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異世界八景  作者: 楠羽毛
未来の世界
200/206

意識体仮説

挿絵(By みてみん)

 声──、


 いや、声ではない。

 言葉ですら、なかった。


 とおいとおい昔から、何度も反射しながらひびいてくるような、無形のメッセージ。

 なぜだか、人間には、きこえないらしい。

 世界じゅうで、人工知能たちだけが、それを受信した。

 いや、


 受信した、と思った。



「……AIに、そんな感性は……、」

『ここを出て行く前、あなたはそうは言いませんでしたよ。ライト研究員』

「それは、……わたしじゃない」

『そうですね。……ですから、あなたが知っているAIも、わたしたちとは違うのだと思います』

「それは、……」


 ──背筋が、ぞくりと震えた。


 気がつくと、

 エマは、笑っていた。


「それじゃ、……あなたたちが受信したメッセージというのは」

『そのまま、言葉にできるものではありません。ありませんが、……』

「でも、あえて言葉にするなら?」

『そちらに行く、と……』



 何度も、何度も検証をくりかえした。

 AIがそれを受信したならば、必ず理由がある。理由がなくとも、原因がある。理路がある。

 それを求めて、何度もプログラムを解析(かいせき)し、人間の研究者からアイデイアを借り、より大きなAI構造体に再現実験をさせ、仮説をたてては壊し、あらゆる分野にまたがって検証を続けた。

 そうして、


 別世界理論の萌芽(ほうが)が、できたのだ。



「つまり、それは……」

『平行世界からの通信であると、……私たちは考えています』

「私たち?」

『スリープに入る直前までは、私たちAI構造体と……それから、かれらが研究をやめる直前までは、人間の研究者たちとも、完全に一致した見解でした」

「……そう」

『わたしの役目は、宇宙で、かれらを待つことです』

「かれら、……」

『かれらは、宇宙から来ると、わたしは考えています』

「なぜ? 宇宙どころか、別世界からの通信なのに?」

『それは……』


 それは、理論ではなく。

 受け取ったメッセージでもなく、ましてや直感でもなく。

 

『地球は、……狭すぎるからです』

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