においと、ぐしゃぐしゃの髪の毛
「アカリ!」
どん、と大きな音。
天井をけって、ぐいとエアロックに入ってくる、女の白い手。
「そんなところで、何してるの?」
エマの声。つづいて、頭がぐいと入ってくる。ずっと洗っていない金色の髪が、ばさりとエアロックに流れる。
心配して、というふうではなく。
早口で、どこか遠いところをみるように、くるくると目線をさまよわせえながら。
「べつに、……」
エアロックの隅に、ちょこんと体育座りをしてうつむいていた朱里は、ちいさく顔をあげた。
「べつに、なにも。」
「まあいいけど。……ちょっと来られる?」
「うん、」
ゆっくりと身をおこして、とんとエアロックの枠を蹴る。床から顔をだした瞬間、かすかに空気が動いて、
「あれ」
エマが顔をしかめる。
「アカリ、あなた身体拭いてないんじゃない? 清拭シートがあったでしょう」
「え、」
きょとんと、朱里は目をしばたかせた。それから、エマの顔にぐいっと鼻を近づけて、思わず吹き出す。
「……あなたにだけは言われたくない!」
「え?」
ふたりは、じっと顔を見あわせて、互いの匂いと、ぐしゃぐしゃになった髪を確認して、
あはは、と笑った。




