表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界八景  作者: 楠羽毛
砂漠の世界
25/206

 朱里は、黙ってそこにしゃがみこんで、じっとしていた。

 ふつふつと、怒りがわきあがって来る。


 決めた。


「……あいつら、水ぶっかけてアタマ冷やしてやる」

「はあ!?」

「だいたいなんであたしがずぶ濡れになってんの。あいつらが濡れるべきでしょう」

「だからって……いや、それは、……ちょっと、落ち着きなよ」

 カセイジンは慌てたように朱里の首のまわりを飛びまわった。滑稽なほどくちばしを突き出して、触手をばたばた動かす。

「やめなよ。そんなことで、危険を犯すべきじゃない。どっちが勝ったとしても、きみは大事に扱ってもらえるはずなんだから──」

「そういう話じゃない」

「じゃあ、どういう話なのさ?」

「ギマとパ・ルリの話よ」

「何なの、それ?」

「カセイジン、私はね、──前のとき何もできなかったことを、ずっと後悔してるの」

「前って、シロハ王子のこと? どういう意味かよくわからないけど……あれは王家の問題で、キミは部外者じゃないか。何もできなかったって、気に病むことなんか──」

「部外者?」

 朱里は、ぐっとカセイジンのあたまをつかんで、口元にひきよせた。

「二度と、その言葉をわたしに使うな。わかった?」

 カセイジンは瞼をけいれんさせて黙ってしまった。

 朱里は、コントロールパネルに手をのばした。カセイジンが、ためらいながらもう一度、手元に寄ってきてつぶやく。

「……敷地ごと水没したら、どうするんだい」

「水量は調整できるんでしょ。そんなことにはならない」

「ていうか、あれだけ殺気だってる相手に、水なんかかけたって……」

 これ以上は無視することにして、朱里はレバーに手をかけた。


 がしゃんと、大きな音をたてて、

 ポンプが加速する。



 いちおう、考えがないわけではなかった。

 風の民は水を嫌う。それでなくとも、豪雨のような水しぶきがあたりを包めば、視界は極端に悪くなる。もともと視力も悪いから、まともに行動できなくなるかもしれない。

 その混乱に乗じて、外に出て、パ・ルリとギマをさがす。

 ついでに、グーラニがいたら、一発蹴っ飛ばしてやる。


 その先は、まだ考えていない。


 ともかくも、朱里は、バルコニーに出た。そろそろ暗くなるころではあるが、ここからならかなり遠くまで見渡せるはずだ。

 いっそ、ここから演説してやろうか。

 やつら、目を丸くするだろう。もしかすると、それだけで引き揚げる気になるかもしれない。そんなことを妄想する。

 やはり、水しぶきがひどい。水はかなり上空まで噴き上がって散っているので、塔のまわりだけ特別水勢が強いわけではないが、それでも、バルコニーの中に、横殴りに水が吹き込んでくる。

 目を細めて水をよけ、下をみる。


 なにか、おかしい。


 朱里は、言葉を失った。

 塔の正面にいたらしき暴徒たち、……それから、少し遠く、見わたすかぎりオアシス・プールの屋外にいるすべての風の民たちが、みな、倒れ伏して動かなくなっていた。

 ほどなく陽は沈み、噴水は止まった。それまで、朱里はそこに立ちつくしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ