旅の仲間
朱里は、ルードレキの首をつまんでつまみあげたまま、
「帰りなさい、」といった。
「ちょっと、大丈夫なの?」
カセイジンが、耳元でささやくが、無視する。
どうせ、彼は朱里にしか見えないし、聞こえない。いないのと同じだ。
ルードレキは何もいわない。だまって、こちらを睨みつけている。
朱里は、ほー、と小さくつぶやいて、ルードレキをさらに高くかかげた。
「退却を命令しなさい。」
まだ黙っている。
朱里は、ルードレキを顔の近くにもってきた。ぎりぎりまで近づけると、ようやく表情が見える。
歯をむきだして、ぎりぎりと音をたてている。今にも、噛みつかんばかりだ。
思わず、笑ってしまう。その表情を読み取ったのか、シマリスはさらに興奮して、木剣を大きくふりあげた。こちらに投げつけたいらしい。
もう一方の手で、ひょい、と木剣をつまんでとりあげる。
ルードレキは、ようやくあきらめて、言った。
「……退却せよ」
*
半日後──
湖の北岸。
ナリーを中心に、マモー族たちがぞろぞろと並んでいる。
朱里は、肩から腰にまわした縄に、大きな布で包まれた魚をくくりつけている。全部で、七匹。大急ぎで煙でいぶしたあと、焼いたものだ。腰には、保存食のオオユカタケがみっしり入った袋がふたつ。
肩のうえに、ラードナーラが乗っている。変わらずの旅支度で、得意げに鼻を動かしながら。
族長が前にでて、
「ゼラ国とマリス国の境界に、大森林があります。そこを目指すとよろしいでしょう」と、いった。
「いやあ、おまえがいれば百人力だ」
ラードナーラは、早口でそういった。
「あなたは姫を助けにゆくんでしょう?」
朱里は、ラードナーラの頭をかるくつついた。どうも調子にのっているのではないか。
「大森林は、竜の巣からほど近いところにあるそうです。途中までは、一緒に行かれるがよろしいでしょう。我々は役目がありますので、この湖を長く離れることはできません。かれは旅慣れているようですから……」
族長がいうなら、と朱里は口をつぐんだ。
「では、ゆこう。いざ竜の巣へ!」
……やはり、まだ調子にのっているような気がする。
ともかくも、そういうことになった。




