自由な宇宙、へ
かたん、かたん──、
朱里は、ぼんやりと床に手をついて、地球をながめていた。
微小重力。床をちょっと押すだけで、ふわりと浮く。
床に開いた、まんまるの窓、地球向きのエアロックの入り口。ガラスのように透明な素材をとおして、地球がみえる。
青い球体。
ところどころ、白いかすみがかって、緑とうす茶色の陸地が、ちいさくまだらになっている。
いつか見た、写真そのまんまの。
(地球、かわってないんだ)
そう、思う。
あの地球の、どこかに、生まれた町があって、家族や、友達が──、
それとも、とっくの昔に、みんな死んでしまっているんだろうか。
それもいいな、と思う。
どうせ、どこにいたって──、
ぼんやりと、地球をながめる。
とくん、と心臓が大きくはねる。まばたきができなくなって、息が止まりそうになる。
足もと。
はいつくばって、もう一度確認する。いや、確認する寸前で、目をそむける。見たくない。なぜか、そう思う。
日本列島が、たしかに、見えた。
もしかして、あそこに──、いるのか。
──、が。
かちっ、かちっ、と、目の裏でなにかが明滅する。
気分がよくない。
手が勝手に動いて、エアロックのハンドルを回そうとする。宇宙服を着ているわけでもないのに。
ぐるり、とまず一回転。
この扉をあけても、すぐに外に出られるわけではない。狭い、気密された小部屋をぬけて、二重扉の奥から、ようやく出られるのだ。
宇宙へ。
自由になれる。なぜだか、そう思った。
ぐるり、ぐるり、ぐるり──、




