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異世界八景  作者: 楠羽毛
未来の世界
204/206

おちついた気持ちで

挿絵(By みてみん)

「ベルトは、固く締めないと危ないからね」

「うん。」

 朱里は、ちいさくうなずいて、腰のベルトをたしかめた。

 4畳半もない、せまっくるしいカプセルの中。

 天井はとても低くて、朱里がまっすぐ立っただけで頭をぶつけそうだ。照明もなんだか暗くて、赤い灯りが、ボンヤリと頭上にあるだけ。

「……やめてもいいよ。ここに残れば、少なくとも安全なんだし」

 そういわれて、首をふる。それよりも、伝えなければならないことがあった。

「わたし、……でも」

 すぐそばにあるエマの顔にむけて、ささやくように。

「……ほんとうのことをいうと、もうすぐ……、」

「次の世界へ、いってしまう?」

 先回りされて、朱里は言葉を失った。

「ここにきた日に、言ってたじゃない。わたしは、あまりまともにとりあわなかったけれど……」

「それじゃ、……」

「でも、その腕輪、……壊れているんでしょう」

 それは、と小さくつぶやいて、朱里は目をふせた。

「だいじょうぶ。あなたが消えてしまっても、エミーが任務を遂行(すいこう)する。そういうふうに、……したから」

 エミーは、動かない。

 ポッドの中心。座席もない平らな床に、直接ベルトで固定されて。

 体育座りの姿勢。背中に、大きなランドセルくらいの箱。首すじに、親指よりも太いコードが刺さっている。

(……なんか、手術台みたい)

 そう、思う。

「ミラーAIはパッケージの奥に(かく)して、人工知能未満の行動ルーチンだけ表に出したの。その箱は、補助電脳。それだけあれば、一応自律して動けるから。会話は無理だけど」

「……しゃべれないの?」

「この基地から電波で中継(ちゅうけい)するから。通信が切れないかぎり、自律判断の必要性もないよ。だいじょうぶ」

「うん、……ねえ」

「え?」

「エマは、どうするの?」

 たずねると、エマはほんの少し沈黙してから、目元をぎゅっと細めて、おちついた声で答えた。

「ここで、あなたたちのサポート。当分のあいだは」

「でも、……降りるポッドは、これひとつなんでしょ」

「とりあえずはね。……昇降機の修理のメドがつけば、いくらでも()き来ができるから。そのためにも、あなたたちに地上の様子を見てきてもらわないと。……まずは、海上基地の状態をね」

 うん、と頷く。


 不安はない。

 少なくとも、いまは。

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