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異世界八景  作者: 楠羽毛
夢の世界
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 闇。また闇。

 ルナは、何度もあたりを見回しては、光のかげも見えないことに失望して、また這いずるように歩いた。

 かしゃん。かしゃん。

 金属が噛み合うような音が、壁のむこうから響く。なにかの罠だろうか。わからない。自分ひとりでは、なにも。

(どうしよう……)

 立ち止まる。それを狙いすましたかのように、背後から、吐息のようなものが迫ってくる。

 走り出そうとする脚を、ぎりぎりでおしとどめて、ふりむく。


 何も見えない。


 ただ、ぞわりと毛皮がこすれる音と、獣臭だけが、漂ってくる。

 後ずさる。

 落とし穴が、あったら。そんなことを思うが、どうしようもない。とにかく、祈りながら、一歩ずつ足を動かす。

 三歩目で、なにかを踏んだ。


 後悔するいとまもなく、ルナの額は、床にぶつかっていた。



 ぐらりと、景色がゆがむ。

(……ここは、)

 身体感覚がない。立っているのか、寝ているのかすらわからない。


 闇、のなか。


 いや、さきほどまでのような真の闇ではない。きらきらと光る月あかり、舞い落ちる星の光。冬のはじめに降る雪のように。

『これが、』

 いつ知らず、ルナはつぶやいていた。舌をつかわず、脳すらも動かさず。

『これが、わたしの欲しかったものだ。』

 この、夜にまいおちる光が。


 真の闇。

 迷宮の闇よりもさらに深く、黒く、塗りつぶされたように粘る闇。

 ずっと、その中にいたのだ。

 長いあいだ──


 いつから?



「えーと……、」

 朱里は、ぎゅっと眉根を寄せて、迷宮の構造を思い浮かべた。オートマッピング機能があればいいのに、と思う。実際には、紙とシャープペンシルすらない。

 とはいえ、嫌になるほど歩けば、自然と覚えるものだ。

 この階層は、大きく円を描く本道と、その脇道でできている。ルナと別れたところは本道だったから、ぐるりと回って壁のむこうへゆくことができた。

 あそこから移動したなら、近くの脇道のどこかだろう。

 壁に違和感。弓矢の罠だ。避けてもいいが、歩き方を間違えるとすぐに起動してしまう。時間はかかるが、解除しておくべきだろう。

 両手の指をしなやかに動かして、壁のすきまから罠の起動スイッチをぐいとひねって、殺す。この動作は自動だ。成功するときも失敗するときも、朱里本人の技術は介在しない。プリディファインドだから。

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