再会
なんだか、こわい人。
第一印象は、それだけだった。
王宮戦士、という聞いたこともない肩書きに、見上げるような長身。鋲付き革鎧と分厚いマントに身を包んで、つっぱねるような冷たい目で、見下ろしてくる優男。筋肉質だが、ちょっと見には女のように細い腰。
アカリ、と名乗ったその男は、慣れない王宮で尻をむずむずさせて座っていたルナに、すっと手を差し出して、ぎこちなく笑った。
「はじめまして、ルナ。」
ルナは立ち上がって、きょときょとと目線をさまよわせた。奇跡の女なぞと呼ばれても、やはり自分はただの田舎娘で──、王宮は、場違いだ。
「えっと、はじめまして、騎士様。」
上ずった声でそう返すと、アカリはすっと優しい目をして、
「騎士じゃないよ。……とにかく、よろしく。」
それから、ルナはようやく気がついて、手を握り返した。
王宮戦士の手は、暖かくて、少しほっとした。
*
畑と空き地ばかりの田舎町。三軒となりの男の子と二言しゃべっただけで、次の日にはみんなが知っているような、いやらしい集落。
父のない子、というのは語弊がある。生まれてすぐ母も亡くしたからだ。鐘楼から飛び降りて自死したそうだ。祖母と二人で、畑を耕して育った。それ以外の人間とはほとんど口をきいた覚えがない。まして、同じ年頃の子供と遊んだことなど、ほとんどない。
一度だけ、畑のうらの崖下で、男の子が怪我をしているのを助けたことがある。きれいに折れた太腿に、そっと手をあてると、すぐに治った。男の子は、ひきつるような声をあげて走っていった。すぐに後悔した。絶対に人前でやってはいけないと、きつく言われていたのに。
その日から、ルナの生活は一変した。
町じゅうの人が、ルナのことを囁くようになった。それだけなら無視すればよかったが、すぐに、家の前に怪我人やその家族が列をなすようになった。治癒の力は、時間がたった怪我にも効果があったから、いくさで体を悪くした騎士やその従者が何人もやってきた。そうしたことを繰り返すうち、家の前に掘っ立て小屋ができ、信者と称する取り巻きが勝手に住むようになった。
都に出たのは、十三歳のとき。取り巻きのリーダー格が、しいて薦めるので従ったまでだ。祖母にこれ以上心労をかけたくもなかった。
平屋の、大きな屋敷が用意されていて、数十人の信者とともに暮らすことになった。治癒の力は夜しか使えないので、昼間はずっと寝ていた。どんどん体がなまっていく。そのかわり、食事には不自由しなかった。
そうして、ひと月ばかり暮らした後、王宮から使者がやってきた。
*
「……大樹の魔女よ、」
アカリは、まっしろな貫頭衣をきたのっぽの女のまえにひざまづいて、低い声でいった。
「復元の魔術を、お授け下さい。」
樹齢数千年の神木を背負った女は、ぼんやりとした目つきで二人を見下ろしながら、すっと手をさしのべて、
「そう、……話が早いのね。」
そう云うと、アカリの前に、緑色の液体が入った小瓶が現れた。
「使い方は、ごぞんじ?」
「ええ。」
アカリは頷いて、小瓶を懐にいれた。「それでは。」さっと立ち上がり、きびすをかえす。ルナはすぐに後を追いかねて、ちらちらと魔女のほうをみた。
大樹の魔女の指先は、ぼんやりと薄くなって消えていた。




