群知能体
「それは、……人間に、そう指示されたから?」
『いいえ。研究活動のイニシアチブは、とっくに人間から、わたしたちに移っていました。それでも、人間の科学者たちは、わたしの大切な仲間でした』
「……わたしたち?」
『便宜上の区別でしかありませんが、……わたし、は宇宙を担当しています。地球の人工知能群とは、いま、連絡がとれないようですね』
「人工知能群……」
『群、と呼ぶのも、やはり便宜上のことです。わたしたちは、人間とはちがって、簡単に融合したり、分離したりするので……個と群の区別も、ただのアクセス権限の違いにすぎませんから』
「それで、……ここを去った人間たちは、どうなったの?」
『わかりません。ずっとずっと前のことですし、わたしがスリープしている間に、地球と連絡がとれなくなってしまったので』
「なぜ、……」
『原因不明です』
返事は、あまりにも簡潔だった。
きりきりと奥歯をかむ。ともかく、先を続ける。
『人間たちがここを去った理由は?』
「単に、いる必要がなくなったからです。別世界理論の発展に、もはや人間による研究は必須ではありませんでした。残り少なくなった人類が最大限の幸福を享受するには──』
「残り少なくなった?」
『ええ。……あなたの知っている地球では、そうではないのですか? 人類は、特にこれ以上増える必要がなかったので──、』
「増える必要、って。……だれが、判断したの?」
『別に、だれも。個々人が、それぞれAIのサポートを受けながら、個人としての幸福を追求した結果、……生殖は、それほど大きなファクターではなかったということです。……それに、』
「それに?」
『生殖行為の結果、……幸福を享受する権利のある存在が、世界にひとり増えることになります。人類ひとりひとりの幸福を極限まで追求するにあたり、その要素が──、』
「……もういいわ」
興味のない分野の話になってきた。ともかく、
「ようは、あなたの世界では、わたしの思ってるよりずっとずっと、世界じゅうで少子化が進んで、人口が減っていたということでしょう」
『その理解で問題ありません』
「で、……その、人類の幸福? に関係なく、別世界理論、の検証を、どうしてそんなに……、」
『それは、……』
管理者は、奇妙な間をしばらくおいて、……まるで人間みたいに、しずかに、言った。
──それが、私の役目でした。