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異世界八景  作者: 楠羽毛
夢の世界
80/206

地下3階

「……もっと早く言ってくれても、いいんじゃありませんか。」

 ルナは、ぶつくさと文句をいいながら、くらい迷宮を歩いていた。

「いやあ、そんなに驚くとは。」

 かけらも反省していない口調で、アカリが答える。面白がっていたのを隠そうともしていない。

 せめて、誤解されていたとは気づかなかった、と言えばいいものを!

「ごめんごめん」

 ずいぶん軽薄な声にきこえる。

 それにしても、どう聞いても男の声だ。いくぶん高いようではあるが。

「……さあ、この階は、魔物がいるよ。警戒しよう」

「なぜ、……そんなに詳しいんです?」

「え?」

 アカリは足を止めないまま、ぴたりと黙ってしまった。

「……この迷宮に、来たことが?」

「いや、」

「ならば、なぜ……、」

 なおもルナがいいつのろうとしたとき、


 ずん、


 と音がした。

「……来たよ。」

 目の前にあるのは、大きな扉。それから、ルナは気づく。

 いつのまにか、通路がずいぶんと広い。それに、天井も──


 巨大な金属音!


 大きな、とても大きなものが、反対側から扉をぶち破った。蝶番がぎいんと破裂して、ばらばらと落ちる。ひびの入った大板が倒れ、ノブが床につき刺さる。

 石像。いや、銅像か。ルナはそう思った。

「ゴーレムだ!」

 アカリの叫び声。口も鼻も髪もない、抽象化されたひとがた。

 ルナの腰回りをひとつかみにしそうなほど大きな手で、がつんと床を殴りつける。

 

 震動!


 ルナは足をとられて、尻もちをついた。銅像──ゴーレムはちらりとルナのほうをみて、向きをかえた。

「アカリ!」

 反射的に、ルナは悲鳴をあげた。彼女の名を。

「ルナ!」

 アカリは、ゴーレムの一撃で砕けた壁の一部を肩に受けて、うずくまっていた。なんとか立ち上がろうともがいているが、すぐには動けない。

「その杖を! かかげて!」

 叫ぶ。ゴーレムが大きく拳をふりかぶっている。ルナの脳天めがけて、振り下ろそうと。アカリは思わず目を伏せた。

 ルナは無我夢中で杖をつきだした。いくら強い武器だって、この銅像を倒せるとは思えない。せめて、つっかえ棒のように床と拳に隙間をつくれないだろうか。とっさに、そんな考えが浮かび、まっすぐに杖の先を拳に向ける。


 ちいさな衝撃が、ルナの指を走り抜けていった。


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