離れてゆくあなた
大森林──
「わぁ……!」
朱里は感嘆した。目が慣れるまで少しかかったが、ようやくはっきりと視認できた。
森、であった。
背の高い広葉樹がいちめんに生えて、葉のすきまから日光がちらちらと地面に注ぐ。樹の根元には背の高い雑草が生い茂り、かすかに鳥の声さえ聞こえてくる。
夢だろうかと、小さくおもう。
少しひらけた場所から、頭上を見る。たしかに、太陽が見える。アカリタケの発光周期ではもう夜になっていたはずだが、地上は真昼らしい。
「……どうなってるの?」
肩に乗っているラードナーラに、たずねる。まだ目が慣れないらしく、帽子を傾けて顔を隠している。
「壁がせり出しているのが、見えないか?」
いわれて、朱里は上を向いたまま、視線をぐるりと一周させる。
眼鏡がないので、はっきりは見えないが、たしかに、そのように見える。
オーバーハングしてせり出した壁が、ぐるり。
球形の天井のてっぺんに、穴があいたような形である。
「外とつながっているのは、ここだけだ。樹も、羽毛も、ここでしか採れない。とても大切な場所なんだ」
「へえ、……」
朱里は、うきうきしながら木々のあいだを歩き続けた。真昼といっても、暑くはない。快適な気温である。ゼラ国の他の場所のように、湿った感じもしない。
「そんなところに、勝手に入っていいの?」
「さっき、ルードレキが言ってたろう? きみは対等の相手として認められた。つまり、欲しいものは実力で取っていいってことだ」
「実力で?」
「つまり、腕ずくで、さ」
「そんな、……いいの?」
「それも法の一部だよ。ゼラ族とマリス族も、そうやってこの土地の資源を分配してるんだ。色々と決めごとはあるがね。……もし、女王がきみをここから追い出したければ、対等の条件で戦いを挑んでくる。前みたいに、集団で網を投げてくるようなことは、もうないってことだよ」
「ふうん……」
朱里は首をかしげた。異世界のことは、やはりよくわからない。
「それで、カーラ姫は……」
「ああ、無事でいるといいが。」
ふたりは目をつむって、かれらと別れたときのことを思い出した。
「……ねえ、私さ」
「ん?」
「あと3日で、もとの世界へ帰ることになってるの。」
もっとも、それはゼラ族の暦で時間を数えてのこと。外の世界の一日とは違うから、正確なところはよくわからない。
「え?」
ラードナーラは、はじめて聞いたように呆然と身をふるわせた。
「言わなかったっけ?」
「そうか……」
ラードナーラは、ひといきに朱里の肩からとびおりた。器用に受け身をとって、地面にころがる。そのまま、背をむけて。
「ねえ! どこ行くの?」
「都へ。また、来るよ」
そっけなく。
朱里は眉をしかめて、ぼんやりとかれを見送った。
*
カーラは、一人でマリス国へと旅立った。
レカーダは、じっと突っ立ったまま、見送っていた。
そして、クリムルは、ふかぶかと頭をさげて、
「いってらっしゃいませ、」
と、かぼそい声で言ったのだ。
これが、今生の別れとなると知りながら。




