表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界八景  作者: 楠羽毛
方舟の世界
55/206

不審な部屋

「……今日、この部屋に入ったか?」

 アルバが、半開きになったドアを指して、そう言った。

「え?」

 朱里は、かかえていた木箱をおろして、ふりむいた。

 ドアに書かれている文字に目をやる。アルファベットをいくつも重ねたような、ベレオ人の文字である。むろん、読めない。

「……入ったことないよ。どうして?」

「見てみろ。」

 いわれて、部屋をのぞきこむ。

 狭い通路の両側に、木製の大きな棚が並べられて、木箱がずらり。奥には、蓋をした箱が乱雑に重ねられて、山のように。

「……あれが、どうかしたの?」

「棚から箱を出したのは、お前か?」

「知らないってば。」

「ふむ……。」

 アルバはしばらく黙りこんでから、「まあ、よいか。」といって、扉を閉めた。

「あと、いくつある?」

「この箱いれて、3つ。すぐおわるよ」

「助かる。……そろそろ、昼にしよう。用意する」

 そういって、居住スペースのある上層へむかう階段へと、歩いていく。

 朱里は、腰に手をあてて、隣に浮かんでいるカセイジンにささやいた。

「……どう、思う?」

「どうって……」

「誰か、いるのかな。やっぱり」

「それ、……アルバに言えば?」

「やだ!」

 首を振る。

 どういう事情にせよ、密告はしたくない。

 自分がいなくなった後、どうなるにせよ。今は。



「……どうだ?」

 昼食後、しばらくして。

「……わぁ、」

 作業室にひっこんでいたアルバが、遊戯室に戻ってきた。眼鏡の調整が終わったらしい。

「ぴったり。ありがとう」

「度は?」

「いいと思う。しばらくかけてみるわ」

 とは言うものの、ここのところずっと裸眼だったので、まだ少し慣れない。フレームのはしに手をあてたまま、立ち上がってみる。少しだけ、くらっと。でも、朝のレンズとはぜんぜん違う。

「ああ、そうしてくれ」

「……このレンズ、いま手作業で作ったの?」

「まさか。」

 アルバは立ちあがって、部屋のはしにむけて歩きだした。なんだろう、と思って目を向けたとたん、めまいがして朱里は椅子に腰を下ろした。もう少しすれば慣れるだろうか。

「昔、たくさん作ったのをとってあったのさ。おれの眼鏡の、まあ、試作だな。時間がたてば度もかわるから、いろいろ数を揃えてあったんだが」

「へえ……、」

「師匠のところにいた頃のことだ。今も設備はあるから、作れないこともないが。方舟が動いてる間は、硝子細工はむりだな。揺れるから」

「……そうなんだ。」

 言い回しに少しひっかかるものはあったが、それよりも前半が気になった。

「師匠って、……どんな人?」

「ああ、……」

 棚のなかをがちゃがちゃやっていた手をとめて、

「師匠は、蜘蛛人だ。ケ=ナという」

「蜘蛛人……そういうのが、いるの?」

「知らんのか。……まあ、それはそうか。」

 棚から、小さな木箱と円形の板をひとつ、ようやく見つけだして、アルバは朱里のほうに向きなおった。

「荷物の整理も大体終わったことだし、今日はゆっくりしよう。色々と、話したいこともある。」

 かわらず、表情のない顔で。


 いや、笑っている、のかもしれない。朱里にはわからない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ