地下3階
「……もっと早く言ってくれても、いいんじゃありませんか。」
ルナは、ぶつくさと文句をいいながら、くらい迷宮を歩いていた。
「いやあ、そんなに驚くとは。」
かけらも反省していない口調で、アカリが答える。面白がっていたのを隠そうともしていない。
せめて、誤解されていたとは気づかなかった、と言えばいいものを!
「ごめんごめん」
ずいぶん軽薄な声にきこえる。
それにしても、どう聞いても男の声だ。いくぶん高いようではあるが。
「……さあ、この階は、魔物がいるよ。警戒しよう」
「なぜ、……そんなに詳しいんです?」
「え?」
アカリは足を止めないまま、ぴたりと黙ってしまった。
「……この迷宮に、来たことが?」
「いや、」
「ならば、なぜ……、」
なおもルナがいいつのろうとしたとき、
ずん、
と音がした。
「……来たよ。」
目の前にあるのは、大きな扉。それから、ルナは気づく。
いつのまにか、通路がずいぶんと広い。それに、天井も──
巨大な金属音!
大きな、とても大きなものが、反対側から扉をぶち破った。蝶番がぎいんと破裂して、ばらばらと落ちる。ひびの入った大板が倒れ、ノブが床につき刺さる。
石像。いや、銅像か。ルナはそう思った。
「ゴーレムだ!」
アカリの叫び声。口も鼻も髪もない、抽象化されたひとがた。
ルナの腰回りをひとつかみにしそうなほど大きな手で、がつんと床を殴りつける。
震動!
ルナは足をとられて、尻もちをついた。銅像──ゴーレムはちらりとルナのほうをみて、向きをかえた。
「アカリ!」
反射的に、ルナは悲鳴をあげた。彼女の名を。
「ルナ!」
アカリは、ゴーレムの一撃で砕けた壁の一部を肩に受けて、うずくまっていた。なんとか立ち上がろうともがいているが、すぐには動けない。
「その杖を! かかげて!」
叫ぶ。ゴーレムが大きく拳をふりかぶっている。ルナの脳天めがけて、振り下ろそうと。アカリは思わず目を伏せた。
ルナは無我夢中で杖をつきだした。いくら強い武器だって、この銅像を倒せるとは思えない。せめて、つっかえ棒のように床と拳に隙間をつくれないだろうか。とっさに、そんな考えが浮かび、まっすぐに杖の先を拳に向ける。
ちいさな衝撃が、ルナの指を走り抜けていった。




