表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界八景  作者: 楠羽毛
夢の世界
73/206

粘体

 アカリがさっと手を出して、ルナをさがらせた。

 粘液、であった。

 たいまつの光にてらされて、緑色の液体が、ぞろりぞろりと、アカリの足へむかって這い寄ってくる。

 液体のなかには、小さな泡、極小の虫のようなもの、それから、


 大きな目玉。


「ひっ……!」

 おもわず、ルナが悲鳴をあげると、粘液の動きが変わった。

 さっきまで床を這うだけだったそれが、大きく、かまくびをもたげるようにして、ルナの顔にむけて伸びあがってきた!

「わぁっ!」

「黙って!」

 アカリがささやく。ルナはとびのいて、尻もちをつきそうになった。アカリはルナを抱きとめるようにして、いっしょに10歩ほどさがった。

「……音に反応するんだ。しずかにしていれば、大丈夫」

「触ったらどうなるんですか、あれ!?」

「知らないほうがいい、かもね」

 アカリはにっこりと笑うと、たいまつをふたたび前にかざした。粘液は、ゆっくりとこちらに向かってきている。動きは鈍いが、床のほとんどをうめつくすように広がっており、触れずに通るのは難しそうだ。

「……燃やしたらどうです?」

 たいまつの火に目をやって、ルナがささやいた。

「燃やすと、たくさん煙が出る。こんな場所で煙を吸ったら、息が詰まって倒れるだけだ」

「試したんですか?」

「うん、……いや、試さなくてもわかるさ」

 アカリは首をふって、すらりと剣を抜いた。

「斬るんですか!?」

「いいや。」

 アカリは、剣の柄を壁にむけると、力を込めて壁に叩きつけた!


 がん、がん、がん、がん、


 一定のリズムで、少しずつ位置をかえて。

 もう一方の手では、たいまつをかざして、粘液を照らしている。

 すると、少しずつ、アカリが叩いている壁に、粘液が近寄ってくる。

 壁を叩いている音に、引き寄せられているのである。

 じわり、じわりと、壁を這い登ってくる。それにつれて、反対側の壁ぎわに、少しずつ隙間ができていく。

 やがて、なんとか一人が通れるくらいの道ができた。

「……ゆっくり、通るんだよ」

 アカリは、小さな声でいった。 

 もう、ほとんどアカリの手のあたりまで、粘液は寄ってきている。ルナは、こくんと頷くと、足音を忍ばせて、少しずつ進み始めた。

 一歩、二歩、三歩、

 十歩ほどで渡り終えて、無言のまま手を振る。

 アカリは、少しずつ後ずさりしながら、壁を叩き続けた。粘液はさらに偏っていく。そうして、粘液がアカリの手めがけて壁からぐいと鎌首をもたげた瞬間、アカリは走りだした!

 ルナの通った道を、足音を忍ばせてではなく、全速力で走り抜けていく。そのとたん、粘液はアカリの足音を感知して、ざあっと波だった。すぐに道が消えていく。最後の一歩を駆け抜けようとした瞬間、足元に粘液が満ちた。じゅっといやな音と煙があたりに広がる。それでも、最後までかけぬけたアカリの、背中に。

「あぶない!」

 迫る、鎌首。ルナの、悲痛な叫び声。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ