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異世界八景  作者: 楠羽毛
未来の世界
201/206

自由な宇宙、へ

挿絵(By みてみん)

 かたん、かたん──、


 朱里は、ぼんやりと床に手をついて、地球をながめていた。

 微小重力。床をちょっと押すだけで、ふわりと浮く。

 床に開いた、まんまるの窓、地球向きのエアロックの入り口。ガラスのように透明(とうめい)な素材をとおして、地球がみえる。

 青い球体。

 ところどころ、白いかすみがかって、緑とうす茶色の陸地が、ちいさくまだらになっている。

 いつか見た、写真そのまんまの。

(地球、かわってないんだ)

 そう、思う。

 あの地球の、どこかに、生まれた町があって、家族や、友達(ともだち)が──、

 それとも、とっくの昔に、みんな死んでしまっているんだろうか。

 

 それもいいな、と思う。

 どうせ、どこにいたって──、


 ぼんやりと、地球をながめる。

 とくん、と心臓が大きくはねる。まばたきができなくなって、息が止まりそうになる。

 足もと。

 はいつくばって、もう一度確認する。いや、確認する寸前で、目をそむける。見たくない。なぜか、そう思う。


 日本列島が、たしかに、見えた。


 もしかして、あそこに──、いるのか。

 ──、が。


 かちっ、かちっ、と、目の裏でなにかが明滅(めいめつ)する。

 気分がよくない。

 手が勝手に動いて、エアロックのハンドルを回そうとする。宇宙服を着ているわけでもないのに。

 ぐるり、とまず一回転。

 この扉をあけても、すぐに外に出られるわけではない。狭い、気密された小部屋をぬけて、二重扉(にじゅうとびら)の奥から、ようやく出られるのだ。

 宇宙へ。

 自由になれる。なぜだか、そう思った。

 ぐるり、ぐるり、ぐるり──、

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