おちついた気持ちで
「ベルトは、固く締めないと危ないからね」
「うん。」
朱里は、ちいさくうなずいて、腰のベルトをたしかめた。
4畳半もない、せまっくるしいカプセルの中。
天井はとても低くて、朱里がまっすぐ立っただけで頭をぶつけそうだ。照明もなんだか暗くて、赤い灯りが、ボンヤリと頭上にあるだけ。
「……やめてもいいよ。ここに残れば、少なくとも安全なんだし」
そういわれて、首をふる。それよりも、伝えなければならないことがあった。
「わたし、……でも」
すぐそばにあるエマの顔にむけて、ささやくように。
「……ほんとうのことをいうと、もうすぐ……、」
「次の世界へ、いってしまう?」
先回りされて、朱里は言葉を失った。
「ここにきた日に、言ってたじゃない。わたしは、あまりまともにとりあわなかったけれど……」
「それじゃ、……」
「でも、その腕輪、……壊れているんでしょう」
それは、と小さくつぶやいて、朱里は目をふせた。
「だいじょうぶ。あなたが消えてしまっても、エミーが任務を遂行する。そういうふうに、……したから」
エミーは、動かない。
ポッドの中心。座席もない平らな床に、直接ベルトで固定されて。
体育座りの姿勢。背中に、大きなランドセルくらいの箱。首すじに、親指よりも太いコードが刺さっている。
(……なんか、手術台みたい)
そう、思う。
「ミラーAIはパッケージの奥に隠して、人工知能未満の行動ルーチンだけ表に出したの。その箱は、補助電脳。それだけあれば、一応自律して動けるから。会話は無理だけど」
「……しゃべれないの?」
「この基地から電波で中継するから。通信が切れないかぎり、自律判断の必要性もないよ。だいじょうぶ」
「うん、……ねえ」
「え?」
「エマは、どうするの?」
たずねると、エマはほんの少し沈黙してから、目元をぎゅっと細めて、おちついた声で答えた。
「ここで、あなたたちのサポート。当分のあいだは」
「でも、……降りるポッドは、これひとつなんでしょ」
「とりあえずはね。……昇降機の修理のメドがつけば、いくらでも行き来ができるから。そのためにも、あなたたちに地上の様子を見てきてもらわないと。……まずは、海上基地の状態をね」
うん、と頷く。
不安はない。
少なくとも、いまは。




