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異世界八景  作者: 楠羽毛
夢の世界
68/206

回想

 焚火の熱が、晩秋の森をとうとうと照らしている。

 都を出てから、3日。大樹の魔女と会ってからは、およそ2日。そろそろ、二人旅にも慣れてきた。こんな事情でなければ、楽しんですらいたかもしれない。

「……アカリさん、」 

 ルナは、焚き火のそばで膝をかかえて座っていた。ぎらぎらと光る炎が、ぎゅっとまとめた金髪をきれいに映し出す。

 きょうは男装である。綿のズボンにシャツ、あたたかい緋の上着に、大きなマント。山歩き用の杖を足元に転がしている。田舎育ちとはいえ、森の奥に入るのは初めてだ。神経を使ったせいか、今日はくたくたに疲れている。

「なあに? ルナ」

 アカリは、てきぱきと薪を差して、あかるい声でこたえた。

「あなたは、……なぜこの任務に?」

「うーん、」

 アカリは、しばらく遠い目をした。たっぷり1分以上、そのまま固まってから、なにかをやり終えたようにまばたきをして、もう一度口を開いた。

「……王宮で、疎まれたからかな。身分の高い騎士や貴族に、恥をかかせすぎたんだ。普通なら、手心を加えるものだけど」

「へえ……。」

 アカリは、革鎧を着たまま。腰にさした剣の柄を、右手の指で所在なげにいじりながら。

 するどい、切れ長の目を、たのしげに細めて。

「きみは、なぜ? ルナ。」

 少し、馴れ馴れしいな、とルナはおもった。都の人間はこんなものか。

「……わかりません。とつぜん、王宮に呼び出されて……」

「きみも、疎まれているからさ。」

「え?」

「自分で思ってるより、きみは有名人なんだよ。」

 ルナはきょとんと首をかしげた。そうなのかもしれないが、実感はわかない。

「でも、」反駁する。「こんな重大な任務に、そんな理由で。」

「重大だなんて、思ってるのは私たちだけ。いまどき、魔女の目なんて、信じているのは……、」

「……治癒能力者は実在するのに?」

「そう。だから、きみは疎まれる。魔女も同じだよ。」

 ルナは頭がくらくらして来た。難しい話はよくわからない。

「ひととおりの事情は、聞いてるんでしょう?」

「……大樹の魔女が、魔王の復活を予言したと……、」

「正確には、魔王封印の扉に、ひびが入っているのを『視た』と。それを、『復元の秘薬』で修復するのが、私たちの任務ってわけ。大樹の魔女は、あの木のそばを動けないからね。」

「その薬は、そんなにすごいものなのですか?」

「さァ……使ったことないから、わからない。生物以外ならどんなものでも、修復できるということだけど。」

 からからからと、小瓶をつまんで振りながら、アカリは笑った。

「実際には、任務はそれだけではないんだけれど……」

「え?」

 聞き返した丁度そのとき、アカリが唇に指先をつけて、するどく、「シッ。」とささやいた。ルナは思わずだまりこんで、アカリの目をみた。


 気配。いや、足音か。

 けものの、うなり声。

  

「……ここに、座っていて。」

 アカリは無造作に立ちあがった。ルナはとまどいながら、杖をぎゅっと握りしめた。どこかに、野犬でもいるのか。それとも、まさか熊とか。

 立ち上がった戦士は、ちゃっと剣をぬきはなつ。そこに、とびかかる、


 ……黒い影!

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