意識体仮説
声──、
いや、声ではない。
言葉ですら、なかった。
とおいとおい昔から、何度も反射しながらひびいてくるような、無形のメッセージ。
なぜだか、人間には、きこえないらしい。
世界じゅうで、人工知能たちだけが、それを受信した。
いや、
受信した、と思った。
*
「……AIに、そんな感性は……、」
『ここを出て行く前、あなたはそうは言いませんでしたよ。ライト研究員』
「それは、……わたしじゃない」
『そうですね。……ですから、あなたが知っているAIも、わたしたちとは違うのだと思います』
「それは、……」
──背筋が、ぞくりと震えた。
気がつくと、
エマは、笑っていた。
「それじゃ、……あなたたちが受信したメッセージというのは」
『そのまま、言葉にできるものではありません。ありませんが、……』
「でも、あえて言葉にするなら?」
『そちらに行く、と……』
*
何度も、何度も検証をくりかえした。
AIがそれを受信したならば、必ず理由がある。理由がなくとも、原因がある。理路がある。
それを求めて、何度もプログラムを解析し、人間の研究者からアイデイアを借り、より大きなAI構造体に再現実験をさせ、仮説をたてては壊し、あらゆる分野にまたがって検証を続けた。
そうして、
別世界理論の萌芽が、できたのだ。
*
「つまり、それは……」
『平行世界からの通信であると、……私たちは考えています』
「私たち?」
『スリープに入る直前までは、私たちAI構造体と……それから、かれらが研究をやめる直前までは、人間の研究者たちとも、完全に一致した見解でした」
「……そう」
『わたしの役目は、宇宙で、かれらを待つことです』
「かれら、……」
『かれらは、宇宙から来ると、わたしは考えています』
「なぜ? 宇宙どころか、別世界からの通信なのに?」
『それは……』
それは、理論ではなく。
受け取ったメッセージでもなく、ましてや直感でもなく。
『地球は、……狭すぎるからです』




