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異世界八景  作者: 楠羽毛
地底の世界
36/206

剣士たち

 突然、ナリーがびくんと震えた。

 朱里はあたりを見回しながら、「どうしたの?」と尋ねる。

「あれだ、」とラードナーラがつぶやく。すこし緊張した声で。

 朱里は、ラードナーラをきのこの傘のうえに降ろして、あたりを見回した。

 少し離れたところに、なにかが動いているのが見える。こちらに向かっているようだ。


 むろん、ラードナーラにははっきり見えていた。あれは、


「……討伐隊だ。」

 ラードナーラは、朱里に聞こえるようにつぶやいた。

「……あいつは、ルードレキだろう。女王の信頼あつい、上級騎士のひとりだそうだ」

 じっと、あいてのほうを睨みながら。

「へえ……」

 朱里は、さして興味なさそうにつぶやいた。ラードナーラはかまわず、アカリタケの上からひといきに跳んで、地面に降り立った。

 討伐隊は、もう目の前である。

 隊長のルードレキは、かるく手で号令をかけて隊を止めた。20人隊の全員が、ひといきで足を止める。みな、同じ紋章のはいった上着とマントをつけ、剣をさしている。

「なんだ、貴様は」

 ルードレキは、つめたい声でいった。ラードナーラに、道をふさがれた格好である。

「ジャスブルーのラードナーラ。義によって──」

 言い終わるまえに、ルードレキの手が動いた。

 一瞬後、ラードナーラの足元に、剣がからんと落ちていた。

 かれの両手は、かるく握ったかたちで硬直している。


 朱里にも、ナリーにも、なにが起こったかわからなかった。


 むろん、ラードナーラは理解している。

 ルードレキとラードナーラの間は、5歩ほど離れていた。

 が、ラードナーラが名乗りをあげる間に、その距離は消えていた。

 ひといきで、ルードレキがそこまで踏み込んだのである。

 吐息がかかるほどの間近。ルードレキは姿勢を低くして、右手で腰の剣の柄を握っていた。

 ラードナーラは、とっさに剣をぬいて、対抗しようとした。が、できたのは、そこまでだ。

 気がつくと、ラードナーラの剣は地面に叩き落とされて、空手になっていた。


「……あー、」

 ラードナーラは所在なげに両手を広げて、なにか言いかける。

「その……」

「拾え」

 ルードレキは、鉄面皮のまま、そう言った。うしろの騎士たちも、微動だにしない。

「ああ、」

 ラードナーラは、うろたえながら剣を拾って、鞘に収めようとする。


 もう一度、動いた。


 直後、ラードナーラの手にはまだ剣があった。二人は三歩ほど離れて、木剣を向けあっている。

 ルードレキは、

「ほう、今のを避けるか」

 左手をもう一本の剣の柄にかけた。

「いや、その……」

 そのとき、

「もー、いい加減になさい」

 巨大な手が、二人をつりあげた。

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