剣士たち
突然、ナリーがびくんと震えた。
朱里はあたりを見回しながら、「どうしたの?」と尋ねる。
「あれだ、」とラードナーラがつぶやく。すこし緊張した声で。
朱里は、ラードナーラをきのこの傘のうえに降ろして、あたりを見回した。
少し離れたところに、なにかが動いているのが見える。こちらに向かっているようだ。
むろん、ラードナーラにははっきり見えていた。あれは、
「……討伐隊だ。」
ラードナーラは、朱里に聞こえるようにつぶやいた。
「……あいつは、ルードレキだろう。女王の信頼あつい、上級騎士のひとりだそうだ」
じっと、あいてのほうを睨みながら。
「へえ……」
朱里は、さして興味なさそうにつぶやいた。ラードナーラはかまわず、アカリタケの上からひといきに跳んで、地面に降り立った。
討伐隊は、もう目の前である。
隊長のルードレキは、かるく手で号令をかけて隊を止めた。20人隊の全員が、ひといきで足を止める。みな、同じ紋章のはいった上着とマントをつけ、剣をさしている。
「なんだ、貴様は」
ルードレキは、つめたい声でいった。ラードナーラに、道をふさがれた格好である。
「ジャスブルーのラードナーラ。義によって──」
言い終わるまえに、ルードレキの手が動いた。
一瞬後、ラードナーラの足元に、剣がからんと落ちていた。
かれの両手は、かるく握ったかたちで硬直している。
朱里にも、ナリーにも、なにが起こったかわからなかった。
むろん、ラードナーラは理解している。
ルードレキとラードナーラの間は、5歩ほど離れていた。
が、ラードナーラが名乗りをあげる間に、その距離は消えていた。
ひといきで、ルードレキがそこまで踏み込んだのである。
吐息がかかるほどの間近。ルードレキは姿勢を低くして、右手で腰の剣の柄を握っていた。
ラードナーラは、とっさに剣をぬいて、対抗しようとした。が、できたのは、そこまでだ。
気がつくと、ラードナーラの剣は地面に叩き落とされて、空手になっていた。
「……あー、」
ラードナーラは所在なげに両手を広げて、なにか言いかける。
「その……」
「拾え」
ルードレキは、鉄面皮のまま、そう言った。うしろの騎士たちも、微動だにしない。
「ああ、」
ラードナーラは、うろたえながら剣を拾って、鞘に収めようとする。
もう一度、動いた。
直後、ラードナーラの手にはまだ剣があった。二人は三歩ほど離れて、木剣を向けあっている。
ルードレキは、
「ほう、今のを避けるか」
左手をもう一本の剣の柄にかけた。
「いや、その……」
そのとき、
「もー、いい加減になさい」
巨大な手が、二人をつりあげた。




