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異世界八景  作者: 楠羽毛
砂漠の世界
28/206

別れ

 二日後、夕刻。

 朱里は、歓声を背後にうけながら、早足で袖にひっこんだ。召使いがさしだすマントをさっと巻き付けて体をかくす。

「……堂に入ってきたじゃないか、」ズ・ルがたのしそうな声でいう。

「何回目だと思ってるの、」

「7回目かな、今日はこれで終わりだ。」

「けっこう」

 言いながら、足をとめない。ズ・ルは二歩はなれてついていく。

「衣装、なんとかなんなかったの?」

「きみの主張を取り入れたつもりだが。ずいぶん変更したんだぞ」

「アンタが最初に持ってきたやつ? あれはね、服っていわないの。」

「水袋人の考えることはわからんな」


 ……これだから、服を着ない種族は。


 朱里は自室にはいった。ドアのない部屋。そのかわり、部屋のなかほどに、うすぎぬの張られたパーティションが用意されている。そのむこうに、着替えが置いてある。

 ズ・ルは、入り口のところで、うしろをむいて立っている。

「パ・ルリに休みをあげたんですって?」と、マントを床に落としながら、朱里がきく。

「とぼけるなよ。君のさしがねだろう?」

「ちょっと勧めただけよ。長いこと無休で働かせてたんでしょう」

「失敬だな。休みはちゃんとやってる。」

「へえ、そう。」

 しばらく、沈黙。布のすきまにうつるシルエットに、衣ずれの音。

「……ちゃんと、会えただろうか。」

「さァ。……知らない。私たちは、部外者だから。」

 すこし、不自然な沈黙があって、布のむこうから、シッと叱るような声。

 ひとりごとだろうか。

「……ただいま戻りました、」

 遠くから、おだやかな、よく響く声がきこえてくる。

 パ・ルリだ。

 ズ・ルはいそいそと尻尾をうごかして、「今いく! アカリ、君もこい」

 さけんで、すぐに部屋をとびだした。


 やがて、ぱたんとついたてが倒れる。

 朱里の姿は、もうどこにもなかった。

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