廊下
こつ、こつ、こつ、こつ。
廊下を、歩いている。
アカリは、どこか緊張したおももちで、前を。
その後ろを、松明をもったルナがつづく。
「……この先は、何があるのですか。」
黙っていられずに、そう口を開く。
「この先は、……」
アカリは、少しうわずった声で、言いかけてやめた。
「何か、……まずいものがあるのですか。」
長い長い廊下。壁には、同じ文様がいくつもいくつも連なって。
うすぼんやりと照らされた床は、ひび一つない正方形の石畳がずらりと並んでいる。
廊下の先は、遠くてまだ見えぬ。魔物の気配はない。今のところ。
「いいや。……べつに。」
「それならば……、」
アカリは足を止めないまま、
「なぜ、……私が知っていると?」
つめたく聞こえる声で、そう、いった。
「え、……」
ルナの足音がとまった。
こつ、……こつ、……こつ。
松明のあかりから闇のなかへ、一歩踏み出しかけて、アカリも足を止める。
まっすぐ、前方の暗闇を見つめたまま、
「ねえ、……瑠奈。」
「え?」
「……ルナ。……あなたは、覚えてない?」
「何をです?」
「……なんでもない」
「ええ?」
ルナは、松明をそっと下にさげて、アカリに歩みよった。
まだ前をむいたままのアカリの前に回りこむように、すっと進みでて、
「……アカリ、大丈夫ですか?」
アカリの男のようにするどい目を、じっと見上げて。
青い、小さな目で。
「ねえ、ルナ。」
アカリは、ふっとやわらかい声になった。
「……私はね、きみを助けるためにここに来たんだ。」
どういう意味ですか、といいかけて、ルナは喉をつまらせた。
ほろりと、涙の一筋が、頬をつたって落ちる。
なぜかは、知らぬ。




