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異世界八景  作者: 楠羽毛
夢の世界
78/206

邂逅

 しゃん、

 しゃん、

 しゃん、


 と、鈴の音がきこえる。

 覚えている。

 これは、私の『信者』たちが、儀式のときに鳴らしていた鈴だ。


 私は彼らを従えてなんかいない。

 ただ、乞われるままに癒していただけ。

 それなのに、かれらは私を『信じて』、『愛して』、『守って』くれた。

 勝手に。


「……師よ、」

 やさしかった中年の男性。カタルニという。

「あなたを、愛します。」


 なにを、馬鹿なことを。

 勝手な──


 ぱりん。

 ぱりん。

 ぱりん。


 鈴が、割れる音がする。

 私がやったのではない。そんな力はない。

 では、誰が?


『見つけた』

 低い声がした。

 見たこともない、派手な格好をした男が、闇のなかに立っていた。ぎらぎらと小さな宝石を縫い付けたマントに、羽根つきの赤い帽子。自信ありげにまげた口元、それから、

 穴のあいたように、深い闇をたたえた目。

『……やっと、見つけた。』

 その、声とともに、ルナは堕ちていった。



「……ルナ!」

 かすかな、光。

 からからに乾いた床の上に頬をつけて、疲れ切ったルナはだらりと横たわっていた。血相をかえたアカリの足音。気がつくと、抱き起こされて、アカリの腕のなかにいた。

「動くなと言ったのに!」

「だって……、魔物が。」

「この階に魔物なんか、いやしない。」

 アカリは、自分の着替えを枕にすえて、ルナを寝かせた。全身が、だるい。動けない。

「眠りの罠にかかったみたいだな。だいじょうぶ、しばらくじっとしていれば。」

「……へんな、夢をみたの。」

 アカリのきれいな目をみつめて、ちいさく、ルナはいった。

「気にするな。……ともかく、休みな。」

 ちいさく、ルナの背中をたたいて、……朱里は嘆息した。

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