迷宮
地下2階にはいると、壁や床のようすががらりと変わってきた。れんが積みのような、規則正しく並んだ壁の模様が、松明のあかりに照らされて浮かびあがる。ルナは緊張しながら、アカリのあとをついていった。
アカリは、無造作にすたすたと進んでいたが、あるところで急に立ち止まった。
「どうしたんですか?」
「……落とし穴だ」
「え?」
アカリが松明を床に近づける。どこまでも、石畳の床が続いているばかりで、穴などまったく見えない。
「ここかな……多分」
アカリは、ぶつぶつと独り言をいいながら、抜き身に亀裂の入った剣を、目の前の石畳に、思い切り突き刺した!
鈍い金属音。それから、いやな音がして、刃のなかばほどで、ぽっきりと折れてはね飛んでしまった。
「あれ、ちがった。じゃあ、……」
どこまで本気なのか。
ルナは、なんだかちょっと呆れてしまって、折れたきっさきを拾おうと身をかがめた。灯の届かないところに落ちたようだが、場所は大体わかっている。
「あ、そこは駄目!」
アカリがかん高い声をあげる。刃の落ちたとおぼしきところに右手をつく、と思いきや、そこは何もない空間だった。はっと悲鳴をあげる間もなく、バランスをくずして穴のなかに倒れこみそうになる。
……落とし穴!
どん、と下半身に衝撃を感じて、気がつくとルナはあおむけに座りこんでいた。アカリが突き飛ばして助けてくれたのだ、と気がつくまで、しばらくかかった。
地面に落ちた松明が、床を照らしていた。石畳が9枚、きれいに陥没して、大穴が開いている。底は暗くてよく見えない。
「あの、ごめんなさい……」
ルナは消え入るような声で、頭を下げた。アカリは微笑して、
「気にしないで。落ちても死ぬわけじゃないし……」
落ちたことがあるのだろうか。
「短くなっちゃったなあ」
アカリはなんでもなさそうな顔で、ぶらぶらと剣を動かした。
「これ、使ってください。」
ルナは、自分が持っていた杖をさしだした。
「いや、それは持っておきなよ。いちおう武器がないとね」
「武器……」
しげしげと、山歩き用の杖を見る。旅が決まったときに、信者が用意してくれたものだが、武器だと思ったことはなかった。
「もちろん、私が守るけれど。でもいざという時に、何か持ってないとね」
「……そうですね」
いまいち、一人になるという実感がわかないが。
その後しばらくは、何事もなく進んだ。分かれ道がいくつかあったが、アカリは、すたすたと迷いなく歩いていた。しばらく進むと、大きな扉が道をふさいでいた。アカリは、扉に描いてある模様に手をあてて、なにかを動かすようなしぐさをした。二度、三度とくりかえすうち、
「……あ、」
ちいさく、つぶやく。その瞬間、
アカリと、後ろで見守っていたルナの間をへだてるように、天井から壁が落ちてきた!




