別れ
二日後、夕刻。
朱里は、歓声を背後にうけながら、早足で袖にひっこんだ。召使いがさしだすマントをさっと巻き付けて体をかくす。
「……堂に入ってきたじゃないか、」ズ・ルがたのしそうな声でいう。
「何回目だと思ってるの、」
「7回目かな、今日はこれで終わりだ。」
「けっこう」
言いながら、足をとめない。ズ・ルは二歩はなれてついていく。
「衣装、なんとかなんなかったの?」
「きみの主張を取り入れたつもりだが。ずいぶん変更したんだぞ」
「アンタが最初に持ってきたやつ? あれはね、服っていわないの。」
「水袋人の考えることはわからんな」
……これだから、服を着ない種族は。
朱里は自室にはいった。ドアのない部屋。そのかわり、部屋のなかほどに、うすぎぬの張られたパーティションが用意されている。そのむこうに、着替えが置いてある。
ズ・ルは、入り口のところで、うしろをむいて立っている。
「パ・ルリに休みをあげたんですって?」と、マントを床に落としながら、朱里がきく。
「とぼけるなよ。君のさしがねだろう?」
「ちょっと勧めただけよ。長いこと無休で働かせてたんでしょう」
「失敬だな。休みはちゃんとやってる。」
「へえ、そう。」
しばらく、沈黙。布のすきまにうつるシルエットに、衣ずれの音。
「……ちゃんと、会えただろうか。」
「さァ。……知らない。私たちは、部外者だから。」
すこし、不自然な沈黙があって、布のむこうから、シッと叱るような声。
ひとりごとだろうか。
「……ただいま戻りました、」
遠くから、おだやかな、よく響く声がきこえてくる。
パ・ルリだ。
ズ・ルはいそいそと尻尾をうごかして、「今いく! アカリ、君もこい」
さけんで、すぐに部屋をとびだした。
やがて、ぱたんとついたてが倒れる。
朱里の姿は、もうどこにもなかった。




