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異世界八景  作者: 楠羽毛
地底の世界
45/206

決闘者たち

 朱里は、竜の巣の入り口近くへ。

 騎士たちは、それぞれ壁際へ。

 邪魔にならないように、それぞれ、退いている。


 両手にそれぞれ長剣をかまえたルードレキに対して、右にラードナーラ、左にクリムル。ふたりは、両手でまっすぐに剣を握っている。

 ラードナーラが、まず、膝をおおきくまげて低い姿勢でとびこむ。

 一瞬おくれて、クリムルが、たかだかとふりかぶった剣を走りながらうちおろす。


 かぁん!


 するどい音が、ふたつ、同時に。

 ルードレキが、両側からの打ち込みを、それぞれ片手で剣をあわせて受けたのである。

 鍔ぜりあいをさけて、体をひねる。

 自分の左側にいるクリムルの、さらに左に身をかわし、切っ先をそらした。

 クリムルは、一瞬身を泳がせたが、すぐにたてなおして、横薙ぎにルードレキの胴に切りつけた。

 ラードナーラは、動けない。クリムルの身体がじゃまになって、届かないからだ。

 右側からの横薙ぎを、ルードレキは右手の剣で受ける。

 両手と、片手である。それでも力負けしないのは、クリムルの剣に力が乗る前に、持ち手に近いところに剣をあてて防いでいるからだ。

 受けた瞬間、左手の剣は自由になっている。

 それを、上からではなく下から、手首の力だけでふりまわすようにして、剣を握っているクリムルの肘にあてる。もちろん、たいした威力はない。が、それと同時に、右手に力をこめて、ひねる。クリムルの手から、一瞬、力が抜ける。

 クリムルの剣が、地面に落ちていた。

「おれの勝ちだな。」

 たんたんと、つぶやくように、宣言する。

 剣を拾おうとしたままうずくまっているクリムルを、見下ろしながら。


 たんっ!


 地面を蹴る音。

 頭上から、ラードナーラの剣がルードレキの頭をまっすぐに襲う。

(……たいした脚だ、)

 感嘆しつつも、顔には出さない。

 二本の剣を交差させて、受ける。腰を落として、ぶつかってくる衝撃を殺す。

 そのまま、懐にとびこんできたラードナーラをつかまえようとするが、届かない。

 すぐに、跳ねるようにして後ろにとびすさって、間合いをはずされているのだ。

「すばしっこいな、」

 今度は、素直に称賛する。が、ラードナーラは、ぎりぎりと敵意のこもった目でこちらを睨みつけてくるばかりだ。

 ゆっくりと、間合いをつめる。

 ラードナーラは、さらにさがる。

 間合いをつめる。

 さがる。

 いつのまにか、後ろがなくなっている。崖上。それ以上さがりすぎると、マグマの海に落ちることになる。


 警告してやろうと口を開いた瞬間、むこうが動いた。

 4歩ほどの間合いをひととびに詰め、跳躍。


 また空中からの攻撃。一瞬そう思うが、ちがう。そのまま、ルードレキの頭上をとびこえ、背後に着地している。ふりむくと同時に、横薙ぎ。斬りかかろうとした瞬間に反撃をうけ、ラードナーラはとっさに構えをくずして後ろにとぶしかない。

 ふたたび、離れる。さきほどとは、位置がいれかわっている。

(……強いな、)

 もう一度、口のなかでつぶやく。

 クリムルより、この小僧のほうがよほど強い。

 が、むろん、負けてやる気はない。

 あいての脚をじっと見据えながら、決着をつけようと、歩みだす。


 そのとき。


「ラードナーラーッ!」

 巨人の、悲鳴のような声と、轟音がほとんど同時に。

 ごろごろ……と、低い、なにかが唸るような音と、水がはねるような音。

 振動。

 とっさに、両脚で踏ん張る。崖下をみる。溶岩が大きなしぶきをあげて暴れている。


 竜が、こちらに気づいたのか。


 この崖上までは、溶岩はとどかない。しかし、湖岸にいる部下たちは──

 濃すぎる霧のむこうに、たちつくす巨人と、我先に出口へ殺到する騎士たちが見える。

 逃げたか。

 安堵と軽蔑をないまぜに、そうつぶやいたとき、


 腹に、衝撃。


 剣ではない。

 ラードナーラが、思いきり身体ごとぶつかってきたのである。

(油断した──ッ)

 そう、思う。思っているあいだに、足が地を離れ、なすすべもなくうつぶせに倒れる。

 地にひざがついた。負け、ということだ。

「やった、」

 疲れきった声、耳元から、気配が少しずつ離れていく。

「おい、

 ルードレキはあわてて立ち上がり、ラードナーラに声をかけようとした。

 けれども、少しだけ遅かった。


 ラードナーラは、かれらの目の前で、ふらつきながら崖から足をふみはずし、溶岩の泉へと落ちていった。


 クリムルのつんざくような悲鳴。

 そして、一瞬のためらいもなく、巨人がマグマに飛び込む音。

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