捜索
「そこを動くな!」
叫び。その声が消えると同時に、どんとつま先近くに壁が落ちる。
とたん、暗闇。
背筋がぞわりとした。松明は、アカリの側にある。火おこしの道具すら、自分は持っていない。
壁に手をあててみる。がんじょうで、とても動きそうにない。冷たい。耳を近づけてみても、向こう側の音すら聞こえない。
(どうしよう……)
何も見えない。床と壁を触って、位置関係をなんとか把握する。
ちょうど進行方向を、壁がふさいだ格好だ。開ける方法があるのかどうか、全くわからない。壁のむこうで、アカリが今やっているのだろうか。
ぎらりと、何かが光った。
闇のなかに、ひかる目。3対の。
(魔物──)
ぞっとする。灯りも武器もない。
(喰われるの!?)
アリーシアで見たものが、脳裏にちらつく。
(武器……、)
杖を握る。心もとない。
魔物は、ゆっくりと近づいてくる。ということは、まだこっちには気づいていないのではないか。そう、思う。
アカリが助けに来るにせよ、すぐは無理だろう。とにかく、移動しなくては。
慎重に、壁をつたって動く。足元も見えない。先程の落とし穴を思い出して、背筋が凍る。しかし、進むしかない。
しゅうしゅう、と吐息のような音がきこえる。
すぐそばに、いるのか。
暗闇の中、這うように、足音を殺して、一歩ずつ。
そうして、5分ほども歩いて……ルナは、ようやく息をついた。
*
「ルナ!
壁落としの罠は、いちど発動すると、もう元には戻らない。罠というより、迷宮そのものがつくりかえられてしまうようだ。
朱里は、苦労して壁のむこうにまわりこんだ。迷路をすべて覚えているわけではない。罠をさぐりさぐり、時間をかけて辿ってきたのだ。
いない。
「ルナ! ルナ! 菊田瑠奈!」
叫ぶ。つい、馴染みのある名で。
「動くなってゆったのに……」
ぶつくさと、男の声のままつぶやきながら、松明であたりをてらす。いない。
この階には、魔物はいないはず。罠だって、じっとしていれば発動しない。いったい、なぜ。
松明をふりまわすように辺りを見回していてふと、気づく。
壁に、6つの穴。そこから、光と、かすかな音が。
(これか……)
ただの、こけおどしの罠だ。危険性がないので、意識の外だった。
とにかく、探さなくては。




