夢
闇。また闇。
ルナは、何度もあたりを見回しては、光のかげも見えないことに失望して、また這いずるように歩いた。
かしゃん。かしゃん。
金属が噛み合うような音が、壁のむこうから響く。なにかの罠だろうか。わからない。自分ひとりでは、なにも。
(どうしよう……)
立ち止まる。それを狙いすましたかのように、背後から、吐息のようなものが迫ってくる。
走り出そうとする脚を、ぎりぎりでおしとどめて、ふりむく。
何も見えない。
ただ、ぞわりと毛皮がこすれる音と、獣臭だけが、漂ってくる。
後ずさる。
落とし穴が、あったら。そんなことを思うが、どうしようもない。とにかく、祈りながら、一歩ずつ足を動かす。
三歩目で、なにかを踏んだ。
後悔するいとまもなく、ルナの額は、床にぶつかっていた。
*
ぐらりと、景色がゆがむ。
(……ここは、)
身体感覚がない。立っているのか、寝ているのかすらわからない。
闇、のなか。
いや、さきほどまでのような真の闇ではない。きらきらと光る月あかり、舞い落ちる星の光。冬のはじめに降る雪のように。
『これが、』
いつ知らず、ルナはつぶやいていた。舌をつかわず、脳すらも動かさず。
『これが、わたしの欲しかったものだ。』
この、夜にまいおちる光が。
真の闇。
迷宮の闇よりもさらに深く、黒く、塗りつぶされたように粘る闇。
ずっと、その中にいたのだ。
長いあいだ──
いつから?
*
「えーと……、」
朱里は、ぎゅっと眉根を寄せて、迷宮の構造を思い浮かべた。オートマッピング機能があればいいのに、と思う。実際には、紙とシャープペンシルすらない。
とはいえ、嫌になるほど歩けば、自然と覚えるものだ。
この階層は、大きく円を描く本道と、その脇道でできている。ルナと別れたところは本道だったから、ぐるりと回って壁のむこうへゆくことができた。
あそこから移動したなら、近くの脇道のどこかだろう。
壁に違和感。弓矢の罠だ。避けてもいいが、歩き方を間違えるとすぐに起動してしまう。時間はかかるが、解除しておくべきだろう。
両手の指をしなやかに動かして、壁のすきまから罠の起動スイッチをぐいとひねって、殺す。この動作は自動だ。成功するときも失敗するときも、朱里本人の技術は介在しない。プリディファインドだから。




