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異世界八景  作者: 楠羽毛
地底の世界
37/206

旅の仲間

 朱里は、ルードレキの首をつまんでつまみあげたまま、

「帰りなさい、」といった。

「ちょっと、大丈夫なの?」

 カセイジンが、耳元でささやくが、無視する。

 どうせ、彼は朱里にしか見えないし、聞こえない。いないのと同じだ。

 ルードレキは何もいわない。だまって、こちらを睨みつけている。

 朱里は、ほー、と小さくつぶやいて、ルードレキをさらに高くかかげた。

「退却を命令しなさい。」

 まだ黙っている。

 朱里は、ルードレキを顔の近くにもってきた。ぎりぎりまで近づけると、ようやく表情が見える。

 歯をむきだして、ぎりぎりと音をたてている。今にも、噛みつかんばかりだ。

 思わず、笑ってしまう。その表情を読み取ったのか、シマリスはさらに興奮して、木剣を大きくふりあげた。こちらに投げつけたいらしい。

 もう一方の手で、ひょい、と木剣をつまんでとりあげる。


 ルードレキは、ようやくあきらめて、言った。

「……退却せよ」



 半日後──


 湖の北岸。

 ナリーを中心に、マモー族たちがぞろぞろと並んでいる。

 朱里は、肩から腰にまわした縄に、大きな布で包まれた魚をくくりつけている。全部で、七匹。大急ぎで煙でいぶしたあと、焼いたものだ。腰には、保存食のオオユカタケがみっしり入った袋がふたつ。

 肩のうえに、ラードナーラが乗っている。変わらずの旅支度で、得意げに鼻を動かしながら。

 族長が前にでて、

「ゼラ国とマリス国の境界に、大森林があります。そこを目指すとよろしいでしょう」と、いった。

「いやあ、おまえがいれば百人力だ」

 ラードナーラは、早口でそういった。

「あなたは姫を助けにゆくんでしょう?」

 朱里は、ラードナーラの頭をかるくつついた。どうも調子にのっているのではないか。

「大森林は、竜の巣からほど近いところにあるそうです。途中までは、一緒に行かれるがよろしいでしょう。我々は役目がありますので、この湖を長く離れることはできません。かれは旅慣れているようですから……」

 族長がいうなら、と朱里は口をつぐんだ。

「では、ゆこう。いざ竜の巣へ!」

 ……やはり、まだ調子にのっているような気がする。


 ともかくも、そういうことになった。

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