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異世界八景  作者: 楠羽毛
未来の世界
205/206

AI群構造体

挿絵(By みてみん)

「それじゃ、」

 エマが、ポッドから出る。発射口を兼ねた小ドックの気密ドアに、かるく手をかけたところで、

「ねえ!」

 朱里の声。自動で閉まりつつある、ポッドの出入り口のすきまから。

「なあに、」

「昇降機の修理、どのくらいかかるの?」


 小さく、


 さァ、とつぶやいて、エマはドックを出た。



 数年か、数百年か、それとも、もっと先か。

 なにしろ、資材がないので。



 ふたたび、管理室。

『よろしいのですか』

「……なにが?」

『地上の様子は、まったく不明です。彼女(かのじょ)たちだけで、無事に生きていけると思いますか?』

「それは、なんとも。」

『先ほども申し上げましたが、この場合、もっとも可能性が高いのは、わたしがスリープしている間に、人類そのものが……』

「だって、仕方ないでしょう」

『仕方、ありませんか』

「他に、降ろす方法がないんだから。修理のメドがついていたら、私だって……」

『……あなたも、一緒に降りようとは思わなかったんですか?』

「わたしが? なぜ?」

『……エミーを、愛しているのでは?』

 思わず、笑ってしまう。

 AIに、まさかそんなことを。

「愛してるよ。……でも、人間が人間を愛するのとは、違うんじゃないかな。たぶん」

『……どういう意味です?』

「さァ。私も、よくわかんない。……でも、覚えてるから」

『なにを、ですか』

「エミーを。それで、別にいいから。……モノには執着(しゅうちゃく)しないの、わたし」

『そう、ですか』

「それよりも、さ」

 大きく、伸びをする。

 自然と、口元がゆるむ。着陸ポッドのほうは、トラブルがおこらないかぎりこちらで判断することはない。少なくとも、今のところは。

「もっと、お話しようよ。時間は、たっぷりあるんだから。……AI構造体について、初歩から学びたいっていったでしょう? それから、別世界理論のことも!」


 

 そう、時間はたっぷりある。

 わたしは、まだ若いんだから。

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