なつかしい声
加速──、
いや、落下。
ごうごうと、うなるような音とともに、かすかな振動、それからベルトに押しつけられるような感覚、きゅうっと胃が痛むような。
もう、ずいぶん時間がたったような気がする。
それとも、ほんの数十秒か。
地上まで、そんなに時間はかからないはずだ。海上につく前に、自動的にパラシュートがひらく。降りたらベルトが外れるから、通信でサポートを受けながら、まず現在地を把握して……、
考えているうちに、意識がぼんやりしている。
なんだか、夢を見ているみたいだ──、
がが、とノイズのような音。
はっと目をさます。あたりを見回す。エミーが、こちらを見ている。
さっきまで、まぶたを閉じていたはずだ。それに、頭が動いている。
「エミー……、」
小さく、つぶやく。
『ステーションの管理者です。朱里、きこえますか』
どきん、と心臓がはねる。エマの声ではない。
「きこえます!」
大声でさけぶと、早口の返答がかえってくる。
『緊急の連絡です。ライト研究員にも同時にお伝えしています。いま、別世界からの通信と思われる現象が──、』
「なに!」
身をおこしかけて、ベルトに阻まれる。外の音がうるさい。ぎりりと奥歯をかむ。
『以前の現象とはちがい、とても明確で、──ある種の言語による通信だと思われます。通信の内容は、以下のとおりです。英語で申し上げます』
「はやく!」
『……こちらは、宇宙船デイジーベル。通信担当は、船長代理、当直のデイジー。だれか、聞こえていますか。だれか──、』
「デイジー!」
叫ぶ。あらんかぎりの声で。
その声が、直接あいてに伝わるわけではないと、わかっていた。まして、その相手が、ほんとうに自分の知っているデイジーなのか──、
わからない。が、
「デイジー! わたしはここ!」
もう一度、叫ぶ。
「朱里、」
また、だれかの声。こんどは、エミーの声帯からではない。
すぐ、耳のそばから。
「カセイジン! どうして、……」
空中に浮いている、タコのようなホログラム映像。くちばしをぐいっとこちらに突きつけて、早口で、
「やっと、修復が終わったんだ。想定外の転移現象に巻き込まれて、空間ブイが外れちゃってたみたいで……」
「待って、」
必死で考える。いま、落下中。地上まで、そんなに時間はない。
「まってよ! 今……、」
「待てないよ! また、別の宇宙の要素がこちらに転移しようとしてる。巻き込まれたら、こんどこそシステムが修復不能になるかも。とにかく、今回で最後だよ。いよいよ、きみの故郷に──、」
「待ってってば! だめなの、今!」
腕輪が、光る。
何度も、何度も経験した、転移の感覚。無重力と似ている。
「だめ! まだ途中なの!」
身体感覚が消えていく。最後の意識をふりしぼって、ベルトを外して、荷物をひっつかむ。
エミーと目があう。ちくり、と胸が痛む。なにか言おうとする。唇が開く前に、意識が消えていく。
*
わたしは、いつでも、途中で──、




