AI群構造体
「それじゃ、」
エマが、ポッドから出る。発射口を兼ねた小ドックの気密ドアに、かるく手をかけたところで、
「ねえ!」
朱里の声。自動で閉まりつつある、ポッドの出入り口のすきまから。
「なあに、」
「昇降機の修理、どのくらいかかるの?」
小さく、
さァ、とつぶやいて、エマはドックを出た。
*
数年か、数百年か、それとも、もっと先か。
なにしろ、資材がないので。
*
ふたたび、管理室。
『よろしいのですか』
「……なにが?」
『地上の様子は、まったく不明です。彼女たちだけで、無事に生きていけると思いますか?』
「それは、なんとも。」
『先ほども申し上げましたが、この場合、もっとも可能性が高いのは、わたしがスリープしている間に、人類そのものが……』
「だって、仕方ないでしょう」
『仕方、ありませんか』
「他に、降ろす方法がないんだから。修理のメドがついていたら、私だって……」
『……あなたも、一緒に降りようとは思わなかったんですか?』
「わたしが? なぜ?」
『……エミーを、愛しているのでは?』
思わず、笑ってしまう。
AIに、まさかそんなことを。
「愛してるよ。……でも、人間が人間を愛するのとは、違うんじゃないかな。たぶん」
『……どういう意味です?』
「さァ。私も、よくわかんない。……でも、覚えてるから」
『なにを、ですか』
「エミーを。それで、別にいいから。……モノには執着しないの、わたし」
『そう、ですか』
「それよりも、さ」
大きく、伸びをする。
自然と、口元がゆるむ。着陸ポッドのほうは、トラブルがおこらないかぎりこちらで判断することはない。少なくとも、今のところは。
「もっと、お話しようよ。時間は、たっぷりあるんだから。……AI構造体について、初歩から学びたいっていったでしょう? それから、別世界理論のことも!」
*
そう、時間はたっぷりある。
わたしは、まだ若いんだから。




