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異世界八景  作者: 楠羽毛
砂漠の世界
20/206

オアシス・プール


 ふたたび、現在──



 人影。ふたりきりだった食堂に、小柄な風の民が勢いよく入って来る。

 ズ・ルである。パ・ルリは一度片付けようとした盆をおいて、ズ・ルに正対した。

「アカリ。提案がある」

 パ・ルリの横をすっと素通りして、ズ・ルは朱里の近くに立った。

「なに、やぶからぼうに。」

「水袋人が、まだ生き残っていたというのは、大発見だ。」

「そうでしょうね。」

 意図がわからず、首をかしげる。ズ・ルはかまわず続ける。

「このさい、協力してほしい。」

「はあ?」

「復活した水袋人が民衆の前に出て、おれを持ち上げてくれれば、評判はうなぎのぼりだ。」

「はあ……」

 想像してみたが、よくわからない。この世界にうなぎはいるのか。そんな馬鹿なことを考える。それから、

「水袋人って、なんなの?」

「おまえだ」

「そういうことじゃなくて……」

「本当に知らんのか? この大陸の先住民だよ。どこか別の場所にはまだ生き残ってるとも言われているが。」

「どこかって、どこ?」

「そりゃ、おれがお前に聞きたいよ」

「……それは、そうね。」

 ざっくり話した覚えはあるが、まあ理解してもらえたとは思っていない。

「まあいい。昔のことはよくわからないが、おれたち風の民の文明は、水袋人の技術をもとにしているという連中もいる。おれは、信じていないがね。」

「なんで信じてないの?」

「おまえを見たからさ。おまえの体も、身につけていたものも、あまりに俺たちと違いすぎる。水袋人の後継者が我々だとは思えん」

「ふーん……」

「まあそれはいい。問題は、それを信じてるやつがたくさんいるってことだ。……つまり、水袋人こそ、おれたちに文明をもたらした偉大な存在だと考えられてるわけだ」

「なるほどね。……わかった。」

 ようするに、神様のようなふりをして、ズ・ルの都合のいいように喋れということか。

「わかったか? それじゃ……」

「けど、……」

 朱里は、ちょっと迷ってから、首を横に振った。

 パ・ルリからきいた話が、頭にちらつく。それから、ギマの顔も。

「……悪いけど、断る。」

「そうか、わかった」

 意外なほどあっさりと、ズ・ルはひきさがった。

「ところで、お前の喜びそうな場所があるぞ。水が好きなんだろう」

「え?」

 急な話題転換に、朱里はきょとんとして問い返した。

「オアシス・プールと呼ばれている。まあ、人工の泉だな。湖とでも言うかね。行ってみたければ、パ・ルリに案内させるが」

 朱里は、勢いよくうなずいた。水気があるところなら、どこへでも。そんな気分だった。

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