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異世界八景  作者: 楠羽毛
夢の世界
83/206

小休止

「少し、休んでいこうか。」

 アカリは軽く伸びをして、壁に背をつけた。

 十歩四方ほどの、ちょっとした広場。壁には燭台。

 ぽっ、ぽっ、と火をつけてまわる。松明は消してしまう。

 ぼんやりとした灯が、部屋を温める。

「……だれかが、油を足していたのでしょうか。」

「さあ?」

 どうでもよさそうに肩をすくめて、アカリは座りこむ。


 かすかに、手が震えていた。


「……緊張しているのですか?」

「なぜ?」

 なんでもないような顔で、ぱちぱちと目をしばたいてみせるが、眉のうえに汗がにじんでいる。

 ルナは、アカリのとなりに腰をおろした。自分も疲れている。迷宮に入ってから、歩きづめだ。

 アカリのほうを見る。目があう。なんとなく、顔が紅潮するのを感じる。

 アカリは、何かいいたげに口を開いて、また閉じた。

 ルナはため息をついて、

「……宮廷の話を聞かせてください。」

「なぜ?」

「なぜでも!」

 ぎりりと睨むように叫ぶ。アカリは苦笑した。

「……そうだなあ。」

 右上のあたりに、目線をさまよわせる。しばらく、黙ってから、

「宮廷は、なんか、こう、華やかで……きれいなところだよ。」

「なんですか、それ。」

「だって、……」

「……もう、いいです。」

 ぷいと横をむいてしまう。アカリはくっくと笑って、

「仕方ないじゃんか。……ほとんど行ったことないんだ。」

「どうして? 宮廷戦士なのでしょう。」

「それは……、」

 アカリは、なぜか目をそむけた。

「……私が、生まれたところの話をしようか。」

「都ではないのですか?」

「ちがうよ。……ただの田舎街。海の近くの。家の近くに、小さな丘があってさ。そこに登ると、街がよく見えるんだ。」

「へえ……、」

 ルナは海を見たことがない。それどころか、この冒険に出る前は、生まれた村と都のほかは、どこへも行ったことがない。

「丘のふもとには、小さな本屋があってさ。よくそこで、立ち読みしてた。」

「本屋、ですか。」

 ルナは首をかしげた。紙は高級品である。まして書物となれば、そのへんで売っているようなものではない。

「……アカリ、あなたはどこから来たのです?」

「ひみつ。」

 アカリはちょっと唇をゆがめて、わらった。

「……レバニィ伯爵の話をしようか。」

「だれです、それ?」

「宮廷の話が聞きたいんだろ? 私が話せるのは、彼のことくらいだ。もっと、早く話しておくべきだったかもしれないけど、」

 そういって、アカリは昔話をはじめた。


 ひとりの、怪人の話を。


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