決闘者たち
朱里は、竜の巣の入り口近くへ。
騎士たちは、それぞれ壁際へ。
邪魔にならないように、それぞれ、退いている。
両手にそれぞれ長剣をかまえたルードレキに対して、右にラードナーラ、左にクリムル。ふたりは、両手でまっすぐに剣を握っている。
ラードナーラが、まず、膝をおおきくまげて低い姿勢でとびこむ。
一瞬おくれて、クリムルが、たかだかとふりかぶった剣を走りながらうちおろす。
かぁん!
するどい音が、ふたつ、同時に。
ルードレキが、両側からの打ち込みを、それぞれ片手で剣をあわせて受けたのである。
鍔ぜりあいをさけて、体をひねる。
自分の左側にいるクリムルの、さらに左に身をかわし、切っ先をそらした。
クリムルは、一瞬身を泳がせたが、すぐにたてなおして、横薙ぎにルードレキの胴に切りつけた。
ラードナーラは、動けない。クリムルの身体がじゃまになって、届かないからだ。
右側からの横薙ぎを、ルードレキは右手の剣で受ける。
両手と、片手である。それでも力負けしないのは、クリムルの剣に力が乗る前に、持ち手に近いところに剣をあてて防いでいるからだ。
受けた瞬間、左手の剣は自由になっている。
それを、上からではなく下から、手首の力だけでふりまわすようにして、剣を握っているクリムルの肘にあてる。もちろん、たいした威力はない。が、それと同時に、右手に力をこめて、ひねる。クリムルの手から、一瞬、力が抜ける。
クリムルの剣が、地面に落ちていた。
「おれの勝ちだな。」
たんたんと、つぶやくように、宣言する。
剣を拾おうとしたままうずくまっているクリムルを、見下ろしながら。
たんっ!
地面を蹴る音。
頭上から、ラードナーラの剣がルードレキの頭をまっすぐに襲う。
(……たいした脚だ、)
感嘆しつつも、顔には出さない。
二本の剣を交差させて、受ける。腰を落として、ぶつかってくる衝撃を殺す。
そのまま、懐にとびこんできたラードナーラをつかまえようとするが、届かない。
すぐに、跳ねるようにして後ろにとびすさって、間合いをはずされているのだ。
「すばしっこいな、」
今度は、素直に称賛する。が、ラードナーラは、ぎりぎりと敵意のこもった目でこちらを睨みつけてくるばかりだ。
ゆっくりと、間合いをつめる。
ラードナーラは、さらにさがる。
間合いをつめる。
さがる。
いつのまにか、後ろがなくなっている。崖上。それ以上さがりすぎると、マグマの海に落ちることになる。
警告してやろうと口を開いた瞬間、むこうが動いた。
4歩ほどの間合いをひととびに詰め、跳躍。
また空中からの攻撃。一瞬そう思うが、ちがう。そのまま、ルードレキの頭上をとびこえ、背後に着地している。ふりむくと同時に、横薙ぎ。斬りかかろうとした瞬間に反撃をうけ、ラードナーラはとっさに構えをくずして後ろにとぶしかない。
ふたたび、離れる。さきほどとは、位置がいれかわっている。
(……強いな、)
もう一度、口のなかでつぶやく。
クリムルより、この小僧のほうがよほど強い。
が、むろん、負けてやる気はない。
あいての脚をじっと見据えながら、決着をつけようと、歩みだす。
そのとき。
「ラードナーラーッ!」
巨人の、悲鳴のような声と、轟音がほとんど同時に。
ごろごろ……と、低い、なにかが唸るような音と、水がはねるような音。
振動。
とっさに、両脚で踏ん張る。崖下をみる。溶岩が大きなしぶきをあげて暴れている。
竜が、こちらに気づいたのか。
この崖上までは、溶岩はとどかない。しかし、湖岸にいる部下たちは──
濃すぎる霧のむこうに、たちつくす巨人と、我先に出口へ殺到する騎士たちが見える。
逃げたか。
安堵と軽蔑をないまぜに、そうつぶやいたとき、
腹に、衝撃。
剣ではない。
ラードナーラが、思いきり身体ごとぶつかってきたのである。
(油断した──ッ)
そう、思う。思っているあいだに、足が地を離れ、なすすべもなくうつぶせに倒れる。
地にひざがついた。負け、ということだ。
「やった、」
疲れきった声、耳元から、気配が少しずつ離れていく。
「おい、
ルードレキはあわてて立ち上がり、ラードナーラに声をかけようとした。
けれども、少しだけ遅かった。
ラードナーラは、かれらの目の前で、ふらつきながら崖から足をふみはずし、溶岩の泉へと落ちていった。
クリムルのつんざくような悲鳴。
そして、一瞬のためらいもなく、巨人がマグマに飛び込む音。




