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異世界八景  作者: 楠羽毛
幕間
66/206

デイジーの並行世界冒険ガイド② 地底の世界

 報告です。報告です。

 こちらはデイジー。船長代理。


 知的生物の存在する平行世界について、報告します。

 探査地点の中心は、現地で2番目に大きな大陸の南端、全長およそ15キロメートルほどの半島の中心部にある火山です。

 およそ1万2千5百12年前、この山に根を張っていた巨大植物が噴火により焼失し、溶岩樹型を形成しました。その後、水流と風化作用により巨大な洞窟が形成され、山頂には洞窟につながる大穴が残りました。

 百十二年ほど前、複数の種族からなる原住民の調査隊が、山麓の横穴から洞窟に入りました。その二日後、小規模な噴火とともに地震が起こり、横穴がふさがれてしまったようです。

 その噴火で、山麓の村が壊滅してしまったため、今ではこの山は死の山とか、岩降り山などと呼ばれ、自ら近づくものはおりません。調査団のことも、いつしか忘れ去られてしまいました。

 しかし、近年、この山の内部に人間が生き残っているのではないかという情報があります。

 この世界の原住民は、哺乳類を中心としたさまざまな種族が収斂進化したもので、みな二足歩行し、同じ言語を話しますが、体型も能力も大きく異なります。

 岩降り山から東北東に251キロほどいったあたりに、クズナ・シティという街があります。大陸で2番目に大きな街で、工場と技術系企業の8割がここに集中しています。

 この世界の文明レベルは、近年、めざましい発展をとげました。わずか50年前には内燃機関すら実用化されていなかったというのに、現在は無線操縦の航空機が空を飛んでいます。ただし、コンピュータは発明されていないようです。

 都市部では、さまざまな種族がひしめきあって暮らしています。大半の種族は、われわれと大きくかわらない大きさですが、なかには非常に小さなものもいます。かれらの脳は我々の指先ほどしかありませんが、知能はとても高いようです。

 クズナ・シティには巨大な学園都市があり、全国から大勢の学生と研究者が集まってきます。近年、もっとも人気のあるテーマは宇宙航空学で、来年にも世界初の有人ロケットを飛ばすべく、プロジェクトが進行しています。

 いっぽう、クズナ・シティの北は、未開の森林が広がっています。かれら、二足歩行して同じ言語を話すものたちは自らを「人間」と称していますが、この森やさらにその奥には、「亜人」と呼ばれる、別の種族が住んでいます。

 かれらは独自の言語と、文明を持っていますが、その様態は「人間」には理解しがたいようで、野蛮人あるいは知能のない動物とみなされています。

 亜人たちは、節足動物が進化して知能を持った種族の集まりです。姿はさまざまですが、代表的なものは六本足で歩く蜘蛛のような種族です。背中の器官から人間の可聴域を越えた音波をたえず発して、仲間と交信しあっています。

「人間」の生活域が広がるにつれ、亜人たちは森の奥へと追いやられてきましたが、近年になって、亜人が人間を襲うケースが多発しており、組織的な攻撃の兆候もみられます。一触即発といっていいでしょう。

 亜人の領域の北には、さらに別の種族がいるのですが、それに関しては今は伏せておきましょう。


 願わくば、いつかご自分の目と耳で、確かめられますように。

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