつづく。

「……この先は、何があるのですか。」

 黙っていられずに、そう口を開く。

「この先は、……」

 アカリは、少しうわずった声で、言いかけてやめた。

「何か、……まずいものがあるのですか。」

 長い長い廊下。壁には、同じ文様がいくつもいくつも連なって。

 うすぼんやりと照らされた床は、ひび一つない正方形の石畳がずらりと並んでいる。

 廊下の先は、遠くてまだ見えぬ。魔物の気配はない。今のところ。

「いいや。……べつに。」

「それならば……、」

 アカリは足を止めないまま、

「なぜ、……私が知っていると?」

 つめたく聞こえる声で、そう、いった。

「え、……」

 ルナの足音がとまった。


 こつ、……こつ、……こつ。


 松明のあかりから闇のなかへ、一歩踏み出しかけて、アカリも足を止める。

 まっすぐ、前方の暗闇を見つめたまま、

「ねえ、……瑠奈。」

「え?」

「……ルナ。……あなたは、覚えてない?」

「何をです?」

「……なんでもない」

「ええ?」

 ルナは、松明をそっと下にさげて、アカリに歩みよった。

 まだ前をむいたままのアカリの前に回りこむように、すっと進みでて、

「……アカリ、大丈夫ですか?」

 アカリの男のようにするどい目を、じっと見上げて。

 青い、小さな目で。

「ねえ、ルナ。」

 アカリは、ふっとやわらかい声になった。

「……私はね、きみを助けるためにここに来たんだ。」


 どういう意味ですか、といいかけて、ルナは喉をつまらせた。


 ほろりと、涙の一筋が、頬をつたって落ちる。

 なぜかは、知らぬ。

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