ひとりめの騎士
遠くに、ぞろぞろと歩く20人ばかりの男たちが見える。
みな、腰に剣をさしている。そろいのジャケットに黒いマント。騎士団だろう。
あれが、討伐隊か。
こちらは高台である。周辺にアカリタケがないので、見咎められる心配はない。それでも、いちおう姿勢を低くして、じっと目をこらす。先頭の男が、隊長のようだ。
あの男。
背の高い、痩せた男。腰に、長剣を二本。大小、ではなく。それが印象深かったので、覚えている。女王即位10周年のパレードにいた、護衛騎士のひとりだ。女王のお気に入りだと、誰かがささやいていた。
たしか、ルードレキという名だ。
腹の虫が鳴った。さきほど、昼飯を喰いそびれている。
──いけすかない。
先ほどとらえた甲虫の脚を前歯でかじりながら、ラードナーラは眉をゆがめた。
*
ジャスブルーでのことを考える。生まれた村である。
20世帯くらいの、小さな村だ。
生まれて、一年のあいだ、おれはここで過ごした。
そのあいだ、村の外に出たのは、パレードを見に行った一回だけだ。
王都まで、たった2日歩けば着くというのにだ。それだって、親父と大喧嘩して、まるで家出するように飛び出したのだ。他のきょうだいたちは、一生村の中だけで過ごすだろう。
そういうことが、あたりまえの村だ。
外に出ようなどと、誰も考えもしない。交易商人や派遣役人は外からやって来て、しばらくするとまた出ていく。彼らは客で、他人だ。身内とは違う。
そういうところで、きょうだいと一緒にコウモリの面倒をみて、笛を吹いて、老いて死んでゆくのだ。
耐えられるわけがない。
だから、姫が、さらわれたと聞いたとき、
運命だと思ったのだ。ほんとうに。




